第11話 日常
『妹達よ仲良く元気にやっているか。俺は元気にやっている』ここまで手紙を書いて、手が止まった。
ヒモになったと書くのが恥ずかしかったからだ。
だが、早晩ばれる。
村の人がこの街に野菜売りに来ているから、俺の噂を聞くのは時間の問題だ。
正直に書こう。
『俺はヒモになった。弁解させてくれ。俺ってFランクだろう。だから仲良くなった女の子のレベッタとカンナとパーティを組んで色々と雑用をこなしている。そのパーティの女の子のレベッタが面白がって、パーティ名をヒモと乙女達にしたんだ。レベッタはAランク、俺はFランクだろう。寄生冒険者とヒモ冒険者でどっちが良いかと思ったんだが、ヒモになった。すまん。でも実際は雑用係なんだ信じてくれ』と書いた。
こう書けば、不本意ながらヒモになったと理解してくれるだろう。
5番目の英雄だとばれたら、家族にも害が及ぶかも知れない。
全員で王都に引っ越して籠の鳥生活は嫌だ。
今の状況が一番良い。
『家族への変わらぬ愛を。ラウド』こう締めくくった。
お土産は金のブレスレットにした。
いきなりお土産のグレードが上がって、たぶんびっくりするだろうな。
何日か後。
返事が来た。
『ラウ兄、見損なったよ。お父さんがカンカンに怒って勘当だと言ってる』とあった。
ええ、マジか。
『うそうそ、元気にやっているならそれで良いって言ってた。あいつにヒモになれる甲斐性があるなんてな。それもAランクの。度胸があるな。アル兄はそう言っている』と続いてた。
ヒモってそんなに難しくて度胸のいる仕事なのかな。
俺は実際にヒモしているわけじゃない。
そう手紙に書いたのに、ヒモだと思われている。
AランクとCランクの女性のパーティにFランクの男性。
雑用しかしないのに、山分けでお金を取っていく。
うん、ヒモだな。
実際は色々してるけど。
『お仕事、頑張って。家族一同より』と締められていた。
ヒモについて考察が足りないな。
まあ、別に良いか。
「念話」
聞き耳をして、街の思念の声を拾う。
『聞いて聞いて、角のパン屋さん結婚するんだって、奥さんになる人見たけど綺麗よ。大売り出しするから買いに行かないと』
ふーん、どこのパン屋かな。
『あのね。あさ布団が水浸しなの。秘密よ』
子供だな。
この思念には覚えがある。
俺が子守りしたポーション屋の子供だ。
『この街の筆頭冒険者はレベッタだな。実績で叶う奴はいない』
『5番目は?』
『冒険者登録してないんだろ』
レベッタが筆頭か。
そのうちカンナと双璧になるだろう。
『隣国がきな臭い』
『戦争かな』
『5番目の英雄しだいだな。範囲攻撃できるかに掛かっている』
範囲攻撃は可能だ。
戦争は嫌だけど。
でももしもの時は仕方ない。
大量虐殺でもなんでもしよう。
『くそっ、何で彼女は来ない。デートに誘って頷いたのなら、来れないなら報せてほしい。まさか急病じゃないだろうな。ここに来る途中に馬車に跳ねられてたりして。駄目だネガティブになる。ここから離れてる間に、彼女がもし来たら、がっかりするよな』
思念にはその彼女のイメージもある。
イメージにある女性の思念を探す。
『あと5分、寝かせて。朝は弱いの』
寝坊か。
『起きろ』
『えっ、誰の声。いけないこんな時間。彼が待ってる』
彼女の方はこれで良い。
『愛の神様だ。彼女は寝坊していた。いま支度しているところだ。そのうち来るだろう』
『神様。ありがとうございます』
キューピッドなんて柄じゃないが、たまには良いだろう。
『うわーん、お母さん。お母さんどこ』
迷子か。
イメージで母親は探せるが、子供の位置をどうやって割り出すか。
『良い子だ。今見ている。風景を念じろ』
『誰っ』
『迷子係だよ』
『ここはええと』
風景のイメージは俺も通ったことのある場所だった。
母親を探して、見つけた。
『お子さんは、5番街の大通りから、服屋の角から路地に入った所にいます』
『どなたか知りませんが、ありがとう』
うん、こういう念話も良い物だ。
『本国はなんて言ってる』
『正体を掴むまでは動くなと』
きな臭い、こいつらはスパイだな。
殺す必要はないがどうする。
『餌だぞ。集まれ』
ネズミに念話で声を掛けた。
『ネズミが湧いてきた』
『ネズミぐらいで臆するな』
スパイの部屋にネズミを集めた。
『死ね!!!』
部屋のネズミが死ぬ。
『くっ、5番目の仕業か』
『これで分かったのは。奴は情報収集にたけていて、動物を操り、即死が使えるということだ。姿隠し、テイム、即死の3つのスキルかもな』
『姿を見せないから、手の打ちようがない。いつでも殺せるという警告だろうな』
『とりあえず、本国にはこの情報を送ろう』
ちょっと手の内を見せ過ぎたかな。
まあ良い。
俺の能力が念話だと辿り着くことがないなら、対策ができないし、俺に勝てる奴はいないだろう。
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