第八章

エスペランサ博士の遺志

 扉らしきものの前に立ち、ネジ式がパネルを操作するが反応はない。

「おかしい……電源が死んでしまっている」

 森からはカニバルの遠吠えが迫っている。ネジ式は扉の足元辺りにあったコックを引っ張ると回し始めた。扉が上へと開いていく。

「お、おい? まさか〝ノア〟って……」

 タテガミが言いかけるとネジ式はそれを遮って、「とにかくモヒさんの手当を先にしましょう」と船内に入っていった。

 船内の通路は広く、タテガミが見たこともないような素材で内装は作られていた。通路を進んでいくと、再び閉まる扉に行く手をはばまれた。ネジ式は脇にあるパネルを触ったが、やはり表の扉と同じように反応はなかった。どうやら、何らかの理由でメインの電源が落とされている。何よりもまず、船の電源を復旧しなければならない。

 ネジ式はその扉に手をかけると、強引にこじ開け中に入った。ネジ式達の目の前にはさらに通路が伸びていた。通路を真っすぐに進んでいくと、やがて下へおりる階段と上へあがる階段が現れた。

「タテガミさん、よく聞いてください。この階段をおりた先に扉があります。その扉は電源が落ちた場合のみ開けることができる扉です。その部屋に入りまっすぐ進んだ先に、たくさんの線が集結した箱が幾つか壁に備えられているはずです。その箱の蓋を全て開け、中にあるレバーを全て、上に押しあげてください」

 ネジ式に頼まれたタテガミだったが、まるで自信がなさそうだ。

 タテガミにとってこの場所に来るのも初めてならば、見る物全てが初めて――ネジ式の話を聞くには聞いていたが、タテガミにはこの先にどんな物があって、どんなことをすればよいのかすら想像もつかない。

「い、一緒に来てくれないのかよ?」

「一刻を争います。私は先にあがって、モヒさんの生命維持装置をセッティングし、処置の準備をしなくてはならないのです」

 そう言うと、モヒを背負ったまま、ネジ式は階段をあがっていってしまった。ちくしょうやるしかない! タテガミは心の中でそう叫び、ノアを抱えたまま下へとおりていった。

 ノアはうつろな目のまま、まるで夢でも見ているようだった。いつもタテガミと二人で遊んだ森でネジ式と出会い、初めて村の外の世界へと、忘却の都を目指し旅に出た。村の外で出会った、両親を失ったばかりの復讐に燃えるモヒの目が怖くてたまらなかった。

 グースーの子供を食べるために殺した。相手の命をつみ、明日へ繋ぐ命の糧にする意味を、言葉だけでなく身を持って体験した。しかしそれと同時に『グースーの親はおいら達に復讐に来るのかな?』というタテガミの言葉がいつまでも心に残った。

 やがて、自分達もカニバルの命を繋ぐために搾取される連鎖の一部だという現実を父親の首飾りを通して知ったとき、ノアの心は怒りと復讐の炎で焼きつくされた。 

 抑えられない怒りが体をつき動かす。本当の意味でモヒの復讐心を理解したとき、目の前で死にゆくモヒの姿に、ノアの心は砕かれた。

 こんな所で怯んでいられない。お父さんの、そしてモヒの仇を私がとるんだ!

 ノアは我に返った。その目に再び力が宿り、周りの様子がはっきりとわかった。

 そこに、扉に向かって何度も体当たりをしているタテガミがいた。

「タテガミ! ネジ式とモヒは? カニバルはどうなったの?」

「ノア! 気がついたのか!」

 タテガミは状況を説明した。どうやら扉の向こうに何かがあり、扉が開かないようだった。ノアが辺りを見渡すと、ふと天井から冷たい空気が流れこんでいるのに気づいた。天井には四角く切りぬかれた穴に鉄の柵――ノアが見つけたのは通風口だった。

