第10話 手を握ってくれる彼女

 しばらく経って、藍奈は彩香達と共に豪邸に戻ろうとしていた。


 その間、ギャルンが藍奈の肩に乗って休んでいる。

 オコンも同じように彩香の肩に乗っているので精霊なりの休憩だと思われるが、藍奈としてはやや気になるところ。


「ギャルン、翼があるんだから自分で移動してよ」


「いいじゃねぇか、オイラ達契約した身なんだからよぉ。それに精霊だから重くないんだし、気にすんなよ」


「実際その通りだけど、めっちゃ気になるの。自分で飛んでよ」


「ヘイヘイ、全く可愛い容姿の割にはキツい性格だよなぁ」


 ヤレヤレと翼を羽ばたかせて飛ぶギャルン。

 なお藍奈達の様子が面白かったのか、まるでやんちゃな子供を見るように彩香が微笑んでいる。


「それよりも藍奈。改めて確認すっけど、本当に魔法少女になるんだな? 彩香が言ったようにキメラと戦う日々が続くぜ」


「ちなみに嫌だって言ったら?」


「契約解除をしてもらう。その時には魔法少女として戦っていた記憶を消してもらうが、どうするよ?」


「…………」


 藍奈は彩香を一瞥いちべつする。


 魔法少女の契約を結んだのは、ひとえに彩香を守る為だった。

 そしてその彩香は、超能力を持つ藍奈を受け入れてくれた。


 そこから答えを見出すのは、さほど時間はかからなかった。


「これからも戦う。自分を受け入れてくれた彩香さんの為にも」


「いいの、藍奈ちゃん?」


「うん。もう決めた事だから」


 覚悟の眼差しを彩香に向ける藍奈。

 彩香は少し黙ったものの、やがて仕方ないなと言わんばかりの表情を見せてくる。


「分かったわ。でも無茶はしないでね。私も可能な限りはフォローするからさ」


「ありがとう彩香さん。……という事なんだけどギャルン」


「決まりだな。にしてもほんと、お前って彩香好き好きなんだなぁ」


「はっ?」


 急にギャルンが意味分からない事を言ってきたので、藍奈が眉を吊り上げる。


「だってお前、彩香がキメラに襲われた時に率先して向かったんだろ? それもオイラが感知するよりも先によぉ。よほど好きじゃなきゃ、あんな必死にならんわな」


「本当なの、ギャルン?」


「ああ、多分コイツの言う超能力とやらを使ったのかもな。いずれにしても彩香の為に頑張るなんてめっちゃ尊……あいったー!!」


「その辺でいいから。次何か言ったら口縫い合わすよ?」


 ギャルンの頭目掛けて容赦なくチョップ。

 それによってギャルンが余計な事を言うのをやめ、「あいったぁ……」と悶絶していた。


「ほんっと癖の強い子だぁ……こりゃあ今後が思いやられるぜ……」


「それはこっちの台詞なんだけど」


「かぁー、ほんと中身が可愛げねぇぜ! 彩香ぁ、コイツに何か言ってやれよ!!」


「今のはギャルンが悪いような気がするけど」


「ボクも同意見。確実にギャルンが悪い」


「かぁーかぁー!! 皆して藍奈の味方かよぉ!! オイラグレちゃうぜマジで!!」


 ギャーギャー喚いているギャルンを放っておいて、彩香へとじっと見る藍奈。

 

 まるで上品に微笑むその姿は、藍奈にとっては眩しい。

 眩し過ぎて、逆に心地よく思ってしまう。


(彩香さんが、皆が、私を受け入れてくれた。私は、この人達の為に戦いたい。危害を加えるのなら、例え相手が誰であろうと……)


「ん? どうしたの藍奈ちゃん?」


「あっ……いや何でも」


「そう……ってあっ、そろそろ見えてきたわ。話しているとすぐ着いちゃうね」


 彩香の言う通り、目の前に豪邸が見えてきた。


 彼女がインターホンを押して「彩香です」と言うと、豪邸に続く門が独りでに開く。

 その門を最初にギャルンが、続いてオコンが通った後、彩香が藍奈へと手を差し出す。


「藍奈ちゃん、中に入ろう」


「…………」

 

 こんな風に歓迎された事がなかった故、思わず手をじっと見つめてしまう。

 しかしそれは紛れもなく現実であり、藍奈に対して笑顔を見せてくる人間彩香がいる。

 

「……うん」


 その事実を再認識し、藍奈はその手を握ったのだった。

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