第9話 殺されたかったんですか……?
誤解はなくなったのだと思っていた。私が暗殺者だという疑いは晴れて、だからこそこうやって看病されているのだと思っていた。
なのに目の前の女性は……
「暗殺者なんて久しぶりよ」とても楽しそうに語るのだった。「場内にまで入ってこれる暗殺者は少ないの。かなりの実力派だと思うのだけれど……あなたはどうやって、誰を暗殺するつもりだったの?」
「……暗殺って……誤解ですよ。私は……」
「じゃあ国を乗っ取ろうとしにきたの? そういえばあなた、追いかけてきた兵士を妖術で追っ払ったそうね。そうやって国王様をたぶらかそうとしていたの?」
なんかとんでもなく誤解されている。今の私は妖術使いの暗殺者ということになっているらしい。まったくもって事実無根だ。
「私は暗殺者ではないですし、妖術使いでもないですよ」
「じゃあ、なんでお城の中に忍び込んだの?」
「……私にも、わかりません……」正直に答えるしかない。「気がついたら、あの部屋にいたんです。私の意志で行ったわけじゃありません」
「ふぅん……」信じてもらえないだろうな、と思っていると……「……もしウソをつくのなら、もっとマシなウソをつくわね。そんなウソみたいな話は、きっと真実なのかも」
話が作り話に聞こえすぎたのか。だからこそ真実だと思われた。
たしかに自分でも意味がわからない。私が会話の相手なら絶対に信じないと思う。
相手が考え込んでいるうちに、私は言う。
「あの……ここはどこなんですか?」
「私の部屋よ」
「あ……いえ、そうじゃなくて……」
「……? ガイツハルス城の私の部屋」
「……ガイツ……ハルス城……?」聞いたこともない場所だ。私が無知なだけだろうか。「そんなお城、日本にありましたっけ……」
なんともなしにつぶやいたのだが、
「ニホン……? そこがあなたの国? あなた、海外からきたの?」
「海外……」日本国外に出たのだろうか。あるいは……「アメリカとか、中国とかインドとかドイツとか……聞いたことはありますか?」
「ないけれど……それがどうかしたの? 町の名前?」
まったくもって冗談キツイぜ。信じたくない事柄というのは、いつだって真実だ。だからこそ信じたくないのだ。
「……あの、信じてもらえないと思うんですが……言ってもいいですか?」
「どうぞ」
「私……別の世界から来たみたいです」ドッキリじゃない限り。「ニホンという国に住んでいるただの一般人です。別の世界に飛ばされてきたみたいです」
自分でも何を言っているのかわからない。
「……異世界から来たってこと? お城の内部まで忍び込める暗殺者の言い訳としては、三流すぎるわね」私もそう思う。「そもそも……体調が悪い日に暗殺なんてしないわよね」
依頼人がどうしてもその日に殺してくれ、と言っていた別だろうけど。もちろんその考えは口には出さない
「いいわ。信用してあげる。今のあなたに殺意はなさそうだし、武力があるようにも見えない」非力そうな見た目で助かった。「あなたは暗殺者じゃない。それは信用してあげる」
「……ありがとうございます」
「お礼はいらないけれど……」なぜか彼女はため息とともに、「ああ……残念。せっかく久しぶりの暗殺者だったのにね」
……なんで残念なのだろう。暗殺者がいなかったのは喜ばしいことじゃないのだろうか。
……
「殺されたかったんですか……?」
「まさか。そんなわけないでしょう」ならばなぜ……? 「退屈なのよ。だから暗殺者でも来てくれないかなって思ってたの」
「はぁ……」
よくわからん人だ。
「そうだ。あなた妖術使いなんでしょう? なにか妖術を見せてくれないかしら」
「……申し訳ありませんが……私は妖術使いでもないです」
「そうなの……」明確に落胆させてしまった。「残念ね……せっかく面白い子が来たと思ったのに」
「……ごめんなさい……」
なんで私は謝っているのだろう。別に私は悪くないだろうに。
しかし妖術ね……もしかして異世界に転生して能力でも授かったか? いや、だったら兵士に追いかけられた時点で発動してるよな。
「つまらないわねぇ……」目の前の女性はため息と一緒に、あっさりとこう言った。「じゃあ殺してしまいましょうか」
……
……
まだまだ助かったと思うには早いようだ。
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