第30話 私はできるわ
さて私の身の上話とアルマさんの生い立ちを聞いて、
「……そろそろ次の芸を見せてもらいたいのだけれど……」アルマさんが言う。「なにかないかしらねぇ……」
……芸……私に芸を見せろと言ってきている。またレギスリーさんとの勝負みたいな場がセッティングされても困るので、ちょっとごまかしてみよう。
「アルマさんには……ペットがもう一匹いますよね。そちらに芸を仕込んでみてはどうでしょう」
「師匠のこと?」
「はい」
黒猫の師匠。今も部屋の隅でグースカ眠っている子猫である。かわいい。かわいいけれど……ちょっとは運動しないと太りそう。
「師匠ねぇ……」アルマさんは黒猫師匠の前に座り込んで、「黒猫は不幸を呼ぶっていうから面倒を見てるけれど……やっぱり迷信なのね。あなたが来てから面白いことばかりだわ」
幸運を呼ぶ黒猫か……私が生き残れているのも黒猫師匠のおかげかも知れない。ありがたや。
黒猫師匠はアルマさんの気配に気がついたのか、ゆっくりと目を開けた。そして「にゃー」と小さく鳴いた。かわいい。
「しかし、大人しい猫ね……」アルマさんは黒猫師匠を抱き上げて、「もっと噛み付いたりしても良いのよ? 爪で引っかいたりして暴れても良いわよ」
それはダメだろう。いや、アルマさんが言っているのなら良いのだろうか。わからん。
しかし黒猫師匠も本当に大人しい。騒ぎがあっても冷静そのものだし、常にボーっとしている。すぐに慌ててしまう私とは大違いだ。
とにかく黒猫師匠はアルマさんによく懐いている。私にも心を許してくれているようだし、なによりかわいい。見てるだけで癒やされる。アルマさんみたいな美女が黒猫師匠を抱いているだけで絵になる。
「退屈ねぇ……暗殺者でも雇おうかしら。そうしたら大騒ぎよね」
「……あまり賛成できる意見ではないですね……」
「冗談よ」そうは見えなかったけれど。「そういえばあなた……テーブルクロス引きはできる?」
「できません……」
「私はできるわ。見てなさい」
アルマさんがやるのかよ。私にやらせるパターンじゃないのかよ。
アルマさんはせっせとテーブルクロス引きの用意を進める。小さいテーブルに布を引いてその上にワイングラスを置く。そして高そうなワインを入れて、準備完了。
「じゃあ、行くわよ」
アルマさんが呼吸を集中させる。謎の緊張感に私がツバを飲み込んだ直後、
「アルマ」
いきなり扉が開かれた。
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