「あれで扉の向こうまでいけないかしら?」

 ノアがタテガミを肩車する。タテガミは通風口の柵をずらすと、中へ潜りこんだ。

「どうなってる?」

「よくわからないけど、いけそうだ!」

 タテガミが、体一つ分しかない狭い通路の中から、隣に通じる部屋の柵をずらして足でけった。柵は地面に落ちて、金属のぶつかる高い音がノアの耳にも届いた。

 室内へ飛びおりる。閉まっていた扉を開けようとタテガミが見ると、そこに見慣れた姿のロボットが、扉の丸いコックに自分の腕をつきさすように塞いで倒れていた。

「これは? ネジ式⁉」

 そっくりだがネジ式のわけがない。それにネジ式と違って傷やへこみ、錆もなく、きれいなまま動かなくなっているだけだ。とにかく扉を開けようと、タテガミはロボットの腕をぬいて、その丸い取っ手のようなものを回した。扉が開かれてノアが入ってくる。

「ネジ式⁉」

「いや、それはネジ式じゃないはずだ! ノア、そんなことよりこっちが先だ!」

 タテガミは配線ボックスの蓋を開き、一つ目のレバーを押しあげた。訳のわからぬままに必死にレバーを上げていく。バシンと低い電気音が室内で響いた。

 次の瞬間、うす暗かった船内は日中のように光に包まれていた。

 ネジ式がモヒの傷口の処置を終える頃、〝ノア〟の電源が復旧された。

 船内には明かりが供され、生命維持装置にスタンバイ状態を示すランプが点灯した。

「どうやら成功したようですね」

 ネジ式がモヒをマシンに横たえると装置の蓋が自動で閉じていった。

 こちらに向かってかけてくる足元がある。ノアとタテガミだった。

「モヒは⁉」

 二人とも全速力でかけあがって来たのだろう、肩で大きく息をしている。

 その表情には不安が滲み出ていた。ネジ式がふり返り、話そうとしたとき、船内にけたたましい叫び声が響いた。カニバルの声だった。

「どうやら、カニバルの侵入を許してしまったようですね」

 ネジ式が、部屋の中央にあるパネルを操作し始める。

 前方に備えつけられた大きな画面には、別の場所がいくつもモニターされている。画面の一つにカニバルの姿が映った。必死にパネル操作を続けるネジ式の向こうに、左目のつぶれた、あのカニバルの姿があったのだ。

 それを見てノアの表情が豹変した。またもやタテガミの腰からナイフをつかみ取り、声をあげながら、カニバルが映る画面に飛びかかると、ナイフを激しくつきさした。

 小さな爆発音と共にモニターは火を吹いて割れ、画面は真っ暗になってしまった。

「あぁ! なんてことを、それはカニバルではありません! 映像で見てるだけで、実際には違う所にいるんです!」

 黒く消え去った画面は煙をあげている。頭に血がのぼっているノアには、まだ自分が何をしたのかわかっていなかった。

「ノアさん、復讐心はさらなる復讐心しか生みません」

「それが何よ! お父さんを殺され、モヒまでひどい目にあわされたのよ! 仇をうたずにはいられないわ!」

 ネジ式はまだ操作を続けている。

『……エリアB封鎖、ロック開始……D区画シールドオン……』

 命令を受理する音声が次々と響くと共に、船のあちこちからガシャン、ガシャンと扉の閉まる音が聞こえてきた。ネジ式がやっとパネルから手を放した。これ以上カニバルを侵入させないよう、ノアの扉を全て閉じたのだ。

