第34話 不可能です

「私と仲良くしてなんて言わないわ。私は……あの子が幸せならそれで良いの」姉としての意見はそうなのだろう。「今のあの子の悩みは……息子さんのことだわ」

「エル……様のことですね」敬称はつけたほうが良いだろう。「……そういえば……アルマ様ってお呼びしたほうが良いですか?」

「別に私のことは呼び捨てでも良いけれど……」アルマ……とは呼べないです。「公の場では敬称をつけてくれると助かるわ。うるさいのもいるからね」


 礼儀作法とかでいろいろ言われるのだろう。私も礼儀は必要だと思っているので、ちゃんと敬称と敬語を使っていこう。


「話を戻すわ。私の弟クラージュの悩みは……今は息子さんのこと。他にもあるでしょうけど、もっとも早く解決すべきは息子さんのことよね」


 アルマ様が言うのなら従おう。


「クラージュ様のご子息……エルンスト様の成績を上昇させること、が今回の目的でしょうか」

「簡潔に言うと、そうね」複雑に言う必要はないけれど。「この世界も学校はあるのよ。あなたの世界と違って、一部の特権階級しか利用できないけれど」


 教育を受けるということにもお金と労力がかかる。やはり現代日本に生まれた私は恵まれていたな。今も……大量の書物を読ませてもらえるのだ。恵まれているとしかいえない。


「その学校ではね、3ヶ月毎に試験があるの。ちょうど少し前に試験があって……エルくんの成績が悪かった」だから父親が怒っていたと。「別にいじめられているってわけじゃないのよ。国王の孫で次期国王候補……他の子達も手を出せないでしょう」


 手を出したら殺されてしまう。たしかにそんな度胸はない。


「でも……孤立はしてる。成績も悪い、自信も持てない。自信がないと人も寄り付かない。孤立すれば情報が入ってこなくて成績が悪くなる。そんな悪循環よ」


 ……子供時代から成績が求められるのも大変だなぁ……


 私は中学生の頃、英語のテストで0点を取ったことがある。そのテストは今でも机の奥底に眠っているだろう。いつも見なかったことにしているのだが、たまに思い出してダメージを食らう。


 閑話休題。


「だから私の弟が指導を始めたのよ。というか結構前から指導しているのだけれど……効果はなし」というより、むしろ……「息子の成績が上がらないと、クラージュの指導力も疑われる。だからより躍起になって指導に熱が入って……ある時から、暴力的な指導が行われるようになった」


 教える側も苦しんでいる。それは理解している。


 だけれど暴力は良くない。善だとか悪だとかではなく、効果がないのだ。一時的にはあるかもしれないが、どちらかというとデメリットのほうがデカい。子供にとっても、親にとっても。


「さてここで本題。どうやって指導をしたらエルくんの成績は上がる? 他の問題はその後にどうにかしていくとして、まずはこの成績問題を解決しましょう」


 そうやって問題を1つに絞ってくれるとありがたい。考えることがシンプルになるから。


 アルマさんは続ける。


「3ヶ月後の試験……それで良い成績を取れば、課題は解決としましょう」

「ならば答えは簡単です」

「……即答ね。どんな方法があるの?」

「3か月後の試験で好成績を取ることは不可能です」


 考えるまでもなく、その結論が出た。

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