散らリズム劇場

佐藤凛

散らリズム劇場

鏡の前で自分を見つめると嫌な気分になる。


なんて私はのうのうと努力もしないで生きてきたのだろうと思う。


とりあえず私の目の色が黒色でうざったらしいので、青色のカラコンを入れた。少しはあの人みたいに成れたかな。成れるわけないだろ!不細工!


手首を見ると傷だらけで鬱になる。誰にも言ったことがないけれど、これは安定剤でもある。どんな精神科のどんな薬よりも、リスカの痕だけが私を特別だと思わせてくれるから。可愛い。


アイドルはみんな肌が白いのはなんでなの。そんなに白いと私たちが困るのですけれど。私は残り少ない日焼け止めを薄く薄く塗り伸ばした。これ以上黒くなりませんように。


下地は茶々っと終わらせて、コンシーラーをあてていく。ニキビはどうしても隠したい。そのあとにパウダー。私のボロボロの肌が少しはマシに見えてくる。すぐにそんなこと考えてしまう自意識過剰なところが嫌い。あぁ嫌い嫌い。でもちょっと好き。やっぱり嫌い。


鏡に顔を近づけて眉毛を描く。こないだ百均で買った四代目手鏡はその日に無くしてしまった。ちなみに一代目も二代目も三代目も、全部その日に無くしている。多分、私の部屋はいづれ手鏡のお城になっていると思う。なんか笑えてきた。


近づけた顔はそのままに、涙袋を作る。よくよく考えたら涙袋を作るってなんだ。この過程が一番の敗北感が襲ってくる。あの子は涙袋なんて作んなくていいのに。私だけせっせと作ってて馬鹿みたい。いや、馬鹿だったわ。私。


アイシャドウは少し大げさくらいが丁度いい。だってこっちの方がビジュいい気がするし。周りからどう思われようが関係ないって思うようにしてる。形だけだけど。


まつげが長いのが私の唯一の自慢。これだけは誰にでも見せびらかせる。だから、これでもかというほど上げる。束感を意識して上げるといい感じ。あ、私可愛いかも。アイライナーを描いて、リップを描けば完成。私、誕生!


今日の私は可愛いかもね。だいぶ可愛いよね。うん。気分がすごく良い感じ。って思えてたら楽なんだけどね。これで、私はやっと人並み。相手にされなかった猿みたいな顔が、人になった感じ。


はぁ、なんか鬱。なんでこんなことしてるんだろうな。別に外にも出ないのに。閉めっぱなしのカーテン。あえてつけない電気。八割残したカップ焼きそば。全部食べてしまったチョコ。全部開けたままのストゼロ缶。捨ててないゴミ袋。少し刃が出たカッターナイフ。散らかった部屋。精神科からもらった薬。あ、手鏡。これは二代目。拾って覗くと写るのは鏡越しの化け物。私。嫌いだわ。


ひたすらに嫌なことから逃げるための部屋が一番現実を見せてくる。


でも、いいの。こんなのも今日で終わり。知らないもん。こんな部屋、こんな私、こんな生活。


私は精神科の薬を漁って、睡眠薬を取り出した。どれくらいで死ねるんだっけ。いいや。とりあえず全部飲んじゃおう。三十錠の睡眠薬を手に乗せてみた。なんか物足りない。最後なんだからもっと飲んでみよう。安定剤やらなんやら。全部を取り出して、やっぱり多すぎて辞めた。結局、手のひらで覆っている分だけ飲もう。最後の晩餐はこれで決まり。


飲み物を探す。皮肉にもピンクのモンスターが栓が閉まったまま残っていた。私はそのぬるいモンスターを片手で何とか開ける。そして人生で初めてストローを挿さずに飲んでみた。甘い。


一気に全部はさすがに無理なので、十錠ずつくらい流し込んでいく。


金子みすゞは唄うのだ。「みんなちがって、みんないい。」いいね。染みるよ。私も私でいいのかな。


でもね、私は地面を速く走れない。私はたくさんの唄は知らない。


私は小鳥になりたいし、私は鈴になっていたかった。


だから最後くらい、人でいさせて。もうすぐこの部屋と同じようになるんだから。

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