第6話 ジャイアントキリング

「念話」


 俺はスキルを発動した。


『あー、ドラゴン君。俺達を食うつもりなのか? やめた方がいいぞ。俺達は毒まみれだ』


 嘘をついた。


『毒なぞ効かん。食ってやる』

『待て。見逃してくれれば、何でも願いを叶える』

『じゃあ、大人しく食われろ』


 駄目だ。

 説得できる自信がない。

 もうあったまきた。


『この分からず屋!!!!!!』


「ふぅ、フルパワーで怒鳴ってやったぞ。魔力が空でなにも出来ないが、思い残すことはない。いいや、思い残すことはいっぱいある」


 あれっ、ドラゴンの様子がおかしいぞ。

 フラフラしてる。

 ああ、至近距離でフルパワー念話を食らうとこうなるのか。

 今のうちに何とかしたい。

 ファル達4人を引きずって逃げるのは無理だ。

 ドラゴンは追いかけてくるに違いない。


 そう言えばドラゴンには逆鱗という弱点があるんだったな。

 俺はマナポーションで魔力を補給すると、ドラゴンによじ登った。

 ドラゴンの首の付け根にある鱗の色が違う箇所に短剣を突き立てた。


「ギャゥゥゥゥゥン」


 俺は慌てて飛び降りた。

 ドラゴンが倒れる。

 俺は下敷きになった。

 だが苦しくない。

 這い出ることに成功。

 きっと、偶然、隙間に入ったんだな。


 今日はついている。

 人生で一番のラッキーデイだ。

 反動が来ないことを祈る。


 やったぞ。

 勝てた。

 喜びが湧いて来た。


 さて、どうしよう。

 俺が倒したと言って信じてくれるかな。

 きっと無理だな。

 ファルは信じてくれるだろうが、周りは違うと思う。

 周りが信じてくれたとしても、最後に美味しい所を持っていた奴だと言われそう。


 実に面倒な事態になりそうだ。

 詐欺師扱いされるのも嫌だし、報奨金をたかりにくる奴らを追い払う自信がない。


 金は惜しいが、命には代えられない。

 ファル達が助かっただけでもよしとしないと。


 逃げるが勝ちか。

 俺はファル達にポーションを飲ませその場を後にした。

 そして街に戻って何食わぬ顔をした。

 下手にファル達が相打ちで倒したとか言わない。

 逃げたとも言わない。

 とにかく知らぬが仏。


 翌日ギルドに行くとドラゴン討伐の話題で持ち切りだった。

 逃げた冒険者は罪に問わないようだ。

 あの状況では撤退はやむなしとなった。


 ファル達はドラゴン討伐の褒美を王様から貰うために、王都に旅立つみたい。

 その前にパレードをするらしい。


 荷車にドラゴンの頭が載せられ、先頭を行く。

 そして後には飾り付けられて屋根の外された馬車に、ファル達が乗って手を振っている。

 あれっと思ったのは5人いることだ。

 黒いマントで黒い衣装、そして目を隠す銀の仮面を被っている人物がいる。


 誰?

 念話発動。

 噂を拾う。


『5人目の英雄は欠席みたいね』

『立っているのは人形か』


 よく見たら確かに人形だ。


『止めを刺したのは5人目らしい』

『5人目は死神と呼ばれているって』

『5人目はイケメンなのかしら』

『本国に報せないと』

『5人目は冒険者登録してないらしい』

『ミステリアスな雰囲気、素敵』

『きっとハンサムで影のある好青年』


 5人目を巡ってみんなが噂している。

 ファルは俺に気づいたのか。

 それとも誰かに助けられたということだけ分かっているのか。

 まあいい。

 この決着で構わない。

 5人目の英雄は誰だが分からないなら、その方が良いに決まっている。


 とにかく念話をフルパワーで発動するとドラゴンもフラフラになるらしい。

 切り札だな。

 俺にも討伐依頼がやれそうだ。

 Cランクぐらいにはなりたいものだ。

 いいやエリートを目指す。

 目指すはSSSランクだ。


『ドラゴンの素材は、大金貨1000枚にもなるらしい』

『羨ましいことだ』


 うん、金なんかどうでもいいや。

 王様に謁見なんかしたくない。

 大金を手にして駄目になる奴もいる。

 俺がそうだとは思わないが、あんなラッキーパンチで一攫千金して、それが普通だと思ったらいけないな。

 きっと堕落する。


 パレードが終わったので、俺はゴブリン討伐の依頼を掲示板から剥がした。

 討伐の最初と言えばこれ。

 短剣一つで不安はあるが、念話フルパワーがあればなんとかなるだろう。


 ゴブリンが出る森はドラゴンがいた森だった。

 踏み込んでもゴブリンがいない。

 それどころかウサギ一匹いない。


 ドラゴンのせいだな。

 こういう理不尽は許せない。

 たぶんゴブリンは巣穴で震えているな。

 面倒だが仕方ない。

 巣穴を探そう。


 モンスターがいないはずなのに、戦闘音が聞こえてきた。

 戦闘している人が危なかったら、助太刀に入ろう。


 俺は急いだ。

 見えた。

 あの青みがかかった銀色の毛並みの、5メートルはある狼型の巨体は、フェンリルに違いない。

 対峙しているのは女剣士。

 なんでフェンリルがいるんだ。

 Sランクモンスターだぞ。


 女剣士は背丈より大きい剣を使っている。

 きっと、身体強化系のスキル持ちだな。


 フェンリルの口からは冷気が漏れている。

 女剣士では、ブレスを食らったら、ひとたまりもないだろう。


「ええい、ちょこまかと」

「ガルル」


 不味いフェンリルがブレスの体勢に入った。

 助太刀に入るタイミングを逸した。

 冒険者のマナーとして横入りは嫌われる。

 助太刀するにも確認しないと。


 フェンリルのブレスで女剣士が凍り付くという想像が頭の中をよぎった。


「ふんっ」


 女剣士は剣の一振りでフェンリルのブレスをかき消した。

 おお、ソロでやっていくだけの腕はある。

 きっとSランクだな。


「助太刀が必要?」

「あんた誰? まあいいわ、とにかくフェンリルの足を止めて」


 そういうことなら俺の出番だな。

 念話フルパワー。


『いい加減にしろ!!!!!!』


「キャイン」


 フェンリルが犬のような声を上げて倒れた。

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