第16話 心理学対決
この世界がどこなのかも知らない。アルマさんが何者なのかも知らない。レギスリーさんも知らない。
そんな状況で勝負とか言われても……
しかしアルマさんは名案を思いついたとばかりに、
「心理学対決ね。なかなかおもしろいショーになりそう。さっそく勝負の場をセッティングしてくるわね」
「ちょ……ちょっと待ってください……」話が唐突すぎるぜ。「……その前に……私はこの世界の事とか、なんにも知らないんです。もう少し平穏な時間を……」
「あなたが勝てば、少しの間平穏な時間を与えましょう。これはご主人様としての命令よ。逆らうなら……」
「……わかりました……」
拒否権はないみたいだ。どうしてもレギスリーさんとやらと勝負をしないといけないことになった。
しかし勝手にセッティングされるのは嫌だ。少しでも情報を引き出さないと。
「レギスリーさん……という方は、何者なんですか? さっきちょっと聞きましたけど……まだ情報が少なすぎますよ」
「心理学者を名乗っている人物よ。心理学という学問を修めて、相手の心を自由に読み取ったり、相手の行動を操作したりするの。それらをショーとして見せて、路銀を稼いでるらしいわ」
「路銀ということは……旅人さんですか?」
「そうみたいね。またある程度のお金が溜まったら旅に出る、と言っていたわ」
旅……それが趣味なのだろうか。心が読めてお金が稼げるのなら、一定の地域に留まっても良いと思うが……
バレたら困ることがあるのだろうか。だから一定期間で拠点を変えるのだろうか。
「レギスリーさんのショー、というのはどんなことをするんですか?」
「さっきも言ったとおりよ。心を読んで、相手の行動を操作するの」
「具体的に説明してもらえると、助かります」
「そうね……私が体験したもので良い?」
「はい」
アルマさんは……たぶん真っ先にショーに飛びついたんだろうな。ここまで素直な人なら、相手としても好都合だろう。
ともあれアルマさんの説明。
「私が思い浮かべた数字……1から9までの数字。思いついた数字を私が紙に書いて、彼はそれを見事に当ててみせたの」
「……思いついた数字を紙に書く……それだけ、ですか?」
「そうよ。私が数字を書いて、彼がしばらく念じる。それだけで見事に数字は当たったわ。一度だけじゃなくて、何度もね」
何度もやれと要求したんだろうな。レギスリーさんもちょっと不憫だな。
しかし数字を思い浮かべるだけで当てる、か……
思い浮かべた数字から何かしらの計算をさせて数字を当てることは可能だ。でも……それらの計算などなかったということならばお手上げである。
シンプルだからこそわからない。1桁の数字を確実に当てる方法なんて思い浮かばない。
「用紙に仕掛けはありましたか?」
「私が見る限りはなかったわ。ペンのほうもね」
「紙に書いた数字を他の人に見られた可能性はありますか?」
「ないと思うわ。しっかり隠したもの」
じゃあ降参だ。どんな手品を使ったのかは不明。もしかしたら本当に心が読めるのかもしれない。
一応聞いてみる。
「この世界には妖術や魔法といったものが存在しますか?」
「ないから退屈してるのよ」最初からあったら、それはそれで退屈かもしれないが。「で、どう? 勝負は勝てそう?」
「……どんな勝負をするのかも不明ですからね……なんとも言えません」
「勝負内容は……そうね。まぁ相手の心を読んだりして、観衆を味方につけたほうが勝ちかしら」それからアルマさんはイタズラっぽく笑って、「そっちのほうが……あなたに不利でしょう? ど派手なパフォーマンスは苦手みたいだから」
そのとおりである。私の能力では相手の心を読み取ることができないのだから。だから民衆がわかりやすくて盛り上がるパフォーマンスでは分が悪い。
心理学は相手の心を読めない……そんなことを言えば敗北は確定だ。だって民衆は相手の心を読み取る心理学を期待しているのだから。
「じゃあ勝負の約束を取り付けてくるわね」アルマさんは立ち上がって、「勝負が始まる5日後まで、あなたの安全は確保してあげる。だから……面白い勝負を見せてね」
……5日後以降の安全は保証されないのか……まだまだヒリヒリした日々が続きそうだな。
しかしせっかくの勝負なのだ……どうせ負けたら殺されるのなら、ここで交渉しておこう。
「お願いがあります」
「なに?」
「私が勝ったら……元の世界に戻る方法を真剣に考えてみてください」私はまだ元の世界に未練がある。「お願いします」
「……別に良いけれど……別の世界とか言われても、私にはさっぱりわからないわ。全力は尽くすけれど……元の世界に戻る方法がわかるとは限らない」
「それでも良いです。全力で調べていただけるのなら」
アルマさんが別の世界に興味を持ってくれたら……私は大切な実験台になるだろう。そう簡単には殺されないはずだ。
……問題はその勝負とやらに勝てるかどうか、である。
自信ないなぁ……
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