エピローグ「メビウスの輪の航路」Ⅰ

 時が流れた。

 ひとつの文明が成熟し、ほろびるのに十分な時間が流れた。

 ボクは生きている。その時間の間を生きている。


 ――ボク?


 ボクとはいったい、誰なんだろう。

 時を生きている?

 何なんだ、この曖昧あいまいな認識は。


 本当に何なんだろう、このモヤモヤとした感覚は……。


 生は、一回きりのはずだ。

 生まれて死んだら、もう全ては無になるはずだ。

 それが命のはずだ。


 ……でも、ボクは、限りない生と死を繰り返して生きているような気がする。

 人が眠りのたびに夢をるように。

 何度も何度も観るように。


 そして、満たされない。

 何に満たされないのかはわからない。

 ただ、何かが足りないという感覚だけがある……。


 そんなことを、何度も何度も、何度も何度も、繰り返し、繰り返し、繰り返しているような錯覚……。

 これは錯覚なのか。錯覚ではないのか。


 わからずに、ボクは、今歩いている場所がどこかもわからずに、歩き続ける。

 歩かなくてはならないという、自分でもわからない衝動しょうどうもとづいて。

 あしたに向かって、未来に向かって、歩き続ける。


 その意思だけが、意識の下層の、自分のしんの部分にある。

 人はそれを、魂と呼ぶのかも知れない……。

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