黄泉道反・後編(肆)




 因素の武具は、つい先頃までは実在そのものを否定する声が大きかった。


 魔力を無尽蔵に増幅、あるいは遮断する素材。

 冗談のような性能を発揮する武具法具の中に、因素製の品が紛れていることがある。かつて北の特異点都市に放逐された村上文彦は【超霊子スピナー】と【荒野のポワワSF光線銃】という子供向け玩具のような道具を手に入れて数多の敵を撃退してきたという報告書が提出されている。


『児童向け漫画雑誌の、あるじゃないですか。そう、玩具メーカーとタイアップしてチビッ子が世界の危機に立ち向かうような話。アレです、あのノリです。玩具の鉄砲でモンスターを召喚し、光るヨーヨーで敵をぶっ飛ばすんですよアイツ』


 直属の配下ではない、中立的な三課職員からの証言もある。

 まっとうな人間ならば日に解き放てる術式など十回にも届かず、魔力や精神力が尽き果てる。それなのに嘗て文彦は百どころか千を超える術式を短時間に速攻で組み立て、その手には因素製と思しきトンチキな玩具があったという。


 犬上市に帰還する際、文彦は石杜の学園生徒らに因素製の玩具を託したため三課権限で没収することは出来なかった。それらを手放した文彦の継戦能力は大幅に減少したと一時期は考えられたが、魔人を父に持つ彼はそもそもの魔力量が膨大で、なおかつ周囲の環境や生物より力を吸収する手段も有していた。神楽一派が文彦をこれまで処分できなかったのは、無尽蔵に近い彼の魔力への対抗手段を持っていなかったからだ。


(だが、比良坂道標逆鉾で奴の力を封じることが出来た。これは紛れもなく因素を加工して生み出された武具だ、たとえ無尽蔵の魔力を引き出せずとも!)


 神楽聖士は霊槍たる比良坂道標逆鉾を掲げるようにして構え、裂帛の気合と共にこれを振り下ろした。すると三狭山に張り巡らされた影の結界は、古びた蜘蛛の巣のように破れて消える。術を打ち消したのではなく、逆鉾より放たれる力場が魔力そのものの伝達を遮断したのである。


「影法師の力をも散らした逆鉾の前で、君たちのような木っ端術師風情が群れて挑もうと無意味なのだと理解したらどうだね!」


 先刻より恐るべき威力の突風や雷撃が神楽を襲っているが、やはり逆鉾を中心とする球形空間に到達するや霧散してしまう。炎の竜巻に至っては鉾の切っ先で両断する始末であり、神楽は三狭山麓の草原を何事もないように進んでいく。

 敵の姿は見えない。

 部下からの報告通り、影法師の眷属たる風使いの猛禽と雷を放つ狼、そして弟子を自称する炎使いの少女に駆け出しの影使いらしき女子高生。三叉山に陣取って妨害活動を行っているのは彼女らだと神楽は推測し、それは半分当たっていた。実際には様々な異形や超越者達が便乗しており、もはや神楽以外の戦力は壊滅したと言っていい。


 それでも、だ。

 つい先刻まで神楽の心を支配していた絶望感は今や消えつつあった。

 確かに今は三叉山の遺跡は封じられ、自身も一度は海中に飛ばされた。しかし他の戦闘員や武装車輛が深海に沈んでいくのに対し、逆鉾は所有者を守るべく結界まで張ってくれる。増幅される魔力は神楽の身体を全盛期の状態に保ってなお余るほどの精気を生み出している。


 逆鉾の力は凄まじい。


 凪の名を持つ一対の妖刀、熾天使の加護を受けたという小剣、百余年を生きてなお噂でしか知らぬ法具に比する力を有しているのではないかと思うほどだ。操るべき霊脈が存在しないとしても、因素より生み出されたこの逆鉾は術師と戦うときに限っては比類なき強さを発揮するのだから。

