第2話 ここにいるぞ
1週間前
☆
寝付きは良いほうだと思う。寝起きもそれなりに良いほうだと思う。
いつもなんとなく入眠して、なんとなく起床する。それでなんとなく大学に行って、なんとなく授業を受けてなんとなく1日を終える。場合によってはバイトもする。
このままなんとなく毎日を繰り返して、それが毎週になって毎年になって……なんとなく人生を終えるのだろう。
20歳を過ぎたら体感的には人生の半分が終わったようなもの。そんなことが言われるほどには1日が短く感じる今日このごろ。
いつものように狭い自宅で眠っていたはずなのだが……
「……?」なんだか騒がしくて目が覚めた。「……」
……
……
知らない天井が見えた。なんだか豪華な装飾の施されたど派手な天井だった。いつもの殺風景な天井とは違った。
背中が冷たい。どうやら地面に直接寝ているようで、体中が痛かった。なんだ寝相が悪くて布団から這い出たか。
いや……そんなはずがない。仮に寝相が悪くても部屋には鍵がかかっている。いくらなんでも鍵を開けて外に出て、人様の部屋に入ってしまうことはないだろう。
じゃあここはどこだろう。まったく見たことのない場所だが……
「……頭……痛い……」
寝ぼけているのか、頭が重い。そんなに疲労が溜まっていただろうか。十分に睡眠時間は確保していたと思っているが……
「……」重い体を無理やり起こして、なんとか立ち上がる。「……どこ、ここ……」
立ち上がってみても、まったく知らない場所だった。夢の中にいるのかと思ったが、現実感が大きすぎる。ほっぺたをつねってみてもしっかりと痛い。
夢ではない。ならば現実なのだろう。
「現実として……私はまったく知らない場所にいる……」
誘拐でもされたか? いや、私を誘拐してメリットがあるとは思えない。
それに……
「……なんか、日本って感じがしないな……」
洋風のお城の一室みたいなきらびやかな部屋だった。シャンデリアも豪勢だし、壁の絵画も高級に見える。なにもかも美しくて、私みたいなのがいることが唯一の汚点に思えた。
……しかし、なんだかホコリが多い部屋だった。あんまり人が出入りしていないのだろうか。せっかく良い部屋なのにもったいない。
少し……部屋の外が騒がしかった。結構な人数が走り回っているようで、かなり大きな建物なことが伝わってきた。
「……どこかのお城……? いや、そんなわけが……」
私はお姫様なんかじゃない。ただの大学生だ。こんな豪華な場所には縁もゆかりもない。
やっぱり夢か……? 痛みのある夢なのか……?
とにかくこの部屋から出よう。ここにいても始まらない。そう思って歩きはじめて、
「……?」なにか……部屋の中から声が聞こえた。「……誰か……誰か、いるんですか?」
部屋の中に声をかけてみるが、返事はない気のせいだっただろうかと思い直していると……
やはり聞こえた。声……鳴き声だ。人間の声じゃない。
この鳴き声は……
「……猫……?」
猫の鳴き声だ。それもかなり小さい子猫の、弱った鳴き声。ボーっとしていたら聞き逃すような、そんな鳴き声。
……
無視しようかとも思った。正直言って、今はこの場所がどこなのかを把握することのほうが重要な気もした。
でもまぁ……いいか。ここで猫を見捨てたら夢見が悪いだろう。それくらいなら助けようとしたほうがいい。
というわけで……私は猫の鳴き声の場所に向かった。
部屋の中を進むと、その鳴き声の主はすぐに見つかった。
「いた……」ベッドの下で、寒そうに丸まっていた猫を見つけた。「……黒猫……小さい……」
小さいし……なにより痩せている。十分な食事にありつけていないことは明白だった。なんでこんなところにいるのかは不明だが、誰かが助けないと死んでしまうだろう。
それもまた自然の摂理と思いながらも、私はその黒猫に声をかける。できる限り優しい声音で、
「おいで。私も迷子みたいなものだけど……たぶん、力になれると思う」
急に触ると驚かせてしまうだろう。だから向こうから動くのを待とうと思っていたのだが……
黒猫はこちらをちらりと見て……そのまままた目をつぶった。動きたくないのか、動く元気がないのか……
「無理やり連れて行く……ことになるのかな……」
怯えさせたら申し訳ないが……それしか方法はあるまい。
そう思って黒猫に手を伸ばしかけた瞬間だ。
「いたぞ!」突然扉が開かれて、そんな大声が聞こえた。「ここだ! 暗殺者はここにいるぞ!」
……
暗殺者?
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