クラス委員長はベルを二度泣かす(参)




 湿気の多い日とはいえ、街路樹は勢い良く燃えた。

 普通の炎とは違い、火そのものが生き物のように街路樹を覆い尽くす。それは木を燃やすというよりも、辺りの酸素を奪いつくすのが目的であるかのように動き続ける。尋常なことではない。


 姉者と呼ばれた三十路手前の女が、石英を削った護符を握り締め炎を操っている。念じれば炎は紐となり網となり、形を変える。やがて街路樹のすべてが炭となって、女は護符を握る手を緩めた。もはや燃やすものがなくなっていた炎は、それだけで霧散してしまう。


「さすがだね、姉者の術は。これなら噂に聞く影法師といえど」

「ええ、至近で炸裂させた上に窒息させたのだから」


 いかに影法師といえど無事では済まないでしょう。

 と。

 三十路直前の女が文彦の亡骸を確認しようと歩み寄ろうとして、転倒した。足の甲が路面に張り付き、その上で勢い良く倒れたのだから足首の関節が簡単に外れる。

 それほどまで勢いよく倒れたのはなぜかといえば、足首を支えるべき腱がすべて切断されていたからである。見れば三つ編み娘の方も足首の腱を断たれたのだろう、尻餅をつき己の両足首を押さえて声なき絶叫を上げている。女もまた叫ぼうとしたが、引きつった声帯は思うように震えず音が生まれない。


「……殺す気満々で襲ってきやがって」


 燃え残り炭となった街路樹が爆ぜる音に混じって、声がする。

 二人が恐怖と激痛に引きつった顔で上体を起こせば、三つ編み娘の影が盛り上がり文彦の姿に変わる。彼の右手の五指に影が張り付き、猛禽のような鋭い鉤爪となっている。それが足首の腱を断ち切ったのだと二人は即座に理解した。


「通告もなしに奇襲して、そんなに俺が憎いか」


 静かに問えば、二人はぶんぶん首を振る。


「ふん」


 手の鉤爪が姿を消す。

 同時に断たれていた二人の腱が元通りとなり、痛みも消える。いかなる術を使ったのか二人にはわからないが、受けたはずの怪我が癒えていた。


「今、取り込み中なんだ。見なかったことにしてやるから消えろ」

「甘いぞ影法師!」


 文彦が背を向けたので。

 鉈のような大型ナイフを手に三つ編みの少女が跳躍した。体操選手もかくやという勢いで宙を舞い、己の腕ほどもあるナイフを振りかぶった。


(術を唱えるより早く、心臓を貫く!)


 功名心と殺意を剥き出しにして凶刃を振り下ろした。


 次の瞬間。

 その全てが漆黒の塵となった。


 術を唱えたのかどうかもわからない、わかったところで防ぎようも無かったのだろう。三十路手前の女は、己が敵に回した少年の恐ろしさを初めて理解し、そして震えた。妹の仇を討とうなどという意識など抱きようもない程の恐怖に押しつぶされる。幾度も人の命を奪ってきた身だというのに、幾度も死線を掻い潜ってきたというのに。乗り越えたはずの恐怖が全てを塗り潰そうとする。

 心臓が漆黒の鎖で雁字搦めにされたような錯覚さえある。


「か、仇をとろうとは思わない! 敵に回ろうとも思わないッ!」


 女は半狂乱になって叫ぶ。文彦は何も言わない。


「助けて、死にたくないのッ! あんたを倒そうだなんて、私たちが馬鹿だったのよ!」


 叫ぶ女。

 立ち去ろうとする文彦の背を掴もうとして、己の手が指先より塵となって崩れていくのに気付く。叫べば、身体の崩壊が一層に進む。もはや声帯は崩れ内臓の多くも機能していない。それでも女は、まだ形をとどめている腕の『部品』を口にくわえ、芋虫のように這いずって文彦を追いかけ。





