第33話 空回り
弟さんが部屋を出て、しばらくして……
「なんでこうなるのかしらね……」いくぶん元気をなくしたアルマさんが。「別に怒らせたいわけじゃないのだけれど……難しいわね、人間関係って」
「……そうですね……」人間ほど面倒くさい生き物もいない。「……さっきはありがとうございます。助けてくれて……」
「……むしろ私が謝るべきことよ。あの子が……あんなに暴力的になってたなんて。噂には聞いていたけれど、想像以上だったわ」
頭にきたらすぐに手が出る。それが彼のやり方なのだろう。
……しかし
「私はね……今の国王の、不倫相手の子供なの」そうだろうとは思っていた。「本当の奥さんとの間に子供が生まれなくてね。それで他の女性に手を出して私が生まれた」
跡継ぎが必要だったのだろう。国王としては仕方がない行動だったかもしれない。
「でも生まれた私は女だった。これじゃ後継ぎとして成立しない」だから……愛されなかった。「そうしている間に、本当の奥さんが身ごもってね。それで生まれたのがあの子……クラージュと名付けられた私の弟」
クラージュというのが名前らしい。クラージュ・ティミッドか。
腹違いの弟。しかも国王候補という複雑な状況。
「……本当の弟みたいに接していたつもりだった……でも、やっぱり本当の姉とは違ったのかしら。次第にあの子は私から離れるようになって……今みたいにケンカばっかり」本当の姉だからこそケンカするのだろう。「あの子には王位継承者としての責任がある。そりゃ私みたいにお気楽な立場から意見を言われたら、腹が立つわよね。それは自覚しているのだけれど……」
……普段はいつも笑顔のアルマさん。ちょっと変わり者だけれど、内面はまだまだ若い女性なのだ。簡単に割り切れるわけもない。
「王位継承者としてしっかりしようとすればするほど空回り。あの子が努力しているのは知っているけれど……それでも、女子供に暴力を振るうのは褒められないわ」男性にもダメだけれど。「今のあの子は国王にふさわしくない。でも……継承者はあの子しかいない。あんな状態で王になったら……きっと生きていけない」
国王がすぐに暴力で物事を動かす。そんな国が長続きするわけがない。
アルマさんとしては……国が滅んでもどうでもいいと思っているのだろう。だけれどたった一人の弟のことだけは大切に思っているのかもしれない。
「どうして人間って空回りしちゃうのかしら。私はあの子が好きで……あの子だって自分の子供が好きなはず。子供ができたときはあんなに喜んで、可愛がっていたのに……」
好きなのにケンカしてしまう。好きなのに傷つけてしまう。
人間はそんな生き物だ。愚かでバカらしくて、自分をコントロールできない滑稽な人生を送るのだ。だからこそおもしろい。
アルマさんは深い溜め息を吐き出す。私が知る限り、こんなに思い悩むアルマさんを見るのは初めてだ。
「ねぇ……あなた」
「なんでしょう」
「あの子の悩み……解決してあげてくれない?」
そう言われると思っていましたよ。
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