 すぐ近くから、閉じこめられたカニバルのいらだつ咆哮が聞こえた。

「お二人とも、こちらへ」

 ネジ式は奥の扉へと進んだ。横のパネルを操作すると、今度はプシュンという音と共に扉が開く。ノアはまだとまどっていた。

「ノア、そのナイフを返してくれ。それはおいらのナイフだ」

 タテガミは、ノアに武器を持っていてほしくなかったのだ。

「ごめん……」ノアはそれ以上、何も言えなかった。タテガミも、そんなノアにかけてやれる言葉が見つからなかった。

 部屋に入ると、そこはカノンの音色で満たされていた。

 ネジ式が何度も聴かせてくれたあの旋律。しかしこれまで聞いてきたノイズ混じりの音ではなく、全く歪みがなく美しい。透き通った音が、部屋全体から響き渡っていた。

 うす暗い大きな部屋の中央には、透明なガラスパネルに囲まれた、一本の太い柱のような巨大な機械が備えつけられていた。それは〝ノア〟のメインコンピューターだった。

 ネジ式がその前で、自分の持っていた全てのデータを送信する。

 ガラスパネルの中で数え切れない細かな光が、カノンの旋律に合わせるようになめらかに点滅して動いていた。柱の周りをグルグルと螺旋の軌道を描きながら、小さな光が舞いあがるように規律正しく昇っている。

「……ここは?」ノアがネジ式に尋ねた。その時、部屋のどこからともなく、女性の声が響いた。その声はあたたかく、なぜか母親を思わせる。

「ようこそノアへ、あなた方カノンの民を歓迎します」

「い、今の声は⁉」

 その声が耳に飛びこんできた瞬間、ノアの目に涙が溢れた。初めてネジ式に、カノンを聴かせてもらったときのように。

「マザー……」

「そうです。あなた方が会いたがっていたマザー。マザー・アマル・エスペランサです」

「エスペランサ?」

「はい、私はエスペランサ博士の手によってプログラムされたコンピューター。博士は私を〝希望〟を意味する〝アマル〟と名づけてくれました」

 淡々と、しかし優しく包みこむようにマザーアマルは話す。

「じ、じゃあ、あんたがおいら達、カノンの民の祖先を産んだ、大母ちゃん?」

「その通りです。あなた方カノンの民は、エスペランサ博士のキメラ計画の発想をもとに、私が造り出したのです」

 ノアもタテガミも、マザーアマルの姿を具体的に想像はできなくても、多少は自分達に似た姿容の人物だと思いこんでいた。しかし現実にはコンピューターという理解しがたい存在で、二人は驚きを隠せなかった。

 なぜ私達を産み出したのか? ノアが尋ねようとしたとき、ネジ式が割って入った。

「マザーアマル。なぜ動物とかけ合わせたキメラを? そのうちの一種族が同族喰いを行っています」

「赤い目の白いキメラのことですね。彼らのことを話す前に、順を追い、二人にもわかりやすいよう、事の始まりから話しましょう」

 マザーは、ノアの気持ちを察したかのように優しい声で話し始めた。

「キメラ計画の始まりは、私達が暮らしていた地球と呼ばれる星の終末の大戦争がきっかけでした」

 ガラスパネルに映像が浮かびあがる。――カノンでは見たこともないような様々な兵器が火を吹いている。空は真っ黒な厚い雲におおわれ、陽の光も届かない。地上には緑もなく、地上を埋めつくすおびただしい数の人と兵器が火を放っていた。

 やがて地上は真っ赤に燃えあがり、その勢いは星全体を飲みこんでいく。地球と呼ばれた星はまるで太陽のように真っ赤に燃え広がっていった。

 その死んで行く星から一粒の光が宇宙へと飛び出していく……。

「地球に住む人間によって引き起こされた争いは、やがて自分達の住む星を死の星とし、誰も住むことのできない星にしました。エスペランサ博士を含む数人の科学者は、あらかじめ採取しておいた地球上全ての動植物の遺伝子サンプルを持ち、このスペースシップノアに乗りこみ宇宙へと飛び出したのです」

 さらにマザーの話は続いた。ノアに乗りこんだ科学者達は、再び自分達が暮らすのに適した星を探すため、宇宙をさ迷っていた。もしも、そんな星が見つかったなら、あらかじめ持ってきた遺伝子サンプルからもう一度、人を含む地球上の動植物を復元し、そこで新たに生活をしようと考えたのだ。それがキメラ計画という名の復元計画だった。