 崩れた。




◇◇◇




「――振られた?」


 それは意外な答えだったのだろう。


 村上小雪は身を乗り出して桐山沙穂を見た。真っ直ぐの黒髪にヘアバンド、縁の太い眼鏡をかけた沙穂は驚きつつも小雪の言葉を肯定した。小雪やベル七枝のように華やかさはないが、沙穂も間違いなく魅力的な女性である。もちろん容姿だけで判断すべきことではないが、面倒見が良く人付き合いも決して悪くない沙穂の性格は外見以上に彼女を魅力的な人間にしている。


「どうして?」

「恋人は間に合っている、って」


 瞳を潤ませ、ティッシュで鼻をかむ沙穂。

 姉の桐山水鳥は「あちゃあ」と呻き、ベルは「見事な」とだけコメントする。憎いわけではないのだが、なんとなく沙穂は上目遣いで小雪を見る。


「ねえ、小雪ちゃん」


 鼻をかんだ拍子に涙の粒が数個こぼれたのだが、そんなことも気にせず続ける沙穂。


「村上くんが中学校の頃に付き合っていた女の子って、誰なのかな」


 その言葉に。

 何故か小雪は凍りついた。




◇◇◇




 女がいた。


 二十歳を越えた程度の、若い女だ。夏だというのに袖の長い服を着て、凝った意匠のサングラスをかけている。足が不自由なのだろうか、これもまた奇妙な装飾を施した杖で半身を支えている。

 視線は、一軒の住宅へ向けられている。

 表札には「桐山」の二文字。道に立ち、門に遮られて見えないはずの応接間を観察している。


「ほう」


 女の網膜には、沙穂の姿が映っていた。鼓膜もまた彼女の言葉を捉えている。外は蝉が激しく鳴き、自動車やオートバイも時折通り過ぎる。およそ静寂とは言い難い中で、女は沙穂の一語一句を知覚していた。盗聴器もカメラも用いず、彼女は知覚しているのだ。


(桐山沙穂が影法師の想い人だと聞いていたのだが、違ったのか?)


 いや。

 たとえ違ったとしても、何らかの関係を持っている。それだけで十分だ。

 影法師と呼ばれる術師を誘き出し、僅かでも隙を生むことが可能なら価値はある。様子見がてら村上文彦の実力を試すと先行した姉と妹は未だ帰ってこないが、沙穂を人質にすれば有利に戦えるだろう。卑怯と罵る者がいるかもしれないが、そも術師というのは人の闇にて生きる者である。卑怯という言葉で名を上げられるのならば、安いものだ


(護衛は二人か)


 だが力量を見るに、切り抜けられる程度だと女は判断した。組織に属さず術師として仕事を続け、仮にも影法師に戦いを挑もうと考えるほどの者である。己の実力には自信があった。

 女は左右の袖を軽く振る。すると袖布が解けて符に変わり、宙を飛ぶ。三十五枚の符は翅を持った毒虫に変じ、それら毒虫は金属質の羽音を立てて桐山家に侵入しようとする。


「桐山沙穂を連れて来い、毒蟲たち」

『応じられぬ』


 声は女の背後から。

 刹那、蒼い雷が青空を貫く。毒蟲はことごとく雷に打たれて灰と化すが、雷鳴は響かない。それどころか外界の音一切が女の周囲より消え、空気が漆喰のように女の身体を固定した。


『符の使い手とは、珍しいなあ』


 別の声が女の頭上から。

 隼と狼が、女を見つめている。


『よう姉ちゃん、景気はどうだい?』

「……最悪」

 隼ハヤテの言葉に、女は絶望的な死を覚悟した。




◇◇◇




 かつて笠間千秋という少女がいた。


 中学二年の冬に転校してきた彼女はそれほど目立つ生徒ではなかった。だから受験を控えた多くの生徒はごく自然に千秋の存在を受け入れ、春になる頃には学級の一員として馴染んでいた。

