第8話 3日も
また目が覚めた。
目が覚めたら目の前には見慣れた天井……なんてことはなく、またまったく知らないお城の天井だった。
……
変な夢を見たものだ。師匠と出会った日のことなんて、しばらく思い出したこともなかったのに。
……というか師匠、心配してるだろうな。私が急にいなくなって困っているだろう。早いところ大学に戻らないと。
「……?」
重たい体を起こそうとして、額からタオルが一枚落ちた。ひんやりと濡れているところを見ると、どうやら誰かが看病をしてくれていたらしい。
体を起こして、私は自分のいる場所を確認する。
前に目覚めた部屋とは違う場所だ。だけれど豪華さは一緒。カーペットもシャンデリアも絵画もど派手で高級そうだった。私なんているだけで恐縮してしまう。
前の部屋と違うところといえば、掃除が行き届いていること。ホコリ1つ見当たらないし、ガラスもピカピカ。おそらく誰かが住んでいて、マメに掃除をしているのだろう。散らかり放題の我が家も見習わないといけない。
そして……私はベッドに寝かされていた。しかも冷たい濡れタオルが額にあったし、このフトンもふかふかだ。かなりの好待遇で、とても暗殺者に対するおもてなしとは思えない。
……
「暗殺者……そうだ、私……」
段々と思い出してきた。たしか私は暗殺者と間違われて兵士に追われていたのだ。
それからクローゼットに隠れて、謎の女性に見つかって……
……どうなったんだっけ? 見つかってから倒れて気絶して……そこからの記憶がない。
私はなぜベッドで寝かされているのだろう。黒猫さんはどうなったのだろう。そもそも……
「ここは……どこ?」
まったく知らない場所だ。とても日本国内にある場所とは思えない。少なくとも私の家の近所には存在しない建物だろう。
夢でもなくて誘拐でもないのなら……
「異世界……」
自分で言って首を振る。
そんなわけがない。異世界なんてあり得るわけがない。仮に異世界だったとしたら、さっさと帰らないといけない。あれで師匠は……怒らすと結構怖いのだ。
ともあれ、さっさと家に帰ろう。黒猫さんも気になるけれど……今の私に黒猫の安否を確認する方法はない。
というわけでベッドを降りようとした……その瞬間だった。
「あんまり無理しないほうが良いわよ」聞いたことがある声……クローゼットを開けた女性の声だ。「あんな高熱を出していたのだもの。もうしばらくは安静にしておきなさい」
そう言って現れたのは……美しい女性だった。
年齢は私よりも上だろう。30歳とかそれ以上とか、そんなくらい。
だけれど、その美しさは同性の私も見惚れるほどだった。豪華なドレスと装飾に負けないほどの美貌を持ち合わせていた。
何より……その自信たっぷりの表情が目に焼き付いた。なんか師匠みたいな人だな、と思った。若干悪役に見えるところも師匠に似ていると思った。
……どこかのお姫様、だろうか? ハッキリ言って私は絵本の中のお姫様に憧れている。だから……
「……?」彼女は首を傾げて、「どうしたの? 頭でも痛む?」
「あ、いえ……」見惚れていた、なんて言えない。「えっと……」
なんて言えばいいのかわからない私に、彼女が言う。
「体調はどう? ビックリしたわよ。あなた、急に倒れるんだもの」
「……倒れる?」
「覚えてないの?」
うなずいておく。本当は少し覚えているけれど、向こうに説明してもらったほうが楽だろう。
「あなたはクローゼットの中に隠れていて、その状態で私に見つかったの。それから急に倒れたから……私が自室に運んだの」
つまり……
「……ありがとうございます……」この看病をしてくれたのは彼女らしい。「助かりました……」
いきなりぶっ倒れるほどの高熱を出していたようだし、放っておかれたら死んでいたかもしれない。
「意識はしっかりしてるみたいね」会話が成立しているからな。「さすがの私も心配したわ。3日も目を覚まさないんだから」
3日……? 私、3日も寝ていたの?
……そんなに疲労を溜め込んでいたつもりはないけれど……兵士に追いかけられて、そんなに疲弊していただろうか?
しかし……とにかく助かった。この女性には感謝しないといけないな。
なんてことを思っていると、
「じゃあ、私のことを殺してくれるの? 暗殺者さん」
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