 しかし、そう簡単には暮らす星など見つからない。仮に見つかったとしても、その頃には膨大な時間が過ぎ去り、科学者達は死んでしまう。そう考えた彼らは、ノアを自動操縦に切り替え、地球によく似た星を見つけたら着陸するようにプログラムし直した。

 エスペランサ博士はマザーを使い、着陸と同時にロボットを探索に出し、その星の環境を調査するようにプログラムした。そして調査の結果、もしそこが地球に似た環境ならば遺伝子サンプルの復元作業を進めるよう指示していた。

 科学者たちは、わずかな希望を胸に冷凍睡眠装置に入った。コールドスリープ状態になって朗報を待つことにしたのだ。

「え? じゃあここには、その地球から来た博士達がいるの?」

「はい、しかし目覚めることはできませんでした」

 マザーはノアの質問に答えを導くかのように話を続けた。

 ノアは宇宙空間の中を何万光年とさ迷っていた。定期的にハイパードライブをくり返し、少しでも人類が暮らすのに適した星がありそうな場所へ短い時間で到着するために。

 しかし何度目かのハイパードライブで、予測不可能な磁場が発生した。磁場が船内全てに影響を与え、ノアのシステムに大きな損害を与えてしまったのだ。船は正常な運航ができなくなり、システムは次々に停止し始める。当然コールドスリープ状態になっている博士達の装置にもその作用は及び、冷凍睡眠が解除される前に、生命維持システムは機能しなくなり、博士達はそのまま死んでしまった。

 マザーコンピューターアマルは、自らの修復をくり返しながらも、咄嗟の判断でエスペランサ博士だけでも救おうとした。だが、既に装置の中で死にいく博士を救うには時間が足りなかった。仕方なくマザーはエスペランサ博士の意識や思念だけでもと、自分にアップロードしたのだった。

「博士の意識を取りこんだとき、博士の考えが私にははっきりとわかりました。彼は地球での惨事から、人間は生物の頂点に立つべきではないと考えていたのです」

「まさか! それが人と動物をかけ合わせたキメラ?」

「そうです。#12も知っているように、より強い個体を作るため、『ヒト×ヒト』キメラの計画は既にありました。しかし博士の考えは違いました。地球と同じ復元を目指すだけでは、同じ歴史を辿ると考えたのです。博士は人間だけではなく、人間と動物をかけ合わせたキメラを造り、互いに助け合い補い合う関係を作り、新たな地で争いをなくそうと考えていたのです」

 コントロールを失ったノアは、近くにあった星に不時着し、予定通りロボットを派遣し環境を調査させた。この中の一体がネジ式だったのだ。

「驚くほどこの星の環境は地球に似ていました。各地に派遣したロボットから調査報告が届くたび、私は期待に胸を膨らませました。私は博士の計画に手を加えて、人類の復元計画を実行しました。ヒトとは別に、人と動物の遺伝子を組み合わせたキメラを生み出すことをです。それと同時に私の補助ロボットとして船内に残っていた二体のうち一体に、地球から持ちこんだ植物を培養し各地で繁殖させるように指示を出しました。そして残りの一体には産まれたばかりのキメラ達の世話をさせることにしました」

「じゃあ、伝説は本当だったんだ! おいら達の祖先はここで産まれて、ここから旅立ったんだ!」

「そうです。しかし、新たな問題が発生しました。あの赤い目の白いキメラです」

 マザーが言った問題、それはカニバルのことだった。「彼らは他種族より、微量栄養素セレンを特別大量に消化してしまう酵素を持っていて、常に欠乏する個体となってしまっていたのです。しかしノアの船内にいる間は問題は表面化していませんでした。船をおりて生活を始めた彼らは、エネルギーは足りていても、栄養上、激しく飢えるようになりました。そしていつしか共食いするようになったのです。私は問題解決のため、彼らの生態を詳しく調べることにしました。そのためには彼らのサンプルが必要となり、キメラ達を世話していたロボットに連れてくるように命令を出したのです」

