第47話 作り話としては
「そういえば……私からも2つ質問があります」
「どうぞ」
私はお茶を一口飲んでから、
「私は最初……暗殺者に間違われていましたよね」はじめてこの世界に来た時の話だ。「なぜ、そんな間違いが起きたのでしょう? 私は見るからに弱そうですし……暗殺者と勘違いされるのは不思議です」
「……まぁ暗殺者なんてのは、弱いと思われたら好都合だろうけど」そりゃそうだ。だからこそ暗殺ができる。「実際に他の暗殺者が来ていたのよ。それを追っていて、偶然にもあなたを見つけた」
だから暗殺者だと勘違いされたのか。他に暗殺者がいて、その暗殺者の姿はわからなかった。だから怪しい私が暗殺者だと思ったわけだ。
「その暗殺者は、どうなったんですか?」
「逃げたのでしょうね。今まで見つかってない以上、すでに逃げ出してると思うわ」捕らえなくて大丈夫だったのだろうか、なんて思っていると。「王族をやってると暗殺者なんて珍しいものじゃないわ。あなたみたいな怪しい人間より、よっぽど暗殺者のほうが多いのよ」
さすがのアルマ様も、異世界から来た人間を見るのははじめてなようだ。
ともあれ、次の質問。
「別の世界に行く方法は……見つかりましたか?」
私は元の世界に戻りたい。最近その想いが強くなってきた。まだ1週間程度しかこの世界にいないが、それでも元の世界が恋しい。
「うーん……」少し食事のペースを落として、「調べてはいるのだけれど……どうにも荒唐無稽な話でね。怪しい術式とか呪いとか……そんなのしか見つからないの。試してみても、なにも起こらないし」
試してくれたのか……怪しい術式ってどんなのだろうか。ちょっと興味があるが、見ている時間はないだろうな。
アルマ様が続ける。
「あなたが言ってることは本当だと思うの。あなたから聞いた異世界の話は、あまりにも現実的だった。人々の生活とか教育とか政治とか……作り話としては完成度が高すぎるわ。だから私は、あなたの話を信じたの」
……だからか。だからアルマ様は、私から世界の話を聞き出していたのか。私の話の真偽を確かめるために。
油断ならない人物だ。急に襲われることはないだろうけど、敵に回したくはない。
「でも……その世界に行く方法なんて、まったく見つからない」かなり真剣に探してくれたようだった。「ちなみになのだけれど……あなたは、どうやってこの世界にきたの? なにか覚えていることはある?」
「いえ……まったく……」覚えていたら手がかりになったのだろう。「……家で寝ていただけのはずなんですけど……気がついたら、この世界に」
「……あなたの世界では、異世界に人が消えることは珍しい?」
「現実世界では、そうですね……」異世界に行ってやり直す、なんてのは物語の中だけの話。「もしかしたら行方不明者とか……そのへんの人たちが異世界にいるのかもしれませんけど」
私が知らないだけで、異世界に行っている人はいるのかもしれない。
「……どちらにせよ、確かめる方法はないわね……」
そうだ。私が知らないのだから意味はない。仮に行方不明者が異世界にいても、私は調べることもできない。
つまり現状は手がかりなしか……わかっていたことだけれど、ちょっとショックだな。
「どうしたものかしら……」私にもわからない。「ハッキリ言って……このまま探しても見つかる確証はないわ。もちろん諦めるつもりはないけれど……あんまり期待はしないでね」
「……承知しました……探していただけているだけでも、ありがたいです」
本来は無視されてもおかしくないのだ。異世界なんてくだらないと一蹴されてもおかしくなかった。
こうやって真剣に考えてくれるだけで嬉しい。もちろん元の世界に変える方法が見つかれば、もっと嬉しいけれど。
とにかく……今はこちらの世界でやれることをやろう。元の世界に変えるのは、そのあとのことだ。
……
ずいぶんと、長丁場になりそうである。
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