第5話 魔法少女の成り立ち

「……うん! やっぱりお前、魔法少女の素質があるみたいだぜ! だからオイラと契約して魔法少女になろうぜ!!」


「……えっ、魔法少女?」


 いきなりギャルンに言われて、キョトンとする藍奈。

 彼女は目をパチパチさせながらも悶々考える。


(魔法少女って、プリキュアみたいな魔法少女みたいもの? 言われてみればギャルンもオコンも何か魔法少女にしてくれるマスコットっぽいけど……えっ? 魔法少女? 私が? 魔法少女になるの?)


 あまりにも唐突過ぎて、魔法少女がゲシュタルト崩壊しそうになった。

 その直後として、彩香やオコンがギャルンに食ってかかる。


「ギャルン! いくら何でも『キメラ』に襲われそうになった子を、魔法少女にするのどうかと思うわ!」


「そうだよ! それにこの子にだって生活があるんだ! 魔法少女にさせて負担になったらどうするんだ!?」


「そりゃあ分かってるけどさぁ。最近奴らの襲撃回数が多くなっているんだし、自衛する能力が必要だと思うんだ。それにオイラ、この子の事がめっちゃ気に入っているし、ぜひとも一緒に戦いたいって思ってるんだが」


「だからって……ごめんね、急にギャルンが変な事を言って。この事は忘れてくれる?」


「は、はぁ」


「それはともかくあなたのお家どこかな? 送っていくからさ」


 彩香からの厚意は嬉しいが、藍奈は苦い顔をつい浮かべてしまう。

 異世界に迷い込んだ身だから家なんて存在しないし、仮に元の世界だったとしても帰りたくはない。


 そもそもそんな話をして、彼女達が信じるとは思えなかった。


「家は……実はなくて」


「えっ、ない? どういう事?」


「それは……」


「……それだったら私の家に来ない? よかったら泊まっていってもいいし……どう?」


 ニコリと提案をしてくる彩香。

 さすがに断れないと思った藍奈は無言で頷き、ココアを飲み干そうとした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それから彩香や2体のマスコットと共に、藍奈は車道を歩いていった。


 相変わらずすれ違う人はギャルン達に見向きもせず、そのまま素通りしている。

 ギャルンが翼でパタパタ飛んだり、オコンが彩香の肩に乗っているのに関わらずにだ。


「ギャルンとオコンって他の人には見えないんだ?」


「当たり前だ。オイラ達精霊は自然界に宿るスピリット、見えない生命の化身のようなものだからな。オイラ達が見れるのは数千万に1人の確率だよ」


「へぇ……じゃあ、その自然界の精霊が何で大澤さんの近くに?」


「その辺は、彩香の家に着いてから追々話すよ。ちょっと長くなるからね」


 ギャルンに続いてオコンが説明してくれる。

 ならばこれ以上尋ねるのも野暮だと思った途端、彩香が突然足を止めた。


「着いた。ここが私の家よ」


「……ここですか?」


「そう、ここ。……まぁ、確かにそう言いたくなる気持ちは分かるけどね」


 彩香が苦笑する理由は、目の前の建物にあった。


 それは紛れもなく豪邸だ。

 アニメで見るような豪華な洋風な豪邸。


 庭は大きいし、柵も立派そうだし、建物自体も大きい。

 何十人の人が住めるような広さだ。


「……もしかして大澤さんの家、大金持ちなんですか?」


「あまり自慢じゃないんだけどね。執事さんもメイドさんも良い人達だから、緊張しなくても大丈夫よ」


(執事とメイドいるんだ……完全に大金持ちじゃん……)


 呆気に取られている間、彩香がインターホンを押して「戻ってきました」と報告。

 すると自動的に柵の扉が開くので、これまた(無言で)ビックリしてしまう藍奈。


 庭を経由して豪邸の中に入れば、明らかに高そうな壺やシャンデリアといったものが目立つエントランスが出迎えてくれる。

 藍奈が思わず周囲を見回していると、彼女達の元に1人の男性がやって来た。


「お帰りなさいませ、お嬢様、ギャルン様、オコン様。……おや、その方はお友達でしょうか?」


 執事服を着た初老の人で、口元の白い髭などが紳士らしさを醸し出している。

 初めて見る執事の姿に藍奈が圧倒されるも、彩香がその人へと話しかけた。


「この子は波野藍奈ちゃん。ちょっと迷子になったらしくて連れてきたんです。藍奈ちゃん、彼がこの家の執事の薩摩紘一さつまこういちさんよ」


「あっ、初めまして。波野藍奈です」


「はい、初めまして。緊張なさっているかと思いますが、どうかごゆっくりなさって下さいね」


「はぁ……」

(そう言われても……)


 豪邸と執事のダブルパンチに、未だ動揺を隠せなかった。

 と、そんな藍奈がある事に気が付く。


「薩摩さん、今ギャルン様とか言いましたけどもしかして……」


「ああ、お二方の事は見えておりますよ。もっともメイド方はそうではないので、中々に困っているのですが」


「メイド達も見えてたら逆に怖いがな。それよりも爺さん、戦闘の後だから糖分が欲しくなっちまったよ! 何かおやつある!?」


「もちろん、ただいまお作りになっております。それまで部屋でお待ち下さいませ」


「だそうだぜ彩香! 早く部屋で待ってようぜ!」


「はいはい。藍奈ちゃん、こっちよ」


「ああはい」

 

 彩香に連れられて奥へと進む。


 やがて廊下が見えてくるのだが、そこに掃除をしている数人のメイドを目撃。

 すれ違うたびに藍奈に会釈をするので、1人ずつ会釈返しする羽目になってしまった。


 そうして、とある扉の中へと突入。


 どうも彩香自身の部屋らしく、ぬいぐるみや化粧など女の子らしいものがズラリ並んでいる。

 藍奈は彩香やギャルン達と対面するよう、テーブルに座らされた。


「さてと……オコン、そろそろ話してもいいかもね」


「そうだね。じゃあ、まずはアイツらの事から話そうか」


「あいつら?」


「そっ、君を襲った蜘蛛の化け物。知りたいんでしょ?」


 テーブルの上に立った後、そう尋ねてくるオコン。

 もちろん気になるので藍奈がコクリと頷くと、オコンが神妙な面持ちで語り始めた。


「ボク達精霊の間では、アイツらの事を『キメラ』と呼んでいる。アイツらはこの世界とは違う別次元の存在で、本来はああいう姿をしている訳じゃないんだ」


「それどういう?」


「本来は肉体を持たない精神生命体なんだ。しかしそれではこの世界の重力などに耐え切れず消滅してしまう為、生物に憑依して活動する。さっきの個体は十中八九蜘蛛に取り憑いたんだろうね。それで奴らがこの世界に来た目的は、繁殖と捕食」


「繁殖? 捕食?」


「生物の本能的な欲求さ。どうも自身の故郷で、奴らは同族を喰い合ったり繁殖しながら存在していたらしい。それが突然、奴らがこの世界の事に気付き、3年前に次元の穴を通ってやって来た。そうして奴らは本能に身を任せながら、数を増やしつつ人間を襲ったりするんだ」


 そこで話したところで、オコンが不快そうに目を細める。


「しかしそれは自然界のバランスを崩壊させる。奴らのしている事は侵略的外来種に他ないんだ。そこで自然の化身であるボク達は人間界に降り、人間と戦う事を選んだ。それが『魔法少女』さ」


「魔法少女……」


 ついに出たその単語に、藍奈は幾ばくかの興味を抱き始めた。

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