第4話 ファル

「ふーん、君が登録一週間で二つ名が付いた新人冒険者?」


 同年代に見える二人の少年と二人の少女に囲まれた。

 同業者だろうね。

 新人冒険者ってところか。


「見たところ凄そうには見えないぜ」

「うん、魔力も普通」

「武術を習っている痕跡もない」


 魔力はともかく、見た目から武術とか分かってしまうんだな。

 歩き方かな。

 剣道を習っている人は姿勢が美しいと前世で聞いたことがある。


「ええと、何かよう?」

「僕はファル」


 剣を吊るしている所から察するに、ファルは剣士だ。

 意思の強そうな目をしてる。

 ただものじゃ無い感に溢れている。


「ラウドだよ。それで?」

「君は面白い奴だな。僕の名前を聞いても無反応だ。まあいい冒険者全員に知られているわけじゃない。僕はSランクパーティ聖剣の担い手の次期リーダー、まだ二つ名はないけど、スキルを3つ持っている」

「それが何か?」

「ええと、羨ましいとか、嫉妬するとかないのかな」

「ないね」


 4人は目を丸くした。

 変なことを言ったかな。


「はははっ、羨望や嫉妬の目で見ない冒険者は初めてだ。君は大物になるかもね。なんとなくそんな予感がする。友達になろう」

「よし、なろう。暇があったら討伐の話を聞かせてくれ」


 ファルと握手した。

 手の皮が厚いのに驚いた。

 そしてタコができている。


 相当、頑張っているな。

 俺の柔らかい手とは大違いだ。


「ずるいぜ、ファル。俺も友達になる。俺はメット。よろしくな」

「よろしく」


 メットは俺より頭一つ大きい、発育の良さそうな少年だ。

 盾を持っている。

 盾職なのだろう。

 メットとも握手した。

 メットの手もファルと同じぐらいゴツかった。


「魔法使いのドミネ。大陸一の魔法使いになるのが目標よ」

「うん、よろしく」


 きつい目つきの少女のドミネは杖と本を持っていた。

 ドミネからは爽やかな花の良い匂いがした。


「アンプレ、言っておくけど女だから」

「分かったよ」


 アンプレは弓を持っているから射手だと思う。

 中性的に見える。

 女の子にもてそうだ。

 アンプレからは虫よけの防腐剤の匂いが微かにした。

 矢が虫に食われたりするのかな。


「僕の同期の冒険者さ。ちなみにみんなもスキルを3つ持っている。へぇ、やっぱり何も思わないみたいだね」

「スキルなんて相性だろう」


 スキルは人によっては複数生える。

 いくつ生えるかはその人次第だ。

 3つは多い方だ。

 5つある奴は大抵がSSSランクだからな。

 ただ、スキルの数での差別はない。

 スキル1つの奴がスキル3つの奴を倒すのもままあることだ。

 相性の問題でそうなるようだ。

 念話にとって相性最悪なスキルは思いつかないが。

 その逆の念話が天敵になるようなスキルも思い当たらない。

 平和なスキルだなと思う。


「相性、まあそうだね」

「それに戦闘スキルでなくても人間の価値的は変わらない。凄い職人も尊敬に値する」

「ますます君が気に入ったよ」


「変わってるぜ」

「こういう冒険者が案外、生き残ったりするのよ」

「どんなスキルか気になる」

「僕もだアンプレ」


「念話だよ。赤ん坊と会話して役立てている」


 賞金稼ぎもしたがな。

 それは言わない。

 悪党に報復されると困るからな。


「子守で天下を取るつもりかい」

「ああ、そのつもりだ。俺は子守を極める」


「やっぱり面白いよ」

「だな」

「ユニークだけど良いんじゃない。人が生きている限りは子守の仕事は無くならないわ」

「手加減の修練には良い」


「じゃあ行くから。またな」

「またな」

「おう、また」

「さようなら」

「次に会う時は私達にも二つ名が付いていると思うから期待してて」


 俺はファル達と別れた。

 彼らのスキルが羨ましくなかったのは理由がある。

 スキルが生えるのはだいたい生活習慣に起因する。

 剣が好きな子供はそういう系統のスキルに目覚め、魔法が好きな子供はそういう系統のスキルに目覚める。


 なんで俺が念話に目覚めたのかはたぶんこれだという理由がある。

 それは、前世の最後の記憶。

 俺は電話しながら青になった歩行者信号を見て渡り始めた。


「その件でしたら、社に戻り次第、メールで資料を送らせてもらいます」


 突然、体に衝撃を受けた。

 空中で信号機を確認する。

 やっぱ歩行者は青じゃないか。

 路面にバウンドして俺は横たわった。


「ううっ、会社と取引先に事故を伝えなきゃ。絶対に伝えなきゃ」


 そう言いながら手から飛び出したスマホに手を伸ばした。

 その記憶を最後に俺は死んだのだと思う。

 次の記憶は赤ん坊だった。

 たぶん命が宿ると同時に念話のスキルが生えたのだと思う。


 だから、念話になったのは完全に俺のせいだ。

 他人を羨ましいと思っても仕方ない。

 連絡を取りたいと強く思ってしまったのだから。


 誰のせいでもない自分のせいだ。

 無意識にやったとしても行いには責任が付きまとう。

 そういうことだ。


 転生しただけでもアドバンテージはある。

 読み書き計算の重要性を知っているからな。

 俺はポーション屋の帳簿付けの依頼を手に取った。


 子守の仕事がない時は、帳簿付けとかやっている。

 出来て良かった計算。

 これだけでも職にありつける。


 等級外のマナポーションが今日も飲めて何よりだ。

 さあ、念話の修行頑張るぞ。

 スキルを使った回数なら誰にも負けないという自負がある。

 俺の鍛錬は手の皮を厚くするような物じゃないが、人それぞれだ。

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