 これほどの力を秘めながら、かの村上一族は権威の前に屈して逆鉾を献上した。彼女達はそれが因素の武具であることすら気付かず、娘婿の寄越した結納品と信じて疑うことなく倉庫に放置していたのだ。


「最初より逆鉾の力を解き放っていくべきであったな」


 そうすれば兵力を温存できた。いや、それでは手駒の術師が役立たずになる。

 なんとも皮肉な話だと神楽は自嘲し、三叉山の中腹に至った。そこはまさに霊脈の交点ともいうべき巨石が安置されている場所である。

 巨石の周囲には数え切れぬほどの異形。因素より発せられる魔力絶縁の結界は異形の存在そのものを消滅させるため、彼らは神楽を遠巻きに囲むより術はない。


「妖よ異形よ魑魅魍魎よ、諸君が在るべきは絵本と古書の中だ。人の世に諸君の居場所はないというのは陳腐な台詞だが、真理ではある」


 遺跡を護るように囲む異形達の多くは大小の動植物が力を得たものが殆どで、三叉山の恩恵で人を襲わずに生きているものも少なくない。人間社会に迷惑をかければ手痛いしっぺ返しがあるのを体験して知っている彼らは、神楽如きに滅ぼせるような村上文彦ではないと理解している。たとえ因素で出来た神器、この三叉山を制御しえる霊槍を持っていたとしてもだ。


 ぶん、と逆鉾を振れば増幅された神楽の魔力が不可視の力場となって異形たちを薙ぎ払っていく。因素の武器の前ではいかなる防御術や結界も役には立たない。刃に直接触れれば身体を構成する魔力を維持できなくなるため、逃げ出さないまでも自然と遠巻きに囲むことになる。威嚇も警告ではなく弱者の遠吠えであると、神楽は愉悦に口の端を歪め引き吊り上げるような笑顔を無理矢理作る。

 三叉山の遺跡は目の前だ。

 異形や三下共に神楽を止める術はない。因素の武具は術師に対してそれだけ優位に立てる。武術体術で誰かに後れを取ることはないという自負もある。

 手駒を失った。おそらく三課における立場も。

 だがそんなものは些細なことだと神楽は確信している。

 永遠に等しい生命とあらゆる魔術へ圧倒的な優位性を持つ逆鉾があれば、そんなものは直ぐにでも取り戻せる程度の価値しかない。政府を打倒し自らを頂点とする術師による国家を建てるのも悪くないだろう。村上文彦がやったことは所詮ただの時間稼ぎに過ぎなかったのだ。


「……今のわたしであれば、この地上に敵はあるまい。たとえ魂を喰らうものであろうとも容易く倒せるだろう」


 正気であれば決して口にしない言葉だった。

 唇の端を歪め笑みを浮かべた神楽だが、真下より飛んできた小型ナイフに虚を衝かれ、受け止めることも切り払うことも出来ず辛うじて上体を捻るようにして無様に転倒する。受け身どころか手を地面に着くことも出来ず、踏み崩された生臭い泥が口と鼻の穴に入る。

 逆鉾は手放さない。どれほど無様な姿勢であろうとも神楽は必死だ。ナイフの出所を探る間もなく、ほぼ直感で転がるようにその場を離れる。寸前まで居た場所に十数発の弾。礫ほどのそれは地面に触れるや連鎖的に爆発を起こし、殺傷力こそないものの神楽の身体を十数メートルほど斜面の下に吹き飛ばした。自由落下ではなく爆発の衝撃によるもので、所々に露出した礫が神楽の白詰襟服を引き裂くが全身に巡らせた魔力は肉体そのものを保護していたので無傷に近い。それでも衝撃と破裂音は神楽の平衡感覚を狂わせ、まっすぐ立ち上がる事すら難しくさせている。銃声はない、空気の振動すら知覚できなかった。避けられたのは長年の経験と直感が奇跡的に噛み合った結果である。


