第5話 ドラゴン討伐依頼

 そして、月日は経ち。

 現在、俺は18歳。

 でやってた仕事はやっぱり子守。

 今までポーション職人専属の子守をして、等級外のマナポーションを貰い、一日に何千回と念話をして過ごした。

 念話の効率や効力も上がり。

 赤ん坊の心のひだも読み取れるようになった。

 どんな難しい子も子守して、ウインウインだと思う。


 そして、俺の念話は1000ヒロまで届くようになってた。

 装備は採取ナイフがあるだけのまだ最下級のFランク貧乏冒険者だが、気にしない。

 しかし、最近、念話を鍛えるのに限界を感じてる。


 1000ヒロの念話は蚊が鳴くような音量で一言しか伝えられない。

 そこから、進歩が感じられないのだ。

 素振りを極めたってことなのかな。


 理不尽な目には遭ってない。

 俺を馬鹿にしている奴はいるようだが、薬草採取専門という奴もいる。

 いなくては困る業種だ。

 俺のもみんなが理解している。

 ポーション職人が仕事出来ないと、冒険者が困るからだ。

 分かっている人は分かっている。


 さて、鍛えるのは成功した。

 ここからは飛躍するのみ。


「ラウド、相変わらず覇気のある顔をしているね。子守は極められた?」


 ギルドで話し掛けてきたのは現在Sランク冒険者のファル。


「これから、俺の飛躍が始まるんだよ」

「Sランクになれたら、一緒に冒険しよう」

「おう、約束だ」


 ファルは俺のどこが気に入っているのかな。

 俺には迷いがないところだろうか。

 それとも、たゆまなく努力している所だろうか。


『おい、近くの森でドラゴンを見たってよ』

『よせやい、サラマンダー辺りと見間違えたんだろう』

『いいや落ちたウロコを拾ってきたらしいぜ』

『そいつは大ごとだな。ドラゴンを倒せるのはSSSランクの冒険者だけだ』

『SSSランクはこの街にはいないな』

『逃げるが勝ちってね』


 冒険者の噂話を念話スキルで拾う。

 ドラゴンか。

 ポーション職人の子守はたくさんした。

 この街には子守した子供とその家族がいる。

 俺がなんの役に立つかは分からない。

 だが、この街を守ろう。

 子供達とその家族の笑顔を守るために。


「ドラゴン討伐隊に志願したい」

「正気ですか。あなたFランクでしょう」


 受付嬢に申し出ると困った顔をされた。

 分かるよ。


「俺のスキルは念話だって知ってるよね。ドラゴンと話し合いも出来るかも知れない。それにポーションの扱いはお手の物だから、ポーション係にしてほしい」

「まあそれなら良いでしょう」


 100人からの冒険者が集まった。

 指揮を執るのは一番ランクが高いファルと仲間。

 俺に何ができるか分からないが、とにかく頑張ろう。


「出発!」


 ドラゴンが見つかった森へと隊列を組んで進む。

 俺は最後尾だ。

 空が陰った、ドラゴンが空を飛んでいるのが見える。

 真っ赤なドラゴンだ。

 恐らく火竜だろう。

 戦闘力が高いタイプだ。

 せめて水竜か風竜なら良かったのに。


「魔法放て! 矢も放て!」


 魔法と矢が放たれるがドラゴンは気にしたふうがない。

 全て、回避もせずに受けた。

 矢も刺さらないし、魔法で焦げた跡もない。

 ノーダメージなのだろう。


 ドラゴンが空中でブレスを吐く体勢に入った。

 不味い。

 俺は後方に退避した。


「散れ!」


 ファルの指揮虚しく、ブレスで討伐隊の真ん中にいた人たちは黒焦げになった。


「こんなのやってやれるか!」


 そう言うと冒険者が次々に逃げ出した。

 死体を除くと立っているのは聖剣の担い手パーティの4人と俺だけになった。


 ファル達を助けないと。

 とにかく合流しよう。

 燃え盛る火を避けながら、ファルの元へと急ぐ。

 ドラゴンの炎はナフサ並みらしい。

 ぜんぜん消えない。


 ドラゴンは焼けた死体を食べたかったのか、下に降りてきた。


「鋭刃、身体強化、斬撃これでどうだ」


 ドラゴンの着地の隙を狙って、ファルのスキルが炸裂。

 ドラゴンの爪のひとつが切り飛ばされた。

 ドラゴンは鬱陶し気に尻尾を振るった。


「危ない。要塞、堅牢、身体強化」


 メットがファルを庇って前に出る。

 ドラゴンの尻尾の一撃がメットを直撃した。


「メット!」


 ファルが叫ぶ。

 俺はメットにポーションを飲ませるべく走った。

 くそっ、走り込みやっとけば良かった。


「魔力操作、魔法強化、炎魔法、【ギガントファイヤーボール】」


 魔法使いのドミネが大火球を撃ち出した。

 ドラゴンはブレスで対抗。

 大火球と相殺された。


「きゃあ」


 ドミネが余波を食らってゴロゴロと転がる。


「鷹目、必中、貫通」


 アンプレの矢がドラゴンの翼を貫いた。

 がドラゴンが身震いすると、矢はポロリと抜け落ちた。


「鋭刃、身体強化、斬撃。うわー」


 ファルの斬撃をドラゴンは尻尾で迎え撃った。

 ファルとアンプレは尻尾で飛ばされた。


 俺はメットにポーションを飲ます。

 メットは気絶しているようで、目を覚まさない。

 この場で戦えるのは俺だけだ。


 俺に何ができる?

 弱気になってどうする。

 何ができなくてもやるしかない。

 たとえ、僅かな傷ひとつ与えるに過ぎないかも知れない。

 だけど、その僅かな傷で死ぬことだってあり得る。

 やらない限り、ものごとは進まない。


 怖くても1歩踏み出すんだ。

 一寸の虫にも五分の魂だ。

 窮鼠猫を噛だ。


 いま何ができるか、それは積み重ねてきた念話だろう。

 それを信じなくてどうする。


 ドラゴンは賢いというから、話せばきっと分ってくれる。

 まずは会話してみよう。

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