第39話 非常に難しい立場だと
人の成長に、教育に、学習に答えなんてない。そんなものがあればもっと人々は楽になれる。
正解がないから人は苦しむのだ。
「もしかしたら……数年後にはクラージュ様の指導が実を結ぶかもしれません。未来では当たり前の教育方針になっているかもしれません」可能性はある。鉄拳制裁こそが正義だと言われる可能性もある。「ですが……エルンスト様には合っていないかと」
「……」だから睨まないで。怖いから。「なにが言いたい?」
……なにが言いたい……と言われても……
まぁとりあえず……
「アルマ様の命令で、エルンスト様の成績上昇の任を与えられました」
「……あの狂人め……!」狂人ではあるかもしれない。「うちの息子を実験台にするつもりか? こんな得体の知れない怪しい女を教師代わりにするだと……?」
得体のしれない怪しい女か。そりゃ私に対する正当な評価だ。私のことを信頼しているアルマ様のほうがどうかしている。
ともあれ……
「ご子息のことを真剣に考えてらっしゃるのですね」
「……?」
「ご子息が大事だからこそ、得体の知れない相手に渡したくない。大切に、大切に想っている。たった1人の愛する息子。そのお気持ち……お察しします」
「な……」
まさか肯定されると思っていなかったのだろう。クラージュ様は若干たじろいだようだった。
その隙に乗じて、
「クラージュ様は次期国王……周囲のプレッシャーも相当なものでしょう。そして次期国王としてのプレッシャーを知っているからこそ……ご子息にも厳しく接しなければならない。非常に難しい立場だと推測いたします」
「……」
クラージュ様は呆然とした様子で私を見つめる。少しずつ怒りという感情は収まってきたようだった。
親だって苦しんでいるのだ。子供と同じように苦しくて仕方がないのだ。
暴力など言語道断だと断罪することは簡単だ。だけれど……そんなことをしても解決しない。
子に寄り添うように、親にも寄り添わないといけない。どちらかを悪者にすることは論外だ。
「私にお手伝いできることはありませんか? 手伝いでなくとも……お話をしてくださるだけで楽になることもあるでしょう。王宮の兵士には喋れないこと……いろいろと抱えていらっしゃると思います」
まずは話を聞き出したい。少しでも信用されることが大切だ。
いきなり勉強なんてまだまだ早い。もっと……もっと前にやるべきことがある。
「……お前……」ちょっと声音が優しくなっていた。「……お前が……秘密を守ってくれるという証拠は……?」
話す気になったようだ。ここまであっさりと陥落するということは、普段から相当なストレスを溜め込んでいたのだろう。
最後のトドメは、ちょっとした冗談混じりの言葉で十分。
「秘密を漏らしたら……アルマ様に殺されてしまいますよ。まだ私は死にたくないです」
「……それもそうだな……」ちょっとだけ笑ってくれた。「……あのおせっかいな姉が送ってきた人物か……少しは信頼できそうだな……」
「……」場がほぐれてきたので、冗談を続けてみる。「なんだかんだ……お姉様のことを慕っておられるんですね」
「慕う、か……そんな生易しい感情ではないがな」
当たらずとも遠からずってとこか。まぁ
まずはエルンスト様の話だ。
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