第16話 訓練

「モンスターの出現がおかしい?」

「そうみたいね。馬鹿みたいに増えるホーンラビットがいなくなっているみたい。安い肉の代名詞だったのに、今じゃ高級肉」

「その分、オークが獲れて、釣り合いは取れているみたいですね」


「ホーンラビットは駆け出しだろ。オークはきついんじゃないか」

「まあね。駆け出しに死傷者が多数出てる。中堅はオークが獲れてウハウハよ」

「身の丈に合わないモンスターに挑戦して失敗するのは、馬鹿のすることです」


「ゴブリンに捕まってたカンナが言う台詞じゃないな」

「そろそろオークも獲れなくなるんじゃない」

「そうなるとここら一帯から冒険者が減りますね」


「カンナ、話題を変えたな。浮き沈みの大きい稼業だからな冒険者は」


 念話を拾う。


『オークが減り始めた』

『また何年かほとぼりを冷ませば、元通りだよ』

『くそっ、駆け出しに厳し過ぎる』

『他所の街に行くことを考えた方が良いな』

『ヒモの奴がいけないんだ。全てあいつのせい』

『あいつ良い所があるよ。女を紹介してくれたし』

『くそっ、ついてない』

『5番目が魔法行使した跡を見て来た。凄かった』

『ヒモになりたい』


 ろくな会話がない。

 オークが減り始めたって早すぎないか。

 何か原因があるのかな。


「師匠、教えて下さい。綺麗にするのはできるようになりました」


 ああ、魔法を綺麗に消せるようになったんだな。


「自分のなら綺麗にできて当たり前だ。ひとのを綺麗にできてこそ一流だ。頑張れ」


 自分の魔法なら綺麗に消せる。

 他人のを消せないと戦力にはならない。


「じゃあ、付き合って下さいよ。沢山放って下さい♡」


 魔法をな。


『くそっ、何の話だ。エッチの後処理の話か』

『羨ましい。こうやって調教していくんだな』


「あたいも付き合ってもらうぜ。夜に運動して、汗をながそう」


『運動。興味ある』

『あー、彼女欲しい』


 お前ら欲求不満だろう。

 エロだと思うなよ。

 健全な訓練だ。


 まず、カンナからだな。


「念話」

『火球飛べ!』


「火魔法【消えて下さい】。駄目です。他人の魔法だと消せません」

「大きな声で命令すれば楽勝なんだけどな」

「師匠を基準にしてもらったら困ります。コツとかないですか」

「うーん、消えろって命令しているだけだし」


 どう考えたら良いのかな。

 魔力は思念に従って色々な事象を起こす。

 他人の魔法は他人の思念で塗り固められているわけだ。

 俺は、大声でこっちの思念に染めて命令する。

 つまり他人の魔法を乗っ取るワンアクションが要るってことかな。


「何か思いつきました?」

「他人の魔法の魔力を自分の魔力で塗り替えて好き勝手する」

「ええと事象にしてない魔力の塊をぶつけろってことですか」

「やってみろよ」


『火球飛べ!』

「ぐぬぬ。あっ、押し勝ちました。消えろ。やった、消せました」

「同等以上の魔力をぶつけないと駄目みたいだな。魔法威力増幅のスキルは効いているんだろう。じゃあ無敵だな」

「師匠には敵いませんけど」

「まあな。カンストは伊達じゃない」


「土魔法を放って下さい」

「よし行くぞ」

『石礫』

「ぐぬぬ。火魔法【火球になって反転】」


 石礫が火球になって向きを反転した。


『消えろ!!!』

「消されちゃいました」

「まだ負けないよ。将来的にはどうなるか分からないけど」


「準備運動は終わったよ。今度はあたいと手合わせだ」

「よし、やろう」


 木剣を構える。


『右に打ち込むと見せかけて左』


 レベッタの念で打ち込みが、手に取るように分かる。

 余裕でガード。

 返す刀で打ち込む。


『ふう、危ない』


 力を入れて押す。


『引くか』


 いや更に押す。


『くっ、読み合いでは勝てない。無心だ無心』


 そう簡単に無の境地になれたら、達人だらけだ。


『足を払って、隙ができたら頭だ』


 やはり無心にはなれないよな。

 余裕で捌く。


 それから何度もやり取りした。


「そろそろ中断しよう」

「ええ。いい汗かいたわ。動きを読む敵に対しての対処は上手くなった気がするぜ」

「無心は無理か。じゃあ良い事を教えてやるわざと別のことを強く考えるんだ」

「妨害するってか。ラウドに対してはそれで良いけどよ。目線とかで読まれている敵には役に立たない」


 むーん、俺は剣士じゃないから、アドバイスはできないな。

 フェイントとか覚えたら良いんだろうけど。

 念話ならフェイントには引っ掛からない。

 その技術は俺には通用しないが、他の奴なら大いに役に立つ。

 俺がフェイントするなら、念話で攻撃をぶち当てるとかかな。

 頭を打つイメージを念話で送れば、頭を打たれたと勘違いする。

 念話フェイントの完成だ。


「ちょっと俺流のフェイントをしてみたい」

「やってみて」


『頭!』


 頭を打たれてないのに、レベッタはガードした。

 胴ががら空きだ。

 俺は軽く打ち込んだ。


「くっ、実際に頭を打たれた気がした」

「俺がやるフェイントだ」

「感覚を覚えたい」


 レベッタに何度も念話の剣を打ち込む。



「念話スキルで念を送ったんだよな。あたいがやるなら剣気で打つかな。なんかできそうだ」

「やってみろ」


『頭を打つ』


 俺は頭を木剣で打たれた気がした。

 凄い、念を剣から出せるなんて。


 剣気か。


「達人だな」

「よせやい。ラウドの念話で念というものが何となく掴めたんだよ。さすがに何度も念を食らえば分かる」

「それでも凄い」


 剣気のフェイントはモンスターにも有効だろう。

 チートだな。

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