第12話 朝食を終えた後に?
「なぁまだ怒ってんのか藍奈? 食べながらムスッとしているのが分かるぜ?」
「怒ってない」
「あっ、カルシウムが足りてないんか? ほらっ、牛乳飲めよ。牛乳には豊富なカルシウムがあって、ストレス緩和に効くって言うぜ?」
「馬鹿にしてんの?」
「ああもう!! 彩香ぁ、何か藍奈が怒ってんだけどぉ!? 何か訳とか知ってんのかぁ!?」
「私には分からないけど……でもギャルンって知らず内に人を怒らせるからねぇ」
「確かに。コイツ遠慮と言うものがないからね。どうせ変な事して藍奈を怒らせたんでしょ」
「だあああああ!! オコンもかよ!! オイラマジでいじけるぞマジで!!」
これ以上相手するのが面倒なので、藍奈は黙々と朝食を食べる事にした。
今回の朝食はパンと目玉焼きとサラダ、そしてフルーツと洋風かつオーソドックス。
それが場所による効果か、一気にお金持ちが食べてもおかしくないオーラが纏われるのだから不思議である。
「そうそう藍奈ちゃん、私これから学校に行くんだけど大丈夫?」
その朝食を食べている際、彩香が思い出したように言い出した。
「学校……彩香さんって高校生?」
「そう。藍奈ちゃんは家で待っている事になるけど……って、そういえば藍奈ちゃんって何歳だっけ?」
「14」
「中学生……となると勉強は必要よね。もし学校に行きたいとかだったら何とかするんだけど、どう?」
(……学校。学校かぁ……)
学校に行くかと言われ苦い顔を浮かべてしまう。
何せ、藍奈には学校に対して良い思い出などないからだ。
そこでも超能力の事を知られた彼女は、毎日のように無視され、白い目を向けられ、果てはいじめまで発展した。
私物がなくなる事はしょっちゅうだったし、トイレで水をかけられた事もザラだ。
しかも担任の教師はそんな藍奈の状況を見て見ぬ振りをし、学校全体もいじめなどないといった風にしていた。
教師間でさえも藍奈を人間扱いにしてこなかったのだから、この仕打ちはある意味では当然と言うべきかもしれないが。
「学校は……」
いずれにしても、学校を行くという事は地獄に行くようなものだ。
藍奈はどう答えようかと迷っていると、不意に薩摩が言ってきた。
「……どうしても行きたくない理由がございますでしょうか?」
「えっ?」
「失礼。学校という言葉を聞いて、藍奈様の顔色がお変わりになられたものですから。もしどうしても行きたくないのでしたら、私が藍奈様の教師になって授業させていただきますがいかがでしょう?」
「薩摩さんが?」
「はい、私これでも教育委員会に在籍した事がありまして。中学や高校程度の授業内容を教える事が出来るのです。また私が教育委員会に申請する事で、通信制のように卒業資格を受け取る事が可能です」
「でも薩摩さん、会社の仕事があるんじゃ……」
そこに心配そうに聞く彩香。
(会社?)と首を傾げる藍奈をよそに、薩摩がフッと心配するなと言う風に笑った。
「昼まで藍奈様の授業をし、その後に会社の仕事を……といった感じにしようかと。執事の仕事も、メイド方に任せれば問題はないかと思われます。……どうです藍奈様、この老体でさえよければ授業を開こうと思うのですが」
「……じゃあ、そうします」
藍奈としては悪くない条件だ。
それにこうして学校に行かない選択を与えてくれているのだから、それに応えない訳にもいかない。
「ありがとうございます。それではお嬢様が中学の時に使っていたパソコンと教科書を流用いたしましょう。少々お待ち下さい」
そう言って薩摩が離れた後、藍奈がある事を思い出して彩香に振り向いた。
「彩香さんごめん、薩摩さんにご迷惑かけちゃって……」
「ううん、そもそも教育委員会出身の薩摩さんと話し合ってどうにかしようって思っただけだから。それよりも薩摩さん、仕事し過ぎて心配になっちゃうけど」
「さっきから仕事がどうとか言っていたよね? 執事以外にも何かしているの?」
「ああ、それは……」
「あの、藍奈様っ!」
