春空プラネタリウム

星七

春空プラネタリウム


 僕の友達にはA君と言う人が居ます。

 彼は怖い話、面白い話、特にジャンルを問わず好きでした。

 

 ある日、急にA君からメッセージが来ました。


「春休みも終盤だから、今日、一緒に心霊スポットへ行かない?」


 ラインの画面を開くとそう書かれていました。

 A君は見たものにすぐ影響されやすい性格なので、僕は何か怖い物でも見たんだろうな。と思い、彼に「何で今日なんだよw」と返しました。

 すると、彼からすぐに返信がありました。


「お願い!今日しか見れないんだ!!」


 僕は1日限定とかに弱いので、「分かった」と返事をして、夜に心霊スポットへ行く事になりました。


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 夜になって、親が静まり返った頃。

 僕はこっそりと家を抜け出して、A君との待ち合わせ場所まで向かいました。

 A君との待ち合わせ場所は僕の家から徒歩10分圏内にある廃校前でした。

 その廃校は僕達が中学生時代に通っていた校舎で、僕達の代で廃校となってしまった思い出の場所でした。

 ただ、思い出の場と言っても、深夜なのでとても恐怖だったので、A君にちゃんと向かって居るか等を確認しながら向かいました。


 やがて、歩いて居るとA君との集合場所につきました。

 しかし、A君はまだ来ていない様で、集合場所には私一人しかいません。僕はラインを送る事にしました。


「僕は先についたよ。A君はまだ?」


「僕はまだかな。あ、そうだ!⚪︎⚪︎君、場所を教えるから先に行っててよ!」


「えぇ、無理だって。一人じゃ怖いよ。」


「大丈夫、そこの近くまで案内するだけでそこには案内しないから。」


 そんな感じでラインを送り合っていたが、このままじゃ埒が開かないので、僕は先に折れて、向かう事にした。


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 僕は案内された通りに廃校の入り口を右に行き、左の信号を渡る。そこから総合公園まで真っ直ぐに向かう。

 総合公園には坂道があって、そこの一番高い位置から右にいくとドッグランがある。そこで、A君は案内をやめた。

 ここの近くには心霊スポットなんて無いので、A君に「ここで何すればいいの?」とメッセージを送った。

 しかし、自分が送ったメッセージは既読はつくが返信がない。

 僕は怖くなったので、その場に動けずに居ると。後ろから声がかけられた。


「ごめん!待たせた!」


「うわっ!?おい、A!ビビらすなよ!」


「あはは、ごめんごめん。」


 Aは反省の意は見せないが、二人になって恐怖を感じなくなったので、怒りよりも笑いが込み上げて来た。


「あはは!何だか怒れなくなったじゃねえかよw!」


「あはは!変なのww!」


 僕達二人は静まり返ったドッグランで笑い転げた。

 ひとしきり笑い転げた後、顔と顔を向き合ってこう聞いた。


「それで?心霊スポットって言うのはどこよ?」


「そんな物ここの近くにはないじゃんよww」


「はぁ?騙したな〜?」


「ごめんごめん!本当に見てもらいたかったのはほらあれだよ。」


 A君は上空に指を指した。

 その指先に広がっていたのはこの地域では滅多に見れない流星群だった。


「わぁ!!すっげ〜!!」


 上空には星々が煌めいて、上空全体を埋め尽くすその星々と散りばめられた流れ星はプラネタリウムを彷彿とさせる程の物だった。


「凄いよね。さっき1時間前くらいから見てたんだけど、今が一番キレイだったから誘ったんだ。」


「A!教えてくれてありがとう!この景色はAと僕の一生の思い出にしよう!」


「………いいね。………一生の思い出………。」



 僕はAと顔を向き合い、小指を絡めた。


「はい、じゃあ行くよ!ゆ〜びき〜りげ〜んまん!うっそついたら、ゆ〜るさ〜ない!」


 許さないっと言った瞬間、小指を離す。


「……いいね、この景色。ずっと続けば良いのにね。」


「どうしたのA?そんな詩人みたいな事言ってw」


「いや、この景色が余りにもキレイでつい……」


「確かに。この景色はずっと続いてほしいね。」


 僕は空を眺めてそう言いました。

 やがて、最後の流れ星がキランッと暗闇に落ちていった事で、その景色は動かない星空に変わっていった。


「終わっちゃったね。」


「そうだね。」


「じゃあ帰る?」


「いや、僕はまだここであの景色に酔いしれていたいから良いよw」


 また、詩人みたいな事を言いやがって、友達なんだから一緒に居させてほしい。


「じゃあ僕も残ろうかな?」


 そう言うと、A君は笑って、こう言った。


「⚪︎⚪︎君の両親って怒ると怖いんじゃ無かったのかな?」


 僕は思いがけないカウンターをくらって、慌てる。


「い、い、いや、ま、まだ、寝てると思うし。」


「でも時間見てみな?あの時計、1時57分だよ?」


 僕の両親は朝早くから仕事がある為、朝の3時くらいから起き始める。


「あぁ、まずい!僕急いで帰らなきゃ!それじゃあまたね!」


「うん。それじゃあね!」 


 そして、僕は家に向かって走った。


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 家に着いた時、お母さんが既に起きていてとても怒られた。


「何でこんな時間に外に行っていたの!」


「……ごめんなさい。A君と星を見に行ってたんだ。」


「A君?中学校が同じだったあの?」


 お母さんがキョトンとした表情でこちらを見て来る。つい数秒前の般若の顔をしたお母さんはもういないみたいだ。


「そうだけど……。」


 その言葉を聞いて、お母さんの顔は青ざめた。

 僕はお母さんの顔が七変化するせいで笑いそうになってしまった。

 だが、お母さんの次の言葉で僕は涙が溢れることとなった。


「A君なら昨日の11時に総合公園の近くで車に引かれて亡くなったんだよ……」


「え……、嘘はダメだよ……。」


 お母さんは嘘じゃないと言わんばかりに真剣な顔をして、顔を横に振る。


「でも……、でも……さっきまで……」


 心が変な気持ちでいっぱいになる。恐怖を感じれば良いのか、それとも、悲しさを感じれば良いのか。様々な思考が混ざり合って心がぐちゃぐちゃになる。

 

「でも………またねって………」


 気づいたら嗚咽と涙が出ていた様で、視界がぼやける。

 そして、お母さんは何も言わずにただ、抱きしめてくれた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それから3年の月日がたった。

 今では、僕は大学2年生になって立派なキャンパスライフを送っている。

 ただ、僕には誰にも言えない秘密がある。




 それは、今でもあの日の深夜に一人で総合公園のドッグランに訪れて星を見ては、彼が座っていたあの場所に花束を添えることだ。

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