「サホねーさん、いま面白い冗談聞こえたっす」


 呑気そうな声と共に、三叉山に集まっていた異形たちが霞のように姿を消す。投擲用の小型ナイフを数本手にして現れたベル・七枝は、口調とは裏腹に気合を込めてナイフを次々と投じる。放物線を描かず風を切り裂いて飛ぶ刃は、因素の力場を易々と突き抜け、神楽の認識の隙間を縫うように不規則な軌道で身体中に刺さる。咄嗟に気を練り防護の術式を組み立てようとした神楽だが、既に身体機能強化の術式は展開済みだった。

 ばかな。

 三下のような思考で、神楽は己が魔術防御を再確認する。気も魔力も充実している。因素の逆鉾は機能停止に陥らず、周囲の魔力を遮断しているはずだった。現につい先刻までいた異形共の攻撃の一切を防ぎ切っていたではないかと。


「死角からのナイフ投擲に認識外からの銃撃さえ避けきれたのだから、おそらく北関東でも上澄みに相当する手練れだと思うわ」

「そっすか?」


 笑顔でナイフを投げ続けるベルの後ろから姿を見せたのは、桐山沙穂だった。神楽にしてみれば生真面目そうな少女が小型とはいえ自動式拳銃を二丁持って現れたのだから、驚くしかない。もっとも長年術師界隈にて最強を自負していた神楽を北関東の有力者程度と見做した沙穂の発言、しかも罵倒ではなくむしろ高く評価した上でのものだったが故に現在置かれた立場を忘れて抗議しそうになり――

 初弾。

 やはり銃声はない。神楽は渾身の力で逆鉾を振るった。切っ先が銃弾にあたり軌道を逸らせたのは、神楽の業が人知を超える水準にあったから。それでも弾丸の動きを視覚で追えたからではない。

 明後日の方向に跳ねた弾丸は空中で爆発した。破片も熱も伴わない、ただ膨張した空気だけが神楽の身体を吹き飛ばす。直撃すればどうなるのか考えたくもない。情けない姿勢で宙を舞う神楽に、不規則な軌道で突き刺さろうとする複数のナイフ。反射的に逆鉾を動かし急所を守ろうとする神楽をあざ笑うかのように、当たる寸前に急停止したナイフは竹蜻蛉のように回転するや神楽の頭髪を剃り落とす。所々に地肌が露出するまだら模様の禿頭を晒すことになった神楽は、それと気付くことなく無駄に格好いい動きとポーズで着地して逆鉾を掲げることで今の攻防で一切のダメージを受けていないとアピールしてみせた。


 身体に巡らせた気の力によるものか、平衡感覚は戻りつつある。

 次弾、次々弾と撃ちだされる沙穂の攻撃も、今度は爆発の範囲を考慮して避けるなり弾き返すなりして対処できた。タイミングさえ読めれば対物狙撃銃であろうと対応できるという自負が神楽にはある。もっとも普段の神楽であれば、身中に気を巡らし銃弾を弾き飛ばしていただろう。


(実戦経験の少ない小娘という評価を下したのは何処の馬鹿だ)


 犬上の地を訪ねるまで神楽もまた二人の少女をそう認識していた。三課に正式所属しているベルについては、神楽は部下より情報を集めているのでそれなりの情報を掴んでいる。体術に優れた炎術師という変わり者と聞いていた。神楽にもう少し余裕があれば、ベルが投擲したナイフが彼女の契約する炎雀の羽根が変化したものと気付けただろう。

 桐山沙穂については半端に覚醒した魔人もどきという簡素な報告を上げた連中を神楽は心中で罵った。村上文彦の下位互換である器用貧乏な影使いという認識は、両手にそれぞれ握られた自動式拳銃「もどき」で改められた。そもそも撃ち出されたものが銃弾なのかすら怪しい。拳銃のような何か、銃弾のような何か。それらは因素の逆鉾が展開する力場の影響を受けず、神楽の周囲で爆発を起こす。音も熱も閃光も生まず、ただ身体を吹き飛ばす。連鎖的な爆発は方向感覚を狂わせる。着地をしくじれば飛んでくるナイフを防げなくなり、失血量が増える。


