第12話 人さらい
「人さらい?」
俺はこのところ疑問に思っていることを話したら人さらいの話題じゃないかと言われた。
「流行っているみたい」
「私も聞きました」
俺はレベッタから質問の答えを聞いて、合点がいった。
夜に出歩くなという家族に注意する念話が頻繁に入っていたからだ。
『おい、そろそろ引き上げろだとさ』
『了解』
怪しい会話を捉えた。
何か他のことを思うかとマークしてみたが、街から出て俺のスキルの範囲外に行ってしまった。
殺しておいた方が良かったか。
でもさっきの会話では何をしているのか分からない。
この街から出て行った怪しい男達はたくさんいたようだ。
だが、今の状況ではどうにもな。
ギルドに行くと、掲示板の前に人だかりができている。
後ろから背伸びして読むと、さらわれた娘フローラを助けてくれ、誰でも良いと書いてある。
何人受けても良い依頼だそうだ。
生きて娘を連れて来た奴がお金を取る。
そういう依頼らしい。
念話を拡大するが、めぼしい情報の声は聞こえない。
念話って、ネットの検索みたいに条件を絞り込める。
今回はさらわれた女の子の名前フローラで絞り込んだ。
だが、念話の声は、さらわれたという事実を述べて、心配しているだけだ。
5番目の英雄ならこんな事件に首を突っ込みそうだ。
この事件に携わるのは危険かもな。
「ねぇ、解決してあげないの」
レベッタの言うことも分かる。
たしかに娘を救い出してやりたい。
ここは、一芝居打つか。
「うひょー、凄い依頼金だな。レベッタ、カンナ、この依頼やるぞ。幸い、俺はこういうのを扱っている商人に伝手がある。色々と売ったからな。たぶん娘に行き着くはずだ」
「おい、違法奴隷の商人と関わり合いがあるのか。誑し込んだ女の子を売ったのか」
「いやそんなことは言ってない。違法奴隷は縛り首だろう」
「じゃあ伝手ってなんだ」
「レベッタとカンナを飾り立てて囮にするんだよ」
「違法奴隷じゃないか」
「いや人さらいの囮だ」
「私、ダーリンのためなら何でもする♡。でも一杯可愛がってね♡」
「娼婦の真似だってします♡。でも本当に愛しているのは貴方だけ♡」
「ちっ、クズが。見ちゃいられない」
レベッタとカンナのピンクの波動に当てられて憤慨した様子で冒険者が去って行く。
さあ、宿でレベッタとカンナと作戦会議だ。
「念話にそれらしい動きはない。違法奴隷商人は見つけたがな。さらわれた人はいない。全員が借金の方に売られた人だ」
「借金奴隷なら、違法奴隷にならなくても」
「まあな、正規の借金奴隷は待遇がそれなりに良いらしいからな。違法奴隷は、待遇最悪だ。殺しても構わないからな。違法奴隷になった時点で死んだも同然だ。ただ借金の額が大きすぎると奴隷商人は引き取らない。そうなると鉱山に送られて大抵死ぬ。なので違法奴隷の商人の所に駆け込むらしい」
「借金奴隷は仕事を選べるのよね」
「それって嫌なら働かなくても良いってことですか」
「働かなければ、一日の食事がパン1個と水になるわ」
「借金奴隷も甘くないですね」
「なりたくてなる人はいないわ」
「話が逸れたな。とりあえず違法奴隷商人を潰そう。何か情報があるかもな。蛇の道は蛇だから」
「賛成」
「ですね」
違法奴隷商人の屋敷は立地の良い場所に建っていた。
やましさなんか微塵もありませんという感じだ。
俺達もノックして堂々と入る。
「この館に違法奴隷がいると聞いた」
「若造が、調子に乗るな。証拠は」
「君、違法奴隷だよね」
俺は使用人の一人を指差した。
「ふふふ、何を言うと思えば。違うと言ってやれ」
「違います。私は正規の借金奴隷です」
「正直に言えば、君の借金はゼロにしてやるよ。分かっている。違法奴隷から助けられても借金は無くならない。それを俺が払って、地獄から救い出してやる」
「本当ですか」
「ああ、借金が金貨33枚だってことも知っている」
「私、嫌なのにこの違法奴隷商人に犯されました。他にも言葉に出せないぐらい」
「ほら、この子もそう言っている」
「くそっ、殺してしまえ」
「レベッタ」
「出番ね」
用心棒に凄いのはいなかった。
まあ、物語では元Aランクがこういう所の用心棒をやってたりするもんだが、まあないよな。
用心棒は全員が叩きのめされた。
「さあて、この街を騒がしている。人さらいについて喋って貰おう」
「誰が喋るか」
困ったな。
「念話」
『恐怖しろ!』
「ふひっ」
違法奴隷商人が白目をむく。
「おい起きろ」
叩いて起こす。
「何でも聞いて下さい。あれはもう嫌です」
従順になったな。
幽霊のイメージを念話で送っただけだが、効き目はあったらしい。
「人さらいについて話せ」
「私共の仕業ではありません。噂になったら困る稼業ですから。ただ何人かまとめて融通した客がいます。どんな奴隷でも構わないと言ってました。人を集めてますが、たぶんろくでもない計画でしょう。生贄とかの」
それだけ聞ければ十分だ。
念話でも同じことを喋ってたから嘘は言ってないと思う。
怪しい奴ね。
ただ、やつらのアジトがどこにあるのかは分からない。
ちなみに違法奴隷商人は、救った証人を付けて、守備兵に突き出した。
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