 村上文彦と付き合いだしたのは、その頃だと言われている。

 もちろん中学生同士の付き合いだから、それほど深い仲にはならなかった。文彦が性欲とは無縁だったというのもある。


 結局のところ二人は恋人同士ではあったが、それ以上に気の合う友人だったのだ。生徒はもちろん教師たちも二人の仲を知っていたし、二人に「間違い」は無いと確信していた。


「ねえ文彦、あたしとセックスしたい?」


 あっけらかんと千秋が尋ねたことがある。

 それは放課後の教室で、数名の同級生も目撃していた。彼らが色々な意味で複雑な表情を浮かべ文彦を見れば、当時家庭に様々なる問題を抱えていた少年は疲れたような笑みを己のガールフレンドに返した。


「子供が欲しくなったら言ってくれ」

「じゃあ、しばらくは必要ないわ」


 千秋は笑って文彦の背を叩き、同級生達は文字通りひっくり返った。

 つまるところ。

 二人はそういう関係にあった。

 文彦が大人になれば、そして今の関係が数年続けば面白い夫婦になるのではないか。誰もがそう考えていた。




◇◇◇




「だけど、結局はそうならなかった」


 太陽は既に西に傾きかけていたが、市街地は相変わらず暑かった。日中蓄えられた太陽の熱をアスファルトが今まさに放出し始めた駅前通を歩くものは皆無であり、そのほとんどが適当な喫茶店やデパートに逃げ込む有様だった。ここで夕立でも降ってくれれば程よい具合になったのだろうが、南の空の入道雲は全天を覆うほどまでには膨らんでいない。


 仲森浩之はすっかり氷の溶けたアイスコーヒーをストローでかき回し、息を吐いた。

 正面には柄口鳴美、隣には伊井田信也。いずれも夏期講習の開校式を途中で脱け出した面々であり、過日の一件を引きずっている鳴美が晋也を巻き込んで浩之を手近な喫茶店に連れ込んだのである。


「二人の関係は三年の冬に終わったんだ」

「別れたのねっ」

「まあ、そういうことになる」


 どういうわけか目を輝かせて身を乗り出してくる鳴美、その際に隠そうともしない巨乳がぶるんぶるん揺れるのだが浩之は表情を全く変えない。周囲の男性客が思わず前屈みになるが、こちらは予備校のテキストに目を通していたためそもそも視線さえ向けていなかった晋也の「無粋な」という一言で我に返った。


「性生活の不一致? やっぱり村上くんが淡白すぎたりアレがお子様だったから?って、やっぱり村上くんのジュニアって女性を満足させるには物理的限界ってヤツがあるんじゃないかなーとかみんなで噂し」

「てい」


 分厚い英和辞典の角を鳴美の額に叩き込む晋也、涙目で頭を抱える鳴美。その様を見て他人の振りをしたかった浩之だが、咳払い一つで我慢することにした。


「……それで、笠間さんってのは今なにしているんだ?」


 場つなぎ程度の質問を晋也は出したつもりだった。

 浩之はそれを承知の上で、こう返した。


「中三の冬に死んだ」


 交通事故で亡くなったと、続ける。鳴美は硬直し、晋也は「ああ、それでか」と妙に納得顔だ。


「村上は、受験直前まで学校に来なかった」


 事情はみんな知ってたし、どんな声かければいいのかもわからなかった。が。どこで行われたのかわからない葬式や通夜にも顔を出し、そうして自分の気持ちに整理をつけてから文彦は受験に臨んだという。かつての同級生達は、普段と変わらない文彦の姿に衝撃を受けた。数年前に父親を喪っていた文彦が、どのような気持ちで千秋の死を整理したのか想像もできなかったのだ。


「だから村上は」


 それだけ言って、浩之はすっかりぬるくなったアイスコーヒーに口をつけた。とても不味い。晋也は予備校のテキストを閉じ、鳴美は己の好奇心が招いた結果を心底後悔した。




◇◇◇




「でも、話には続きがあるんです」


 村上小雪が語った内容を、桐山沙穂は頭の中で何度も繰り返していた。文彦の妹たる小雪とそのお目付け役と思しきベル七枝は既に帰宅し、姉の桐山水鳥は夕食の準備といって買い物リストを沙穂に押し付けた。

