第2章 超能力少女の幸福はさらに続く

第11話 彩香と添い寝

「……ん……ふぁわ……」


 目を開けると、朝日こぼれるカーテンが視界に入る。


 藍奈は身体を上げてしばしボォーとし、それから辺りを見回す。

 そこに広がっているのは、かつての自分のとは違うオシャレで豪華な部屋。


(……そうだった。私、彩香さんの部屋で寝ていたんだった……)


 寝ぼけた脳で昨日の事を思い出す。

 

 キメラ退治を終えて豪邸に帰った後、しばらく経って夕食の用意が出来た。


 食堂のテーブルに並ぶかごに入ったバケット、温かいスープ、サラダ、アクアパッツァ。

 どれもこれもドラマでしか見ないような食事の数々に、藍奈が目を丸くしたのは今でも覚えている。


 しかもどれも食べてみれば味が絶品。

 お腹が減っていた事もあって無性に食べていた藍奈だったが、そんな中で彩香と薩摩が話をしていたのだ。


『ところでお嬢様、藍奈様のお部屋はいかがいたしましょう? 一応ゲストルームがございますが』


『いえ、藍奈ちゃんは私の部屋で寝てもらいます。ベッドも大きいので用意する必要もないですし』


『かしこまりました。でしたら寝間着と明日以降の服装は……』


『今度の休みにこの子と一緒に行くんで、しばらくは私が着ていたものにしましょう。サイズが合えばいいんですが……』


『えっ、ちょっと待って。私が彩香さんの部屋で寝るの?』


 藍奈がアクアパッツァを食べていた手を止め、そう彩香に尋ねていた。


『ええ。やっぱり親睦深めるには、一緒に寝た方がいいかなって。ベッドも大きいから、心配しないでいいからさ』


『そう言われても……』


『駄目……かな?』


『……一緒に寝ます』


『ほんと? よかったぁ』


 彩香の縋るような目をされて、根負けしてしまった。

 さらにその発言を受けて彼女が嬉しそうにするので、ある意味これが正解なのかもしれないと思う事にした。


 そうして藍奈は豪華な風呂に入って、高そうな寝間着を着て、そしていよいよ彩香と一緒に寝る事に。


 なおギャルンとオコンは、別部屋で寝る事にしている。


 何でもオコンが『さすがに寝ている女性と、一緒の部屋にいるのはマズい』という事で、藍奈が来る前からそうしてきたようだ。

 もっともギャルンは、わざわざ別部屋に行く事に不満がっているらしいが。


『狭いとかない、藍奈ちゃん?』


『……一応大丈夫……』


『そっか。じゃあお休みね』


『お休み……』


 彩香が狭くないかと心配していたが、藍奈としては彼女の柔らかい身体とか良い匂いがめちゃくちゃ気になっていた。


 かと言ってそれを指摘するのも野暮なので、そのまま放置。

 彩香と共に寝て、今に至るという訳である。


「……んぅ……」


 隣からの寝息に振り向いてみると、ぐっすりと寝ている彩香の姿があった。

 

 化粧を落としたスッピンながらも、目鼻立ちの整った顔。

 赤いセミロングの髪は艶やかで手触りが良さそうで、さらにシャンプーの良い匂いも漂ってくる。


「…………」



『藍奈ちゃん、あなたは普通の女の子よ。変わった力がある普通の優しい女の子。だから自分を危険だなんて思わないで。私達から逃げようって思わないで』


『今は信じなくてもいい……だから帰ろ、一緒に。行く当てがないなら、ずっと家にいてもいいんだから……ね?』



 超能力を使った藍奈に対して、優しく語りかけてくれた彩香。

 さらには藍奈の身体を抱き締めてくれるという、実母にすらされなかった行為をしてくれた。


 そこから感じられた『母性』。

 かつて生まれて一度も味わえなかったもの。


 失礼とは分かっているものの、藍奈は彩香に対してそれを感じ取っていた。


「……まだ寝ているし、いいか」


 彩香が熟睡しているのなら問題ない。

 そう思いながら、彼女の胸元まで密着していった。


 さらに身体に抱き付いて、顔を豊かな胸元に押し付ける。


 胸元が柔らかくて、顔の押し付けで形を変えていく。

 貧乳である藍奈とは真逆の質感で、少しだけ興味を抱いてしまう。


「……んぁ……」

 

 さらに胸を押し付けられたせいか、小さく吐息を漏らす彩香。

 それに気付いた藍奈が、さらにぎゅっと顔を押し付ける。


「……あっ……んん……」


(彩香さん、感じてるんだ……。やっぱり胸が大きいから感度が強いのかな……)


 ほのかに彩香の頬が赤くなっているし、吐息もさらに増していった。

 そんな彩香を見て、さすがにこれ以上はマズいのではと思いつつも、


「あん……あっ……」


(彩香さん……面白いな……)


 好奇心に身を委ねる事にし、彩香への抱き締めをさらに強くした。

 

 しかも藍奈自身の視線が、ちょうど彩香のはだけた胸元を捉えている。

 

 汚れ一切ない綺麗で色白な肌に、たわわとした深みのある谷間。

 魅力的な女性の一か所を見て、藍奈は興味津々になっていき……、


(触ってみたらどうなるんだろう……さすがに無断で触るのはアレだけど、かと言って彩香さんに頼むのも……)


「おーい、藍奈ぁ、彩香ぁ!! 朝食できたってよぉ!! 爺さんが呼んでいるぜぇ!!」


「!!」


 急にドアからやかましい声が聞こえてきた。

 ギャルンの声だ。


 咄嗟に藍奈が離れた後、彩香のまぶたがゆっくりと開けられる。

 さらに上体を動かして大きく背伸び。


「ん~、もう朝かぁ。あっ、藍奈ちゃんおはよう。もう起きたのね」


「……うん、ついさっきに」


「そうなんだ、早起き出来るなんて藍奈ちゃん偉いね。それじゃあ、顔を洗ってから食堂行こうか」


「分かった……」


 どうもバレていないらしく、内心ホッとする藍奈。

 その後に部屋から出れば、すぐにギャルンがそこにいて、バサバサと翼を羽ばたかせて自己主張していた。


「やっと起きたか! 後1秒でも遅れていたら、オイラが飯食っていたところだぜ!!」


「ハイハイ今行きますって。ギャルンは朝でも元気ね」


「へへっ! オイラ、これでも早起きには気を遣っているからな! いくら精霊でも健康は怠っちゃ……ってうおわ!!?」


 自慢話をしたかと思えば、急に幽霊に遭遇したかのように仰天するギャルン。


 その理由は、藍奈がギャルンをこれでもかと睨んでいるから。

 しかも睨み過ぎて、滅多にないような恐ろしい表情をしてしまっていた。


「えっ? 何? 何でオイラを睨んでるんだ?」


「……何でもない。というか睨んでない」


「いやいや睨んでるだろ絶対!! すっげぇ怖い目してたぞ今!! もしかして起こされて怒っているとか!? お前結構低血圧とか!?」


 ギャンギャン言っているギャルンの事は放置。

 ため息を吐きながらも、藍奈は彩香と共に洗面所に向かったのだった。

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