「じゃあなぜ問題は解決してないの? 解決してればお父さんを失わずにすんだのに!」

 取り乱すノアをタテガミが抑える。マザーの話は意外なものだった。

「彼らを世話していたロボットはオメガと言いました。オメガはキメラ達を自分の子供のように愛情をかけて育てた。カニバルに問題があってもそれでも彼にはかわいい子供だったのです。そんな我が子を私の所に連れていけばきっと削除されてしまうに違いない、そう考えた彼は無謀にも反乱を起こしノアそのものの電源を落とした……」

「じゃああの扉の所にいたネジ式が?」

「あなた方の世話役をしていたロボット、オメガです」

「つまり、わが子を想う親心がこれほどに歯車を狂わせていったと……」

 ノアもタテガミも黙っていた。自分達を想うあまり、流さなくてすんだ血と、怒りと哀しみが生まれたのかと思うと何も言えなかった。

「じゃあ、カニバルを連れてくれば、問題は解決できるのね?」

 ノアがマザーを見つめる。

「はい。体内のセレンを消費する酵素の構造がわかれば、解決する手立てがあります」

「その役、私がやるわ! お父さんの仇をうちたいの」

「だめです! ノアさん、復讐は……」

「これを持って行きなさい」

 ガチャリと音を立て、壁の一部に隠されていた扉が開くと、中には一丁の銃が入っていた。マザーがガラスパネルに銃の使い方を示す映像を映し出す。

「銃口を相手に向け引き金を引けば、中から弾が飛び出し相手を動けなくするでしょう」

「マザー!」ネジ式が信じられないと言うように叫んだ。

 ノアは進み出て銃を取りあげ、タテガミと共に部屋を出ていった。

「これでは地球の二の舞です」

「確かに、人間の争いも始まりは些細なことでした。個と個が争い、グループ同士の争いになり、やがて町と町、国と国に発展し、ついには星を巻きこむ争いになりました。しかし私は博士の思想を信じたい。彼らが助け合い、補い合うことで平和の螺旋を辿る未来を……。彼女に渡したのは麻酔銃です。#12、彼らについていき、彼らの助けになってあげてください」

 ネジ式が部屋を出ると、ノアとタテガミは、生命維持装置の中のモヒを見ていた。

「モヒは、助かるのか?」

 タテガミが聞いたとき、装置からけたたましいアラーム音が鳴り響いた。ネジ式が慌ててかけ寄る。モヒが意識を取り戻したようだ。ネジ式はアラームを切ると、装置の中からも音声が聞こえるようにスピーカーを繋いだ。

 二人は意識を取り戻したモヒに喜び涙を流していたが、ネジ式の表情は浮かなかった。彼は知っていた。モヒがもう持たないことを。

「よかった! モヒ!」二人は装置にへばりつき喜ぶ。

「その声は……ノアとタテガミ……。なんだ? ここは真っ暗で、とても寒いな……」

 モヒの目は、開いているのに、もう何も見えていないようだった。ノアとタテガミは驚きふり返ったが、ネジ式は何も言わずうつむいて首をふるだけだった。

「ノア、そこにいるんだろ? よかった、おまえが無事で。あのとき、俺の復讐が果たせたとしても、おまえが死んでしまったら、一体俺は、誰に復讐心を抱いて生きていけばいいのかわからなくなっていたよ」

 モヒの呼吸が次第に荒くなっていく。

「おい! モヒ! もういいから休んでろよ!」タテガミの声は涙まじりだ。

「泣いてるのか? ……タテガミ……ノアは、たまに冷静でいられなくなるときがある……おまえがちゃんとノアを止めろよな……」

「わかってる! わかってるから、もう休めよ! 元気になったらおいら達の村で、一緒に暮らすんだ!」

「そうよ! だから後は私達に任せてあなたは休んでて」

「そうか……それはいいな……楽しみ…だな……疲れたよ……じゃあ、少し眠るよ……」

 モヒの呼吸は静かになり、それきり二度と動くことはなかった。アラーム音はなく、ただ無機質なライトだけが、沈黙の中虚しく点滅していた。

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