第16話 魔法少女VS蝙蝠型キメラ 1

 ――ギイイイイ……。


 黒い穴から出現した腕の正体。 

 それは鋭い牙と爪を持ち、大きな翼を持った蝙蝠を思わせるキメラだった。


 黒い体表に反して赤く光る眼を持っていて、それが敵意があるかのように藍奈達を睨んでいる。


『アンタ、どうやって奇襲を……。アタイ達よりも先に気付くなんて……』


「……たまたまだよ。それよりも……」


 ――ヂュウウウウ!! ヂュウウウウウウウウ!!


 キメラの指には、先ほど這っていたネズミが握られていた。

 どうやら捕まった様子で、もがこうと暴れている。


 が、捕まえた本人が腹に黒い穴を開けたと思えば、その中へとネズミを押し込んでいく。

 ネズミが黒い穴に消えていき、やがて悲鳴だけが聞こえてきた。


 ――ヂュウウウウウウウウウ!! ヂュウウウウウウウウウウ!!


「何をしているの?」


『本来、精神生命体であるキメラは咀嚼そしゃくによる捕食はしない。代わりにああして、獲物を腹の次元の穴に押し込んで満たしているのさ。だから被害者の痕跡が残りにくい』


「そうなんだ」


 以前、遭遇した蜘蛛型キメラが若者男性を襲っていた事がある。

 その際に痕跡が見当たらなかったのは、どうもそれが理由らしい。


 ――ギイイイ……!!


 キャッツの説明を受けた後、翼を羽ばたかせながら向かって来る蝙蝠型キメラ。

 藍奈と若葉が突撃をかわした後、若葉がガーディアンを突き出す。


「《激情の壁パッション・ウォール》!!」


 ガーディアンからエネルギーで出来た障壁が出現し、蝙蝠型キメラへと直進。


 キメラがかわすと、エネルギーの障壁が背後の壁に当たってクレーターを作り出す。

激情の壁パッション・ウォール》とは、エネルギーの障壁で敵を押し潰す魔法技らしい。


 それはともかく、攻撃された事でキメラのスピードが殺されている。

 見逃さなかった藍奈が《導きの星ガイダンス・スター》を放ち、キメラの右足を斬り落としていった。


 ――ギイアアアアアアアア!!


 ダメージによって地面に落ちるキメラ。


 しかしすぐに体勢を立て直したかと思えば、口から人魂のようなエネルギー球を複数放出。

 それが辺りへと四散する。


「これは?」


『キメラの分化した一部だな。いわゆる生物の繁殖みたいなもん。それをここでばら撒いたって事は……』


 ギャルンが説明している間にも、分化した一部が地面へと落ちる。

 地面には無数の蟻がいるのだが、そこに分化の一部が入り込み、


 ――ガアア……ガアアアア!!

 

 ――ギャアアアアアアアア!!


 蟻が質量保存の法則を無視するかのように膨れ上がれ、藍奈達と同等のサイズまで巨大化。

 

 元の生物そのままの姿かつ、各所が刺々しくなった形態に。

 しかも複数がいて、主の蝙蝠型キメラを守るように藍奈達の周りを立ち塞がる。


『「キメラソルジャー」の誕生だな。本体の分化体だからいくらか弱いんだけど、数が見ての通りだ。こいつらをまず退けないと話になんねぇ』


「さながら戦闘員だね」


 人型あるいは直立歩行になっているのがキメラなら、こちらは元の生物そのまま巨大化した姿といったところか。


 厄介だと思いつつも、このキメラソルジャーを一掃しなければ本体を叩けない。

 キメラソルジャーがにじり寄って来るのに対し、藍奈はハルバードに強く握り締める。


 いつでも魔法を使える状態にするも、そこに聞き知った声が聞こえてきた。


「《紅蓮の炎流クリムゾン・プロミネンス》!!」


 どこからともなく龍のような炎が現れ、数体のキメラソルジャーを焼き尽くしていった。


 そしてさらに人影が現れ、持っている日本刀で数体を斬り捨て。

 倒されたキメラソルジャーが塵になり、元の蟻に戻っていく。


「彩香さん!」


 若葉が叫んだように、人影の正体は彩香だった。


「私がキメラソルジャーを相手するわ! あなた達は本体をお願い!!」


「でも、彩香さんは!」


「こいつらを倒してからすぐに向かうから! 心配しないで!」


 若葉が心配そうにする間にも、蝙蝠型キメラが翼を羽ばたかせる。

 奥に逃げようとしているのだ。


「……彩香さん、後は頼んだ。気を付けて」


「ええ! 藍奈ちゃん達も気を付けてね!」


 キメラが逃げる前にと、その後を追いかける藍奈。

 若葉はキメラソルジャーを斬り捨てる彩香へと一瞥しながらも、やがて藍奈の後を追いかけていった。


 キメラは向かった先は、看板を見る限りだと大浴場らしい。


 その中に入ってすぐ見上げると、キメラが再び分化体を出して蟻に憑依させていた。

 蟻が変化したキメラソルジャーが、奇声を上げながら藍奈達に向かいだす。


「ギャルン、こいつらを一掃できそうな魔法は?」


『それならこれがおススメだぜ。やって損なしってよ』


「……分かった。《流星群の剣ソード・ミーティア》」


 脳内に浮かんだ魔法名を唱えると、ハルバードの剣先から複数の光の刃が出現。

 流星群の名の通り、次々と光の刃がキメラソルジャーへと刺し貫く。


 ――ギャアアアアアアアア!!


 ――アアガアアア!!


 キメラソルジャーをほぼ全員倒したものの、2体ほどが若葉に向かおうとしていた。

 若葉がガーディアンを前面に向けて、


「《拒絶の盾リジェクション・シールド》!!」


 自身の周囲にエネルギーの障壁を形成。


 キメラソルジャーが障壁に弾かれた後、若葉が障壁を消してからガーディアンを振るう。

 ガーディアンの縁に斬れ味があるのか、相手がもれなく切断される。


(なるほど、そういう魔法なんだ)

 

 キャッツが言っていた通り、ガーディアンは防御系魔法が主体のようだ。

 しかもガーディアン自体を攻撃に転じられるので、まさに便利な魔杖なのかもしれない。


「これでキメラソルジャーがいなくなりましたね!」

 

「そうだね。あとは……」


 キメラソルジャーがいなくなった以上、残るは本体の蝙蝠型キメラだ。

 すぐに藍奈達がそちらに視線を送るも、次の瞬間それは起こった。


 ――ギイイイイイイイイアアアアアア!!!


 突如として、キメラ全身から黒い霧が放出。

 またたく間に大浴場全体に霧が満たされ、辺り一体が見えなくなってしまう。


『こ、これは!?』


「何かヤバイです!!」


 藍奈のすぐ隣から、若葉とキャッツの動揺した声が聞こえてきた。

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誰にも愛されなかった超能力少女、自分を愛してくれる少女の為に魔法少女になる ミレニあん @yaranaikasan

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