 空は紅くなっていた。

 程よく吹き始めた風が街の熱を払い、歩くのは苦痛ではない。買い物途中の主婦や、一足早く退社したサラリーマン達が通りを埋めている。


(笠間さんが亡くなった直後、村上くんに手紙が届いた)


 手紙を出したのは、今は壊滅した別組織の幹部。彼は形の上だけで千秋の死を悼む言葉を並べた後、こう記したのだ。


『我々と共に歩まねば、悲劇は繰り返されるだろう』


 父親の死と前後して術者としての能力が開花した文彦を狙う者は少なくなかった。

 彼の身柄は「三課」預かりとはなっていたが、実際には外部協力者という形でリストに追加しただけに過ぎない。限りなくフリーランスに近い文彦には勧誘の話も多かったし、名の知れていた文彦を倒そうという連中もいた。


(調査結果では、問題の組織が笠間さんを殺害したという証拠はゼロ。もちろん魔法を使うような人が本当に犯人なら、証拠などあってないようなもの……本当に殺害したのか、事故に便乗して村上くんを脅迫しようとしたのか)


 どちらでも結果は同じだった。何故ならその組織は程なくして壊滅したからだ。小雪もベルも詳しくは知らないようだが手紙が届いた直後に文彦は家を飛び出し、しばらくの間帰ってこなかったという。


(村上くんは、恋人の仇を討ったのかな)


 だとすれば羨ましい話だ。


(だけど)


 メモを握り締めたまま沙穂は立ち止まる。

 駅前に近い通りの一角。昔ながらの商店が並ぶそこは、量よりも質で勝負する店が多い。安さが全ての主婦や学生は近寄りもしないが、飲食店の関係者は全幅の信頼を寄せている。

 そこに彼がいた。


「村上くんっ!」


 魚屋のご隠居と白身魚談義をしていた文彦が、びくんと硬直する。その様は蛇に睨まれたカエルのそれであり、買い物用の籐篭を取り落としそうになっていた。


「……やあ、委員長」


 とりあえずそれだけを何とか口にした文彦だった。


 殴られることは、予想していた。

 罵声も甘んじて受けよう。

 ジュースや汚物を投げつけられても、避けたりしない。

 急所でなければ、刺されても反撃を控える。


 村上文彦は妙に静かな気分で桐山沙穂を見た。沙穂の告白を断ったその日の内に、嫌がらせを含めて同級生より百件以上の電話やメールが飛び込んでおり、そのことごとくが文彦の対応を批難するものだった。あの伊井田晋也でさえ「他に言い様があったと思うんだな」と、言ってくる。妹の小雪や下宿人のベル七枝に至っては、


「それってサイテーの断り方だよ、お兄ちゃん」「駄目駄目っす」


 と、昨晩から口をきいてくれない。


(そんなこと言っても、委員長が抱え込んでいる『特異点』を処理するためには他に方法が無い訳で)


 自分が嫌われることで沙穂が平穏に暮らせるのなら、それは安いものだ。来年の春にはクラス分けが行われ、進路が違う自分と沙穂は間違いなく別々の学級になる。三課や警察など、色々な組織の仕事を請け負えば学校を休む理由もできる、これを期に調理師学校に入学するのも悪くない。

 使い魔たるジンライとハヤテは沙穂の守護役として十分に働いており、気付かれずに警護を続けるのは造作も無いことだ。


(覚悟を決めろ、村上文彦)


 歯を食いしばり、真っ直ぐに沙穂を見る文彦。

 沙穂もまた拳を固く握り、真っ直ぐに文彦を目指して大股で歩いてくる。さながらそれは親の仇を見つけた若侍と流浪の旅に疲れた剣客のようであったと、文彦と立ち話をしていた魚屋の御隠居・黒瀬津雲は証言している。

