第2話 街に出る

 さて、この世界の12歳は子供ではない。

 ただし、結婚できる成人は15歳で、12歳は小成人と呼ばれている。

 納税の義務が発生したり、村の会議では発言権がある。

 弟子入りの年齢でもある。


 俺も将来のことを考えないといけない。

 前世はエリートサラリーマンになるべく努力してきた。

 その夢は叶わなかったが、転生によって再びのチャンスが巡ってきたわけだ。


 それでエリートになるための方法を考えてみた。

 まず何のエリートになるかだ。


 エリート農夫は嫌だ。

 大農園主も悪くないが、自然相手の仕事はいつ何時どうなるか。

 自分のせいなら納得がいく。

 だが自然災害で夢が絶たれたら、その責任をどこに持って行けばいい。

 神に文句を言っても仕方ないだろう。

 だから嫌だ。


 エリート御者はなりたくない。

 家畜の世話がしんどいのは知っている。

 テレビで牧場の密着取材をみたからな。


 生き物は自分勝手で理不尽だ。

 世話をすれば愛着が湧いて可愛いんだとは思うけど。


 なるなら、エリート商売人かエリート冒険者だ。


 どっちもきつい。

 商売人の資質、読み書きそろばんはできるけど、うちの親には商人の伝手がない。

 人脈のない商人なんて苦労するに決まっている。


 冒険者は念話スキルではどうにもならないだろう。

 考えてみると念話スキルって詰んでる。


 そろそろ、どこに弟子入りするかはっきりさせないと。

 それで考えたことがある。

 農家じゃ現代知識は役に立たない。

 ノーフォーク農法とかあるけど、見慣れないことをすると田舎ではハブられる。

 成功すればいいけど、失敗したりすると大変だ。


 やっぱり都会なのか。

 都会なら発明品を売ったりしても目立たない。

 だが、特許や著作権などない世界。

 下手に世に出すと真似されて終わりだ。


 それどころか厄介事を招き寄せるかも知れない。

 努力するのが嫌いじゃない。

 ただ、理不尽が嫌いなだけだ。

 努力が報われないと悲しくなる。

 とうぜんそういう方向へは行きたくない。


 楽でなくてもいい。

 努力が報われて欲しいだけだ。

 才能がなくて報われないのは納得が出来る。

 才能を作るのは環境と努力だから、これは自分で変えられる。

 変えられなかったなら、それは自分のせいだ。

 理不尽でも何でもない。


「父さん、俺、街に出て仕事を探す」

「ふむ、中途半端で帰ってきたら、家の敷居は跨がせない」

「あらあら、そんなこと言っていいのかしら。きっと今頃どうしているかと心配になって、眠れなくなるくせに」


 母さんが父さんに軽口を言った。


「そんなことないぞ」


「街に出るのか。弟子入りの宛てはあるのか?」

「アル兄さん、ないけど、冒険者ギルドに入れば、生活依頼がある。生活していけるはずだ」

「そうか、頑張れよ」


「頑張れよ」

「フーゴ兄さんも」

「俺は開拓して畑を貰う。アル兄さんに頼めば、耕作スキルで容易い。お前もそうしても良かったんだぞ」

「俺のスキルはフーゴ兄さんみたいな、スキルじゃないから」

「俺の投石スキルだって、村ではほとんど必要ない」

「モンスターを追い払えるでしょう」

「まあな。鳥とかも落とせるけどな。ウルフクラスになるときつい。オーククラスだと手も足も出ない。だから冒険者は諦めた」

「俺も向いているとは思わないけど、やってみたいんだ」

「決心したなら仕方ない」


「ラウ兄、手紙書いて。私も返事を出すから」

「お土産を期待してる」

「2人とも良い子にしてたらな」


 次の日、両親と兄妹に見送られ、俺は野菜売りの荷馬車で、街に旅立った。

 とにかく素振り方式で行くと決めたからには、それを極める。

 その為には何でもやる。


 野菜売りの荷馬車から降りて、冒険者ギルドへ。

 冒険者ギルドは儲かっているようで、街の一等地に建っていた。

 立派な剣の意匠の看板が掲げられている。


 所詮、職業あっせん所みたいなものだろう。

 緊張する必要もないな。

 入口を入るとさっそく絡まれた。


「がはは、いつからここは子供が出入りするようになったんだ。帰ってママのおっぱいでもしゃぶってろ」

「口減らしで後がないんだ」


 俺は嘘を付いた。

 喧嘩してもやられるのが目に見えている。

 同情を誘う作戦に出た。


「おう、すまねぇな。てっきり街の子供が紛れ込んだと思ったよ」

「分かってくれればいいさ」

「坊主、見かけによらずしっかりしているな。大物になるかもな」

「とりあえずの将来より、まずは日々暮らして行きたい」

「頑張れよ」


 カウンターにいるお姉さんに話し掛ける。


「登録したいんだけど」

「字は書ける?」

「書けるよ」

「それじゃ、これに書いてね」


 用紙を渡された。

 名前、年齢、レベル、特技、スキルを書く所がある。

 特技はなんて書こう。

 これと言ったものはないな。

 そうだ子守はどうだ。

 念話なら赤ん坊の考えていることが分かる。

 おしめか、おっぱいかの判別がつくだけでも仕事にはなる。


「ぷっ、あははは。ひーはー、く、苦しい。特技、子守り」


 用紙を出したところ、受付のお姉さんはぷっと吹き出した。

 そして笑い転げた。

 子守なんて書く人はいないのは分かる。

 笑うことはないのに。


「ふははっ、この魔道具に手を置いて。ぷははは」

「もう、笑い過ぎだって」


 言われた通りに魔道具に手を置いた。

 魔力量が表示され、金属のカードが出てくる。

 カードにはFランクと記されていた。


 もらった金属のカードには、紐を通す穴があるから、後で首にぶら下げるようにしよう。

 さて、初依頼だ。

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