第6話 安心感
「まず、女の子は男の子よりも精霊の持つ魔力に馴染みやすい体質をしている。が、女の子なら誰しも魔法少女になれる訳じゃない。精霊自体が相性の良い女の子を選び契約する事で、初めて魔法少女に変身できる。彩香、この子に実演を見せようか」
「やるの? まぁ別にいいけど……」
彩香が立ち上がった後、オコンが彼女の右腕に跳び移る。
それから目を閉じて呟く彩香。
「ディスガイズ……」
するとオコンが光りだし、先ほどの日本刀へと姿を変えた。
それを彩香が手にして、軽い構えのポーズを取ったりしている。
『「
「へぇ。……そういえば大澤さんの見た目変わらないね。魔法少女って言えば可愛い衣装なのに」
『それはアニメでの話さ。ともかく精霊が魔杖に変身する事で、女の子は初めて魔法少女になれるんだ』
「しかも戦闘能力も飛躍的に向上する。魔杖から与えられた魔力が身体能力を強化させるからな」
付け足すように説明するギャルン。
藍奈は(精霊云々自体がアニメのような……)と思いつつも、コクコクと理解の頷きを返した。
「先にボクが人間界に降り、この彩香と接触したんだ。それで彼女の了承を経て魔法少女になって、今に至るという訳。ギャルンはその後に合流して、一緒に暮らす事になったんだ」
「彩香と一緒にいれば、オイラに適合した魔法少女が見つかるかもしんねぇからな。もっとも、その目論見は叶ったみたいだけど」
「……えっ? それって私?」
じっと見つめてくるギャルンに対して、藍奈がそう言った時。
ギャルンが興奮するように彼女の前に立った。
「そう! お前からプンプン感じるんだ! いかにも適合できますって感じの相性の良さをよ! お前なら絶対に強い魔法少女になれるはず! キメラが2体3体来ようがイチコロだと思うぜ!!」
「そこまで言う?」
「精霊のオイラが言っているんだから信じろよ! だからどうだい、オイラと契約して魔法少女に……ムゴ!?」
「はいそこまで。これ以上、藍奈ちゃんを困らせてどうするの」
何か言おうとしたギャルンの口を、彩香が塞いだ。
ギャルンが暴れているが、彩香の力が強いのか脱出できない様子。
「ギャルンがこんな事言っているんだけど、藍奈ちゃんは無理に魔法少女になる必要はないよ? 魔法少女になるという事は、キメラがいなくなるまで戦い続けるという事になるんだし。藍奈ちゃんはそういうの嫌でしょ?」
「……まぁ」
「とにかく魔法少女やキメラの事は話したけど、これ以上は深入りはしないようにね。戦うのは私だけで十分なんだから」
藍奈の両肩を手を置く彩香。
確かにキメラ云々の問題は、藍奈には関係のない事だ。
別に魔法少女になろうがならまいが、何ら変わりはしないはずだろう。
「大澤さんって、どうして魔法少女になったんですか? オコンに強制されたから?」
一方で彩香の戦う理由が気になってしまい、そう尋ねていた。
すると彼女が遠くを見るような目をして、その胸の内を語る。
「悲しむ人が増えないようにする為……かな」
「悲しむ?」
「ええ。私が魔法少女になる前から、キメラによって親族や親友を殺された人がいたらしいから。オコンからそういう事を聞かされて、ならば自分がそれ以上増やさないようにって魔法少女になった……そんなところよ」
「……正義感があるんですね」
「正義とかどうとかは気にしていないわ。ただ自分がそうしたいって思っただけ」
こういう人もいるのかと内心関心する。
藍奈の元いた世界に、そんな人間がいなかったのだから尚更。
だからなのか、彩香の事を眩しく感じてしまっていた。
「まぁ、オイラも強制はしないがな。もしその気になったらいつでも言ってくれよ。すぐに魔法少女にしてやっからよ」
「ギャルン」
「わーってますよっと」
