第十七話 閑話

痴女百人に聞きました。



 証言その一。


「えー、うん。やっぱり業界では名が知られてる方じゃないですか、こっちじゃ雑用係っぽいけど。東京とか大阪あたりじゃ無茶苦茶評価高くて、アフターケアとか後進の指導とかしっかりやってるからみんな好印象なんですよ。そりゃあ美形度ではソウルイーターがダントツですけど、親しみやすさっていうか声のかけやすさではお師匠様って狙い目だし。見た目が幼いから『自分も頑張れば』って、新弟子連中も目標にしやすいって話を聞きました。

 え?

 ああ、ソッチの話ですか? んー、はっきり言って淡白ですね。そもそも興味ないみたいです、ベッドの下にエロ本とかないし。魔人の血って絶倫かと思ってたんですけど、生殖の必要ないから駄目みたい。特別な術式を用いないと子孫も残せないって話を屋島査察官から聞きました、だから、あたしが襲ってます。捕まえるのは難しいけど、組み伏してしまえば知り尽くした身体ですから……それはまあ、ご想像にお任せします」





 証言その二。


「彼ですか。

 最近は、あんまり会えてません。ほら、私がこういう裏稼業を始めたじゃないですか。部活も今が忙しい時期だし、時間が取れても真夜中だったりするんです。一応電話とかしますけど、何日も逢ってないから……私、冷たい女だって思われているかもしれません。正式に告白した仲とかじゃないですけど、妹さんへの贈り物の相談とか受けたりしてるし、文化祭の話とかもしますし。でも彼って見た目は子供っぽいけど、意外と人気あるんですよね。ええと仲森くんみたいな完璧超人と比べるのは辛いけど、ぶっきらぼうに見えて世話焼きなんですよ。一緒にいると退屈しないように色々考えてくれるし、妙に気取ったところないし」






 証言その三。


『彼との関係?

 今のところはビジネスのみ、それで十分。小便臭い女狐が既成事実作って勝ち誇った気になってるみたいだけど、あの娘は将来ってのを何も考えてないからね。いずれ本国に帰る身で彼を拘束できるわけないし、彼って日本政府が抱え込める数少ない腕利きだから移住とか論外よね。だから、わたしとしては今後彼のパートナーになれるように実力と実績を身につけるだけよ。もちろん、彼より良い男が現れたら話は別。でもほら初めて本気になった相手って何としても自分のものにしたいじゃない。

 うーん。

 基本はプラトニックよ。平安時代ならいざ知らず、二十一世紀にティーンズ・マムってのは洒落にならないし。大学にも通いたいし仕事もしたい。それに彼ってまだ本当の意味では大人になっていないもの、どうやったって行き着くところにはたどりつけないと思う。もちろん邪魔者は排除するけど』






 証言その四。


『旦那について、ですか。

 あたしはほら使い魔じゃないですか。まず根本的に主従関係なんですよ、本気で命令を出されたら従わざるを得ない。そういう命令を受けたことはなくて自発的に動いてますけど、根っこは旦那の下僕です。死ねっていわれたら命を捨てるし、笑えって言われたら笑います。もちろんそれは術式と盟約に基づくものなんですけど、うちの旦那って変わり者だからそういうの好きじゃないみたいで。

 嫌がることは、あんまり求められません。

 ウェイトレスの制服は、半分は趣味です。本当に。深雪さんが男にしか見えないから女ッ気のある衣装で頼むとは旦那に言われましたけど、スカートの丈の長さでは注意されましたね。短すぎるって。男性客にアピールするなら少しくらい扇情的でも構わないと思うんですけど、旦那はガマンできないみたい。まあ、あたしが望んだ長さなんで黙認してくれてますけど、この格好で旦那に抱きつくと露骨に慌ててます。鳥の時は普通に接しているんですよ。術師によっては娼婦みたいに使い魔を扱う人もいるんですから、ほんと変わり者です。

 そうですね。

 命令とあらば卵の一つや二つくらい平気です』





 証言その五。


『ああ、あいつ?

 昔から変わってないわよね。女の子関係てんで駄目。中学時代、あいつ実はすっごくモテたの。本人気付いてなかったけど。鈍感って訳じゃないんだけど、直接言われないとはっきりしないみたい。甲斐性とかあれば話も変わったんだろうけど、押しの強いコに迫られたら危険ね。

 なんだかんだ言ってマザコンの気もあるし、言動のはっきりした女の子に魅力を感じるのかもしれない。家の事情とかあるし、あそこ父親いないでしょ? 家の中で弱音吐けないし、もちろん人前なんてもってのほかよ。あいつを口説き落とす気があるなら、包容力も不可欠ってわけ。甘えたり対等に付き合ったり付き従うような女じゃあ、身体は奪えても心は無理』





◇◇◇




「えー、以上を総合した結果」


 三課の犬上支局。

 どこから仕入れたのか分からない編集済みの音声記録を止め、パトリシア・マッケイン博士は真面目な顔で高らかに宣言した。


「村上文彦は国家認定『男の屑』準三級に相当すると判断しマシター」

「待て待て待てぇぇぇっ!」

「問答無用デース」


 おおーっ。

 三課職員たちは歓声を上げ、簀巻きにされた文彦を袋叩きにした。



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