第40話 才能を超える行動

「……ここでは話しにくい。俺の部屋に来てくれ」


 というわけなので、クラージュさんに連れられてとある部屋にたどり着いた。エルンスト様のことも追いかけたかったが、今はクラージュ様が優先だと思った。


 また豪華な部屋だった。ピカピカでキラキラで広い部屋。


 ……ここがクラージュ様の部屋……つまり次期国王の部屋か。さすがに絢爛豪華だな……この場所に私がいると思うだけで萎縮してしまう。


「……なかなか度胸のある女だ」クラージュ様は紅茶を用意しながら、「いきなり次期国王の部屋に入れられて、無表情とはな」

「……申し訳ありません……感情表現が苦手で……」


 内心はめっちゃ焦っている。今にも逃げ出したいくらい。


「座れ。すぐに紅茶ができる」

「私が用意しますよ」


 さすがに気が引ける。


「座っておけ」

「ですが……」

「これでもこだわりがあってな。他人に邪魔をされるのは苦手だ」


 ……姉弟きょうだいだなぁ……見た目は似てないけれど、やっぱり内心は似ている。ということは……私が手伝おうとすると本気で怒るんだろうな。


 とはいえ……ずっとお世話になるのもなぁ……なんとかして恩返ししないと。


「エルは……」紅茶の用意をしながら、クラージュ様は言った。「……」


 その言葉に続く発言は、しばらく聞こえなかった。おそらく彼の中でもまとまっていないのだろう。


 急かしてはいけない。ゆっくりと彼の言葉の続きを待った。


「エルは一人息子でな。エルを産んですぐ……母親は死んだ」……いきなり重い話だなぁ……「だから……国王候補はあいつしかいないんだ。俺の跡継ぎはあいつしかいない」


 新たな子供を作るつもりはないらしい。奥さんのことを愛していたのだろうか。


「どこに出しても恥ずかしくない息子に育てるつもりだったんだが……」そんな息子は存在しない。「あいつは根性なしだからな。すぐに泣いて逃げ出して……本当に堪え性がない」


 根性論では解決しないのだけれど……まぁ、今は話を聞いておこう。


「試験の成績が悪ければ、あいつはバカにされてしまう。俺だって指導力が疑われる。だからこそあいつに努力をさせたいのだが……」


 そこで紅茶が完成した。私はお礼を言ってから、


「そう簡単に成績は上昇しませんからね……焦ることもあったでしょう」

「……そうだな……」……こうして会話していると、普通のおじさんだな……「あいつには才能がないのだろうか。そして俺にも……教育の才能がないのだろうか」


 ……才能、か……


 誰しもが考えることだろう。自分には才能があるのか、ないのか。あいつにはあるのか。じゃああいつにはないのか。あの子は天才か凡人か。自分はどうか。


 才能というものが存在するのかどうか……それは、


「私にはわかりません。才能という事柄の正体が、どんなものなのか……皆目見当もつきません」わかっていれば人は苦悩しない。「ですが……才能を超える行動は知っています」

「才能を超える行動?」

「はい」


 ようやく私のペースになってきた。


 そろそろ私が話し始めてもよいだろう。


「それは習慣というものです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る