第46話 勉強のやり方

 さてアルマ様の自室に戻ってきた。


「なるほどねぇ……」食事をしながら、アルマ様が言う。「オペラント条件づけ……なかなか面白い話ね」


 1日に一度、現状の報告を義務付けられているのだ。だから私は今日の事柄をアルマ様に説明した。


 すると、


「夕食の時間に遅れたことは不問にするわ。やむを得ない事情だものね」そう言ってくれると助かる。「でも……今度から一報を入れてくれると助かるわ。そのへんの兵士に伝えたら、私に伝わるから」

「……申し訳ありません。以後、気をつけます」

「ならよろしい」


 許されてホッとする。怒られるかなー、と思っていたのだ。


 アルマ様は食事を作って待っていてくれた。冷めた食事を温め直してくれた。それだけでありがたいのに、こうやって笑顔で接してくれる。


 早いところ恩返ししないとな……


「いくつか質問があるわ」

「なんなりと」

「怒鳴りつけたらエルくんが言うことを聞く……それをクラージュが学習したのは理解したわ。でも……怒鳴ったらエルくんは逃げ出すようになったのでしょう? それはんじゃない?」


 ……なるほど……それはたしかにそうかも知れない。


 ……


「可能性としては2つ考えられます。1つは、たまに言うことを聞いてくれる好子こうしのほうが大きく影響を及ぼした、という考え方です」


 ギャンブルでは負けることは嫌子けんしだ。だけれど……それを補って余りある好子こうしが用意されているのだ。


 私は続ける。


「そしてもう一つは……という考え方です」

「……どういうこと? エルくんが逃げ出したら、それは悪いことじゃないの?」

「はい。ですが……という考え方もできます」人間の考えなんて矛盾しているものだ。「エルンスト様がいなくなって、クラージュ様はどこかホッとしたのだと思います。子供を怒鳴りつけて叩くことなんて、親にとっても苦痛であることが多いですから」

「ふぅん……」アルマ様はスープを一口飲んで、「複雑なのねぇ……」

「そうですね……」


 人間は複雑だ。かと思えばシンプルな理由で行動したりもする。だからこそ面倒くさくて、だからこそ面白い。


「もう1つ質問。あなたエルくんの教育係になったって聞いたけど……あなた、なにを教えるつもりなの? まだ字が少し読めるようになったくらいでしょう?」

「……私が教えるのは、です。学習の方法を教えるだけなのです。最終的に学ぶのはエルンスト様自身です」言い切ってから、付け足す。「もちろん……私自身も勉強はします。そうしないと信用が得られませんからね」

「……教える人間が無知だと、信頼されないものね」


 そういうことである。私もある程度、最低限の知識は身につけておかなければならない。


 ……エルンスト様に学習の方法を教えながらクラージュ様の学習も手伝って、さらに自分も勉強か……なんか仕事が多いな。私にやりきれるだろうか。


 でもやらないといけないよなぁ……かなりの自信を見せてしまったし、ここで逃げると一気に信頼を失う。


 ……


 やるしかないか。やるからには全力だ。


 私の持てる知識を総動員して、問題の解決を目指そう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る