(戦闘部隊総出で攻めれば押し潰せる程度の力量だが、個で対応するには煩わしいことこの上ない。不愉快だな)


 油断したつもりは無かったが、実力を低く見積もりすぎたかと神楽は少しばかり悔やんだ。前方には三叉山遺跡の要たる巨石がある。

 中央に突き立てられた金剛杵を破壊すれば抑え込まれた霊脈を復旧させるのは難しくないはず――逆鉾の力があれば、だ。霊脈を支配下に置けば敵はない。尽きる事のない無限の生命は栄光の未来を約束してくれるはずなのだ。

 距離にして百メートル未満。

 その気になれば秒で到達できる。

 だというのに進めないことに神楽は苛立ちを覚える。未熟とされた少女二人だけではない。彼女らの背後にある猛禽と狼の姿をした異形こそ、村上文彦の切り札と見做されている存在だ。

 風を司る深紅の猛禽ハヤテ。

 雷を司る緑碧の狼ジンライ。

 いつの間にか影法師と共に界隈で知られるようになった、尋常ならざる鳥獣である。魔獣とも聖獣とも異なる、恐るべき獣たち。彼らの前ではあらゆる生物と機械が空を奪われ、電子機器はただの置物と化す。因素の逆鉾は魔力を遮断し、それは異形にとって致命的に作用するはず。犬上市を攻める前に幾匹かの雑魚を貫いたがそれは全くもって神楽の期待した通りだったし、かの村上文彦が操る影の力も事実上完封していた。


 不愉快だ。

 ああ、不愉快だとも。

 神楽は術師としての知識と経験が導き出すひとつの仮説を感情で否定したかった。恐怖を怒りとして誤魔化す己の卑小さにも苛立ちを隠せなかった。

 魔力を絶縁するはずの因素をもってして縛られぬ力の存在。限定されているとはいえ元素の力を支配下に置く異形の獣。逆鉾を手に入れ己が最強無敵だと己惚れていた数十秒前の姿が滑稽な道化であると理解してしまう現実。それら理外の獣たちが二人の少女を守るように力の隠蔽を解除した途端、神楽は短距離転移術を封じた虎の子の呪符を使用してまで彼女達から距離をとることを選択した。

 なんだ、あれは。

 百余年を生きて初めて見るバケモノ。

 ヒトが異形に対抗するため編み出した魔術という力、その根源。理論の礎。実践と推論と数多の犠牲を下敷きに生み出された理屈の外側に、あの猛禽と狼は君臨している。年を経て妖力を得た化生には天変地異を引き起こすものも少なくはない。信仰を得て亜神の域に達したものもいる。

 だが、あれはなんだ。

 あのバケモノはなんだ。

 あのバケモノと共にあって平然としている、あの小娘たちは何者なのだ。

 ナイフも銃弾もどきも、児戯のようなものだ。

 距離をとった。

 術師にとっては何ら気休めにもならない程度の距離だ。

 百余年の経験は神楽に即座の撤退と国外への逃亡を迫っている。因素の逆鉾さえあれば海外でも困ることはない。むしろどこかの国で霊脈を探し当てれば良いのだ。犬上の地を狙ったのは、三課という組織で地位を得ていたから。使い捨てに出来るほど戦闘員と術師がいたからこその、冷静になって振り返れば無謀極まりない犬上市への侵攻が如何に馬鹿馬鹿しく幼稚な企みだったのかと今ならば認められる。


 霊脈を制御する遺跡までの距離は先程までのおよそ二倍。

 しかし今の神楽にとっては地球の裏側よりも遠く感じられた。

 これならば村上文彦の方が遥かに格下とさえ言えた。

 否。

 己の破滅をもって今の状況を作り出したのだと、神楽は悟った。抵抗できなかったのではない。自身を駒の一つとして盤面を動かすことは神楽とて幾度も経験しているが、そこまで踏み込めたことは無かった。たかが魔人の血を継いだ糞餓鬼にここまで追いつめられるという事態そのものが、神楽という男の許容を大きく超えていた。


