第十話 閑話

多分平穏な一幕




 慈悲深い死神は、獲物を前にこう言った。


『死ぬ前に心残りがあってはいけない、望みを言え』


 獲物はこう答えた。


「うるせえ莫迦、てめえこそ死んでろ」


 無慈悲極まりない獲物は死神を冥府へと送り返した。




◇◇◇




「痛みへの耐性がつくってのも、善し悪しですね」


 病院のベッドが気に入らないのか、何度も背中をずらしながらベル・七枝は愚痴を吐いた。


「虫垂が破裂するまで気付かないなんて参りました――下手に救急車で担ぎこまれちゃったから迂闊に退院できないし、暇で困ってます」


 無意識の内に虫垂炎の痛みを相殺したため自覚症状を持たず腹膜炎を併発し、授業中に突然倒れたのだ。つい数分前まで同級生や担任教師が見舞いに訪れ、病室は随分と賑やかだった。


「事件起こらないかなー、そしたら病院抜け出して暴れまわれるのに」

「たまには休んでろ」

「だって聞いてくださいよ。アレが虫垂炎とか思う訳ないですよ、ぶっちゃけ処女ま」

「ね・て・ろ」


 当分死にそうにない自称弟子の少女をそのままに、村上文彦は少し疲れた顔で病室を後にした。

 




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