第3話 子守の仕事

 依頼の掲示板を見る。

 Fランクの生活依頼に子守があった。


 それを取ってカードと一緒に受付に出すと、カードと依頼票を返された。


「依頼を終えたら、忘れずにサインをもらってくるようにね。依頼主とトラブルになったらギルドに報せるのよ」

「分かった」


 さて、依頼主はヨークポーション店だったな。

 近くに行くと薬草の匂いがしているのですぐに判った。

 それと赤ん坊の泣き声。


 扉を開けるとドアベルがチリンと鳴った。


「いらっしゃい」


 短く髪を刈りこんだ好青年は旦那さんかな。

 まだ20代前半だ。


「子守の依頼で来ました」

「助かった。もう手が離せなくて仕事にならないところだった。ささっ、奥へ」


 奥の部屋に入ると、奥さんが赤ん坊をあやしていた。

 赤ん坊は泣き止む気配がない。


「スキル使って良いですか?」

「大人しく出来るのなら、使ってとくれ」


 奥さんの許可もでたことだし。


 念話。

 スマホが現れて赤ん坊の耳に張り付く。

 赤ん坊がスマホで通話はシュールだ。


『何が不満なの』

『背中、変』


「背中に何かあるらしいですよ」


 奥さんはそれを聞いて赤ん坊の肌着を改めた。


「髪の毛があったよ。これか。もう泣き止まないから、パニック。ありがと」


 髪の毛1本で泣くなんてな。

 そう言えば妹もしょっちゅう泣いてたな。

 俺も子供だったから、原因までは調べなかった。

 念話も役に立つようでほっとした。


「どういたしまして」

「あたいは、リッカ。こっちは旦那のヨーク」

「坊主、よろしくな」

「ラウドです。よろしく」


 子守は簡単だった。

 念話を使わなくても、おむつと腹が減ったぐらいは分かる。

 妹の子守をしたのは伊達じゃない。

 問題なのはさっきのようなことや、病気の時だ。

 これの診断は難しい。


 念話があれば一発だけどな。


 赤ん坊が寝たので、3人でお茶にする。


「もう、夫婦で寝不足」

「だよな。ほとんど寝てない。ラウドが来て昼寝が出来て良かった。店を閉めると顧客が逃げちゃうし、もう大変だよ」


「マナポーションて、いくらぐらい?」


 俺は聞いてみた。


「ピンキリだな。高いのは金貨1枚するのもある。一番安いのは大銅貨5枚だな」


 大銅貨5枚は高い。

 10食分に相当する。


 感覚的には、銅貨が10円。

 大銅貨5枚は500円ぐらい。


 ちなみに銅貨10枚で大銅貨1枚。

 10枚ずつで貨幣が繰り上がる。

 その上が銀貨で、さらに上が大銀貨、その上の金貨は、村で見たこともない。

 大金貨に至っては話にすら出ない。


「安くなりませんか。材料を採って来てもいいですよ」

「うーん、そうだ。等級外なら、ただであげられるよ。不良品みたいな物だから、回復量は少ないけどね」

「あるだけ下さい」


 くんくん、青臭い。

 意を決して飲む。

 ぐはぁ、不味い。


 ポーションは不味すぎる。

 青汁みたいな物だから仕方ないのかもとは思うが。


 マナポーションを飲んで念話を何回も使う。

 この職場は理想的だ。

 空いている時間は薬草のレクチャーを受ける。

 特にマナポーションの材料はしっかりと暗記した。


 夕方になり、今日の依頼も終わりだ。


「追加で依頼料が貰えるようにしたから」

「また明日も来てくれよ」

「ええ」


 受付嬢に依頼票を出すと驚いた顔をされた。


「追加報酬を貰えるなんて驚いたわ」

「念話は動物や赤ちゃんでも問題なく使えるから」

「そうね。大抵の人は御者になるけど、変わっているのね」

「しばらくは子守一本で行く予定だよ」

「子守だけでなく、耳の聞こえない人の付き添いなんかもどう? お年寄りが多いけど、中には生まれた時から耳の聞こえない人もいるわ」

「ポーション職人ならね。またはその家族」

「何か考えがあるのね。ポーション職人は多いから、条件にあった依頼を選んでおくわ」

「ありがと」

「なんか弟みたいで放っておけないのよ」


 今日の稼ぎは大銅貨3枚。

 安宿に泊まるのか精一杯だ。

 食事はもちろん出ない。

 マナポーションの飲み過ぎで腹は一杯だが、パンと肉を食べないと。


 念話の変わった使い方として、思考の盗み聞きがある。

 ただし、こちらの念じたことも相手に伝わるから、何を聞いても強く思ったりしてはいけない。


 俺は人相の悪そうな男を探した。

 いた。


 後にぴったり付いて、念話発動。


『かえって嫁さんとイチャイチャしよう』


 ハズレだ。


 次に行く。

 念話発動。


『くそっ賭場ですっちまった。今日は酒でも飲んで寝よう』


 次。

 念話発動。


『今日あたり強盗に入るか』


 当たりだ。

 喜びを考えないように念話を切る。


 男を尾行して宿を突き止めてから、守備兵の詰め所に行った。



「すれ違いざまに今日あたり強盗に入るかと呟いた男がいる」

「坊主でかした」

「宿も突きとめてあるよ」

「ますますでかした。髪の色や目の色や人相は言えるか?」

「ばっちり。報奨金は出るのかな」

「捕まえてからだ。賞金首なら捕まえたその日に金が出る」

「じゃあ、待たせてもらうよ」


 調書を取られ、1時間ほど経ち、応対にあたった守備兵が大銀貨1枚を持って来た。


「賞金首だった。縛り首だろう」


 あの男には悪いが、生きていくためには仕方ない。

 俺の血肉になって生きてくれ。

 いいや死んでくれかな。


 こんなラッキーはもうないだろ。

 これで当分飢え死にしないで済む。

 大銀貨1枚は大事に使わないと。

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