 この地の霊脈は、わたしには相応しくない。


 損切を、神楽は決断した。

 目の前にある霊脈を手に入れることを諦めた。三課の及ばぬ小国の霊地を攻め落とし、邪魔するものすべてを殺し尽くせばいい。そこで永遠の命を手に入れればいいのだと決断した。多少時間がかかっても構わない。

 さりとて三叉山の霊脈を放置していい道理もない。

 どうせこの国を出ていくのだから、かの北の大地のように本州のど真ん中を暴走する特異点に呑み込ませても躊躇う必要もない。むしろ東と西の京を守るため追手が減る分、都合がよい。


「此度の戦、影法師を葬れたことで十分すぎる成果とする。諸君は主に殉じてこの地を魔界に堕とすがいい」

「やなこった」


 逆鉾を大きく振りかぶり遺跡ごと三叉山を貫こうとした神楽が真横に蹴り飛ばされる。

 ベルではない。

 沙穂でもない。

 ハヤテでもジンライでもない。

 それらへの備えを怠る神楽ではない。相手がどれほど素早く動こうとも防ぎ切れない意識の空隙を縫って繰り出す必殺の一撃のはずだった。山の中腹、なだらかとはいえ勾配のある場所。蹴り飛ばされた神楽の身体は宙にあり、十二の連撃を喰らったところで逆鉾を一閃。なんとか姿勢を正して着地した。

 砕けた骨、裂けた肉は張り巡らせた気の力で迅速に修復されている。痛みよりも手にした逆鉾が淡く輝くことに驚き、己を蹴った相手を見て二度驚いた。


 驚いたのは神楽だけではない。

 油断なく身構えていたベルト沙穂の二人そしてハヤテとジンライもまた驚愕という言葉を体現するような貌で襲撃者を見ていた。

 癖気の強い、波打つように風に逆らいはねた髪。

 険しい目つき。

 闇を凝集したような黒衣を無造作に身体に巻き付け、風と雷を纏っている。乱気流の渦の中で雷火は炎となり無地の黒衣に無数の紋様を描く。額の中央には可視化できるほど高められた魔力が珠の如く顕れ、肩の付け根より噴き出す力――元素の根源に至るそれが様々な姿へと変化している。

 間違っても夜に出会いたい姿ではない。

 真昼でも薄暗い建物の中であれば、気の弱い者ならば卒倒しそうなほどの威圧感。

 長身の神楽をも超える上背に、羅漢像を彷彿とさせる骨格と筋肉。小悪党ならばその場で改心を誓うほどの迫力もある。憤怒の形相であれば小さな子供などは失禁どころか脱糞さえ不可避。対峙する神楽も萎縮を自覚しつつ、それでも意地をもって正面のそれに睨み返した。


「随分と物騒な姿で蘇ったものだな、影法師――村上ふ

「むらかみくんが世紀末の覇王で世界的サッカー漫画で超神な伝説の触手でえっちなゲームに出てきそうなラスボスになったあああ!」「うわああああああん16頭身ししょおがキモイよおおおおおおおお!」『返せっ! 永年名誉ショタの御主人を返せっ!』『あははははははははははははははははははははは、もう世界征服しましょうか』みひこ、くん」


 己の驚愕よりもベルと沙穂たちの反応が激しすぎて一気に冷静になった神楽は、膝をついて項垂れている推定村上文彦に今生において最も優しい気持ちで声を掛けた。


「仕切り直そうではないか。これが我らの決着などと誰が認められよう」

「――恩に、着る」


 最初からこうであれば莫逆の友となれたのかもしれぬと、その言葉を飲み込み神楽と文彦は互いに頷いた。



 なお彼らの後方には拳骨を脳天に喰らって撃沈した二人と一羽と一頭が転がっていたが、地面の影より伸びた触手が彼女達を引きずり込むように回収することで両者の対決に水を差すものはいなくなった。


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