ついでにギャルンが少々ウザく感じて、ジト目で彼を見てしまう藍奈。
コンコン。
そんな時に不意にノック音が響いて、彼女の軽蔑的な目がカッと見開いた。
「皆様、おやつの用意が出来ました。食堂にお越し下さい」
「おお待ってました!! 彩香、早く行こうぜ!!」
「はいはい。藍奈ちゃんも行こうか? メイドさん方が作ったデザートは絶品なんだから」
「えっ、でも……」
「大丈夫よ。ほらっ、食堂に案内するから」
本当は部屋で待っているつもりだったが、それに反して彩香が藍奈の手を握って連れ出していった。
(……温かい……。1回も握れなかったお母さんの手……こんな感じだったのかな……)
その間にも握ってくる彩香の手のぬくもりに、妙な気分になってしまう。
両親から虐待されていて、当然手を握られるなんて事はされなかった。
手が藍奈に向かうのは、いつだって暴力を仕掛ける時だった。
だから初めてなのだ。
こうして手を握られる状況には。
そうした戸惑いを感じている間にも、食堂らしき広間が見えてきた。
「本日はカスタードプリンです。どうぞお召し上がり下さい」
「ありがとうございます。ほらっ、藍奈ちゃんも」
「は、はい……」
テーブルに2つのカスタードプリン。
ご丁寧にてっぺんにはホイップクリームとサクランボが添えられていて、明らかに手作りだと分かる見た目をしている。
彩香に促されるがままテーブルに座る藍奈。
その時に彩香のプリンがやけに大きい事に気付くも、その理由がすぐ判明。
「アムッ! うほっ、うめぇ!! やっぱりメイドさん達の作るデザートは最高だぜ!!」
「恐れ入ります。もっともメイド方には精霊様が見えないので、量を多くする事しか出来ないのですが」
「気にしなくていいですよ、薩摩さん。ボクら精霊はそもそも食料を食べないんですから。彩香のやつを勝手に食べるコイツが悪いんです」
「おいおいオコン、その言い方はねぇだろその言い方は!」
彩香のプリンを、ギャルンが手掴みで食べているのだ。
どうも日常茶判事な光景であるらしく、彩香が藍奈へと苦笑の表情を見せた。
「藍奈様もどうぞ。お口に合えばいいのですが」
「でも……いいんですか?」
「もちろんですとも。藍奈様は大事なお客様……いえお嬢様の『友達』なのですから」
「……友達?」
藍奈にとって無関係な言葉が、薩摩から告げられた。
というのも、あることないこと言われた影響で友達など作れなかったからだ。
思わず彩香を見てしまうも、彼女は微笑みながらコクリと頷く。
口では言わなかったものの「私達は友達でしょう?」と伝えているかのようで、藍奈は呆然としてしまう。
そもそもデザートだって両親や親戚夫婦からロクにくれなかったし、作ってもくれなかった。
だから手を付けていいのか悩んでしまい、ついプリンを見下ろしながらじっとしてしまった。
「……大丈夫よ。それ全部あなたのものだから。ギャルンには手を出さないように言ってあるしね」
そんな藍奈の心情を察したのか、彩香が優しく言ってくる。
そこまで言われたら、厚意を無下に出来ない。
藍奈はやっとスプーンを握り、そのプリンを口に運んだ。
「美味しい……」
絶品だった。
甘くてまろやかで……何よりホッとする味。
そんな藍奈を見て、彩香が嬉しそうに微笑む。
「フフっ、気に入ってくれてよかった。遠慮せずにたんと食べてね」
「大澤さん……」
「あっ、彩香でいいわよ。それに敬語もいいから。私達、友達だしね」
彩香の微笑みながらの言葉は、藍奈に感じるものがあった。
それは恐らく今まで得られなかったもの。
言うなれば『安心感』。
「……ありがとう、彩香さん」
藍奈からすれば悪い気分ではなかった。
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