ふと呼ぶ声がしたので振り向いてみると、数人のメイドがいつの間にか立っていた。
何かそわそわしているので、何事かと思いたくなる。
「どうしました?」
「いえ実は……朝食が終わった後にお付き合いしていただきたく思いまして……」
「そんなに時間はかかりません! 藍奈様がもしよければ、どうかご一緒に!」
「お願いします!」
そんなに必死にお願いするからには、何か重要な事なのかもしれない。
藍奈は少し考え、特に断る理由はないとしてコクリと頷いた。
「大丈夫ですけど」
「ありがとうございます! でしたら、朝食を終えたら私達にお声をかけて下さい!」
「すぐに私達と一緒に、ある場所に向かってもらいますね!」
「えっ、場所? どこ?」
ポカンとする藍奈。
なおその横で、彩香が察し付いたかのような呆れ顔を浮かべていたが、藍奈には角度的に気付かれていなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから数分後の事。
「キャー! 藍奈様素敵です!!」
「こっち向いて下さい! ふぁわ、凄くお似合いですよぉ!!」
「……………………」
黄色い声を上げていくメイド達に対して、何とも言えない表情をしながら藍奈が硬直している。
彼女がメイド達に連れてこられた場所は、衣服を収納する「衣服置き場」というところだ。
そこには彩香が着ていた服が保管されているのだが、その小さめのサイズのものを今現在着せられている。
つまりは、藍奈の着替えショーが始まっているという訳だ。
なお着ているのは、どこかシックでお嬢様らしさを感じさせる黒いワンピース。
そして褒め称えているメイド達の背後には、藍奈と同じように何とも言えない顔を浮かべた彩香と精霊コンビがいた。
「藍奈様、お可愛いです! あとこちらも着てほしいのですが!」
「えっ、そっちも?」
「はい、絶対に似合うはずですので! 心配しなくても、私達に任せて下されば大丈夫です!」
(大丈夫と言われても……)
それからというものの、次々とメイド達によって衣装を変えられる。
活発そうなジャケット姿、彩香の中学時代のセーラー服、そしてよそ行きのドレス姿。
そのようなものを着せられるたびに、メイド達がもれなく可愛いものを見たようなリアクションを取ってくる。
「キャー! やっぱり藍奈様、お美しいです!」
「写真撮ってもいいですか! いやもう撮っちゃいますね! 家宝にしておきます!!」
「藍奈様いいですよぉ!! 滅茶苦茶いいですよぉ!!」
「……はぁ、どうも……」
「はああああ……! ちょっと困り顔なのもいいですね!!」
「申し訳ございません、藍奈様!! 少し困惑してらっしゃいますでしょうが、もうしばらくは……」
「コホン……」
「「!!」」
突如として聞こえてくる咳払い。
メイド達が一斉に振り返ると、授業の準備をしていた薩摩がそこにいた。
それも、何か黒いオーラを身体中に放出させながら。
「皆様のお姿が見えないと思ったらこんなところにいたとは……。職務放棄は感心しませんな……」
「も、申し訳ございません執事長! すぐに藍奈様を着替え直しますので!」
「お願いいたします。それとお嬢様、制服に着替えないと登校のお時間に間に合わないので……」
「あっ、そうだった……じゃあ藍奈ちゃん、ちょっと着替えてくるね……」
「う、うん……」
この経緯によって、藍奈が分かった事が2つある。
1つは、メイド達に変わったところがあるという事。
そしてもう1つは、薩摩を怒らせると怖いという事だ。
「……そういえば今日の服は……」
「あっ、でしたら先ほどのワンピースにいたしましょう! 藍奈様にとてもお似合いでしたから!」
「そういたしましょう! 黒いワンピース姿の藍奈様を見るだけでも心が……」
「あなた達……」
「「はい……申し訳ございません……」」
ついでに今日1日、先ほどの黒いワンピースを着る事になった。
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