第13話 人を見る目がないのね
アルマさんが部屋を出ていった。食事を用意してくれるというのだが、自分で作るのだろうか。
……アルマさんって何者だろう。雰囲気的にはお姫様とか女王とか、そんなイメージなのだけれど……だとしたらメイドさんとかに食事を作ってもらうのだろうか。
考えていると、
「ニャー」
黒猫さんが私のベッドに飛び乗ってきた。そしてそのまま私の膝の上に乗って、もう一度「ニャー」と鳴いた。
「ごめんね、起こしちゃったね」触らせてくれそうな雰囲気だったので、撫でてみる。「……ちょっとふっくらしたね……」
出会った頃よりは肉付きが良くなっている。とはいえまだまだ小さく痩せているので油断はできないだろうけど。
アルマさんがしっかりと看病をしてくれたのだろう。だからこうやって黒猫さんと……私も元気になった。
あの人は良い人なのか悪い人なのか……敵か味方か……さっぱりわからない。謎の女性という認識しかない。しかし兵士がわざわざ報告に来るということは、かなりの権力を持った人なのだろうけど……
しばらくして、
「ずいぶんと懐かれてるわね」大きなトレイを持ったアルマさんが戻ってきた。「あなたが命の恩人だと、理解しているからかしら」
「命の恩人はアルマさんですよ。私は……なにもしてません」
「そんなことないわよ。うちの国では……黒猫が不吉なものだって信じられているから。見つけた瞬間に殺されることも珍しくないわ」
そこまで信じられているのか……私は黒猫が好きなので、なんだかショックだな。
ともあれ……
「食事……ありがとうございます。そんなにたくさん……」
巨大なトレイに所狭しと豪華な食事が並べられていた。見ているだけでヨダレが垂れそうな見た目と匂いだった。またお腹が鳴りそうだった。
「料理が趣味なのよ」意外……でもないか? 「でも、あんまり振る舞う相手がいなくてね。食べてくれると嬉しいわ」
「振る舞う相手がいない……?」
「毒でも入っている、と疑われているのでしょうね」……本当のことだろうか。わからない。「あなたはどう? この料理、毒が入っていると思う?」
「……アルマさんが私を殺すつもりなら、そんな回りくどいことはしませんよ」そもそも助けなければよかった話だ。「それに……私視点から見たアルマさんは優しい人です。毒を入れるなんて……疑いませんよ」
「人を見る目がないのね」それはよく言われるけれど。「私の言うことなんて、何一つ信用しないほうがいいわよ。私は嘘つきだもの」
……なんともおかしな人だ。信用しないほうが良い、という言葉は信用しても良いのだろうか。わからん。哲学的な問いになってきた。
ともあれ、ありがたいことに食事を用意してくれた。毒も入っていないだろうし、感謝しながらいただこう。まぁ仮に毒が入っていたとしても、私に見分ける能力はないのだけれど。どこかの薬屋じゃないからな。
「いただきます。ありがとうございます」
配膳を手伝って、食事をいただく。
その途中で、黒猫さんが私の膝の上からアルマさんの膝の上に移動した。その場所で寝息を立て始めたので、なんだアルマさんも懐かれてるじゃないか、となぜか愛おしい気分になった。
とにもかくにも食事だ。お腹が減って仕方がない。といってもいきなり固形物はお腹に悪そうだったので、まずはスープを頂いてみる。
「あ……おいしい……」
優しい味だった。私の体調を気遣ってくれたのだろう。
体が暖かくなった。熱々のスープが喉を通って、全身にエネルギーが巡っていく。やはり食事というのは生きるために必要不可欠な動作だった。
3日ぶりの食事。極度の空腹も相まって、この世のものとは思えないほど美味しかった。匂いも食感も、そのすべてが私を包み込んでくれるようだった。
なにより……料理から優しさを感じた気がする。遠い記憶の中で食べた……母の料理に似ている気がした。
そんな私には似合わない感傷は……無理やり張り詰めさせていた緊張の糸を緩めるには十分な要因だった。
「……泣くほど美味しい……?」アルマさんは頬杖をついて、「そんなに喜んでくれるのなら、作ってよかったと思えるわ」
「……美味しいです……」涙を拭ってみるが、拭うたびにあふれてしまう。「ごめんなさい……ちょっと、安心したみたいで……」
大声を聞くのが苦手なのだ。悪口だって聞くのが苦手だ。殺されかけるのだって好きな訳がない。
「無理もないわよ。いきなり殺されそうになって逃げ回って……それから3日も高熱でうなされて。その状態での食事だものね」
極限状態での食事がこんなに美味しいとは思っていなかった。もちろん殺されかけるのはゴメンだが、またこんな食事を味わいたいと思った。
「ゆっくり食べたら良いわ」優しい人、なんだろうな。たぶん。「落ち着いたら……さっきの話を聞かせてね」
さっきの話……ああ、私の未来予知の話か。
……
泣いてばかりもいられない。だってこの場所は私のまったく知らない土地なのだから。これから、さっきみたいな窮地が訪れないとも限らない。
……なんとかして生きていかないといけない。そしてさっさと元の世界に戻らなければ。
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