第4話 大澤彩香
(この世界、銃刀法違反が緩かったりするの? それともそういう撮影?)
突然襲いかかってきた蜘蛛の怪物と突然現れた日本刀を持った女性というシチュエーションに、藍奈はつい場違いな事を考えていた。
ちなみに女性は燃えるような赤いセミロングという、やはり元いた世界ではあり得ない髪色をしている。
そして日本刀全体もオレンジ色だったり装飾がなされていたりと、よくよく見ると「日本刀の形をした西洋剣」といった見た目をしていた。
突然の展開に藍奈が困惑していると、蜘蛛の怪物が奇声を上げながら女性へと向かって行った。
――ギュウアアアアアアア!!!
「来る! あなたは早く逃げて!!」
女性もまた怪物に向かい、日本刀を振り下ろす。
ガキン!!
日本刀と怪物の鉤爪が打ち合った。
すかさず怪物が6本腕による連撃を繰り出すも、女性はそれを全て日本刀で防いでいく。
まるでアニメのような凄まじい対応力だ。
対し怪物が一歩下がった後、口から無数の蜘蛛糸の塊を吐き出す。
「くっ!」
その蜘蛛糸を次々と斬っていく女性。
すると蜘蛛糸の陰に紛れながら、怪物が女性の目と鼻の先へと向かって行き……、
――ギュオオオオオオ!!
「危ない! ……っ!」
咄嗟の判断。
藍奈が怪物の腕に視点を定めた。
バギッ!!
――ギッィ!!? ギャアアアアアアアアアア!!!
その瞬間、怪物の振るわれた腕がはじけ飛んだ。
藍奈の持っている超能力がそうさせたのだ。
ちぎれた腕から黒い体液がほとばしり、怪物が苦しそうに押さえ付けている。
藍奈はその間に女性を助けるかもう1回腕を引き千切るべきかと考えていたが、突如として怪物の背後に黒い穴が出現した。
「しまった……! 待ちなさい!」
それに気付いて日本刀で斬りかかろうとする女性。
しかし怪物が黒い穴に飛び込んでいき、すぐに消えてしまった。
日本刀の攻撃も空ぶってしまう。
「……逃がしてしまったか。また現れたら即座に叩くしかないわね……」
女性がそう言って日本刀を下げると、すぐに藍奈へと向かった。
「怪我とかは大丈夫? あとごめんね、驚かせちゃって……怖かったでしょ?」
「いえ……。というかその日本刀って何ですか? おもちゃか何か?」
「……えっ、もしかしてこれ見えてるの?」
「えっ?」
何言ってんだこの人と藍奈がそう思った時。
突然思いもよらない展開がやって来た。
「オイオイ、オイラ達の事が見えるってマジかよ! こりゃ運が良いぜ!」
『ギャルン、いきなり
「そういうオメェはベラベラ喋ってんじゃねぇか。日本刀がそうしたらビックリするわ」
『君が急に出てくるんだからしょうがないじゃないか!』
(……黒いドラゴン? てか日本刀がベラベラ喋ってる……)
急に女性の背後から小型のドラゴンが現れたり、日本刀が男の子の声を出したりする珍光景。
これには藍奈もポカンとするしかなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
やがて藍奈は女性に連れられ、人気のない公園に辿り着く。
そのベンチで座るように言われた後、女性がココアの缶を持ってきた。
「はい、どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
ココアを受け取った後、改めて女性を見る。
鮮やかな赤髪のセミロングが目に付いて、顔立ちが綺麗で整っている。
さらに発育が良くない藍奈と比べてプロポーションが良く、出ているところがしっかり出ている。
身長も女性にしては高い方。
そんな美人の手元には、先ほど蜘蛛の怪物に斬りかかっていた日本刀がある。
実はこれを持ち歩きながら街中を歩いていた訳だが、道行く人の誰もが日本刀を見ていなかったのだ。
(さっき何か喋っていたし、普通の日本刀じゃないんだろうなぁ。それに……)
「ん、どした? そんなに見つめられると照れちゃうんだがなぁ」
女性の近くにいる黒い小型のドラゴン。
明らかにぬいぐるみではなく生物で、しかも男の子の声で喋っている。
まるでそう、魔法少女ものに出てくるマスコットみたいな……。
「あなた、名前は?」
「えっ? あっ、波野藍奈です」
「藍奈ちゃんね。私は
(かなり普通じゃないような……)
「あの、その喋る刀と黒いドラゴンは何ですか? それにさっきの化け物も……」
心の中でツッコミを入れつつも、藍奈が改めて疑問を投げかけた。
すると彩香の持つ日本刀が急に光りだし、徐々に形を変えていく。
そうして現れたのが、オレンジ色のイタチかオコジョを思わせる生物だった。
「紹介が遅れたね。ボクはオコン、自然界から生まれた『精霊』の1人さ。で、コイツは同族のギャルン」
「ギャルンだ。よろしく頼むぜ、嬢ちゃん」
「はぁ……どうも」
「あんまり驚かないね。目の前で刀から変化したのに」
「まぁ、さっき色々とあったから」
そもそも藍奈自身が、常識を超えた能力を持っているというのもあるが。
と、ギャルンというドラゴンが急にこちらにやって来て、ジロジロと覗いてくる。
こういうのは好きではないので、藍奈が少し引いてしまう。
「何……そんなにジロジロと」
「……うん! やっぱりお前、魔法少女の素質があるみたいだな! だからオイラと契約して魔法少女になろうぜ!!」
「……えっ、魔法少女?」
いきなりの勧誘(?)に、藍奈はキョトンしてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます