第12話 必然といえば必然

 これは本当にツキだ。ラッキーだ。運が良かっただけだ。未来予知なんてできるわけがない。


 未来予知をしたとだけだ。


「さっきの兵士の話なんだけど……」アルマさんは困惑顔で、「レギスリーさんのショーが、5日後に開催されるんですって。それを伝えに来たらしいの。他にも補足説明もあって……私にとっては面白い話だったわ」


 なんというラッキー。なんという僥倖。日頃の行いは悪くても、こんなラッキーが舞い込んでくるものなのか……


 アルマさんは続ける。


「これが、あなたの言うキッカケ? 私の悩みに対するキッカケ……」


 それはどうなのだろう。私にもわからない。


「……ちなみになんですが……アルマさんのお悩みというのはなんですか?」

「退屈なことよ」だから暗殺者を匿った。「いろいろ試しているのだけれど、どうにも退屈なの。だから暗殺者とか妖術使いとか……面白そうな人がいたら、ちょっかいをかけてるの」


 ちょっかい、という認識はあったのか。


「でも退屈は紛れないわ。しばらくは楽しめるのだけれど、すぐに飽きちゃうの」飽き性な人なのか。見た目通りだな。「そんな中で、最近はレギスリーさんという人物が面白くてね」

「……どんな人物なんですか?」

「そうね……心理学で相手の心を読み取ってしまう妖術使い、らしいわ。実際に私も会ってみて、私の心の中を読み切ったの」

 

 マジックでもやったのだろうか。あるいは……本当に超能力者? 異世界なのだから可能性はあるかもしれない。詳しい話は後で聞いてみよう。


 ともあれ今はアルマさんの話を聞こう。


「そのレギスリーさんは、たまにショーをやるのよ。しばらく前に現れてショーを始めて、それで結構儲けてるらしいの。まぁビジネスというか、そんな感じなの」


 その能力でお金稼ぎか。それは素晴らしいことだろう。自分の能力で生きていくというだけの話だ。


「もしかしたらレギスリーさんは私の退屈を紛らわせてくれる存在かもしれない。またいつかショーをやってくれないかなって……そう思ってたの」なるほど……それは私にとってラッキーだった。「そんな状態であなたの予言よ。私の退屈を紛らわせてくれるキッカケ……それが見事に訪れたわ」

「……それは……良かったです」


 少しアルマさんの顔が興奮したものに変わっていた。声も早口気味だし、どうやら私に興味を持ってくれたようだった。


「ねぇ、どうやったの?」彼女は興味津々な様子で、「未来予知ができるの? それとも、やっぱり心が読めるの?」

「どちらもできませんよ」

「じゃあ……どうして? ただ偶然だって言うの?」

「偶然といえば偶然です。しかし必然といえば必然です」

「……よくわからないけれど……説明してくれる? なんであなたは、未来予知みたいなことができたの?」


 ……それは結構複雑な話なのだけれど……


 ともあれ、とりあえずは助かったようだった。予言をハズせば殺されるという約束なのだから、当てればしばらくは生き残らせてくれるだろう。


 ああ助かった……そう思って説明を開始しようとした瞬間だった。


「あ……」


 グー、っと私のお腹が鳴った。その大きな音は部屋中に響き渡って、眠っていた黒猫さんも目を覚ますほどの存在感があった。


 ……安心したらお腹が減ってしまった……なんとも恥ずかしい……


「たしかにお腹が空いたわね」アルマさんはクスクス笑ってから、「もうすぐお昼の時間だし……食事の用意をしましょうか。食べながら説明してちょうだい」

「……す、すいません……」


 こんな大きなお腹の音、生まれて初めて聞いた。恥ずかしくてたまらない。


「いいのよ。よく考えれば3日、何も食べてなかったわね。そりゃあお腹も空くわ」


 そうか3日も寝ていたのだった。道理でかつてないほど空腹なわけだ。


 ……


 しかし……異世界に来てからというもの綱渡りだな。兵士に追いかけられて、今度は謎の女性に命をかけた問答をさせられて……


 ……これからどうなることやら……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る