 ともかく。

 肩をいからせ沙穂は文彦の前で立ち止まった。少しばかり踵のある靴を履いていたので、文彦との身長差は正に頭ひとつ分ある。吹奏楽部で鍛えに鍛えた腹筋背筋を活かした肺活量、上体を反らすように大きく息を吸い込んだ沙穂は文彦の肩を腕ごと掴み。


「んむっ……」

「ぐっ」


 潰すように抱き上げて、沙穂は文彦の唇を奪った。

 それも。

 空気の逃げ道を残さない、吸い付くようなディープキスだ。


「んんんっ」


 混乱を起こした文彦は鼻で息を吐く。しかし腕と背を封じられ宙に浮いていては満足に肺は膨らまないし、全神経が唇と舌に集中しているので酸欠にも気付かない。それでも耳に飛び込んでくるのは商店街を歩く人々の言葉であり、視界の片隅に映るのは自分と沙穂を遠巻きに囲む野次馬の中に混じる同級生達の顔である。

 沙穂は、それらの一切を無視して文彦の唇を奪い続けている。


(何が  何が起こったんだ)


 錯綜する身体情報を必死にまとめようとして。


『接吻でござる』


 使い魔ジンライの、感情を殺した声で我に返る文彦。


『あー、もう。ハトが豆鉄砲喰らった顔ですぜ、旦那』


 使い魔ハヤテは、明らかに事態の推移を楽しんでいる様子だ。いずれも姿を消しており通行人には見えないようにしているようだ。


(だったら見てないで助けやがれ)

『お断りでござる』『下に同じ』

(あ)


 酸欠か、それとも突っ込まれた舌が気持ちよすぎたのか。

 村上文彦の意識は途絶え、身体はゴムのように脱力してしまう。酔っ払った猫のような文彦を抱き上げたままの沙穂は天を仰いで再び拳を握り、


「……勝った」


 と呟く。野次馬達は訳もわからず拍手し、幸運なのか不幸なのかわからない同級生すなわち柄口鳴美・仲森浩之・伊井田晋也の三名は沙穂と文彦を抱え込むようにして、風のように連れ去った。




◇◇◇




 我に返ったとき、文彦の顔面はボコボコに腫れ上がっていた。


 時刻は既に夜の営業が終わっていて、文彦は全部の皿と食器を洗い終えていた。洗面所の鏡で確認すれば、母親と思しき靴跡に妹の引っかき傷が縦横無尽に炸裂し、残る部分は正体不明の打撲痕だ。ひょっとしたら英和辞典やサンダルの一撃もあったかもしれないが、その辺の詮索は無意味だと判断した。


「いーい面構えじゃないの、馬ァ鹿息子」


 厨房の火を落とした母・深雪がカウンターの客席に座ってニヤニヤしながら文彦を見ている。


「馬鹿で悪かったな」

「おう」あっさりと頷く深雪「そんな馬鹿息子のために、クラス委員長さんが手紙くれたわよ」


 カウンターに置いた手紙を拳で叩き、そのまま深雪は店の奥に姿を消す。文彦が我に返った以上、心配要らないと判断したのだろう。壁にかけた時計を見れば、時刻は午前三時を過ぎていた。

 残ったのは、一枚の手紙。

 実用性第一の、可愛らしさの乏しい便箋を三つに折り畳んだ手紙だ。開いてみると、これまた黒の水性ボールペンで書かれたシンプルな文面。


『村上文彦さま。

 死んだ人とは、キスできません。

 その先のことだって、できません。

 私は、死んだ人には負けたくありません。

 桐山沙穂より』

(処置は失敗か)


 沙穂が自分を嫌ってくれない以上、今後の対策は厳しいものになるだろう。


(でも)


 その厳しさがなんとなく嬉しいと、文彦は考えつつカウンターに突っ伏して眠るのだった。




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