第16話 チキン野郎と押しかけ弟子

おいおい、冗談だろ…こんな化け物までいるのかよ。

目の前にいるのは、ゲームやアニメではもはやお馴染みの合成怪物のキマイラだ。

ゲームじゃ確か気性が荒く凶暴だった。


幸いキマイラは寝息を立てていた。


「火薔薇ってどれだ?」


「アレです!」


キマイラの前足付近に何やらゆらゆらと揺れている変な形の炎がある。

よく見ると確かに火で出来た薔薇の花だ。


「火薔薇は火の魔法道具(アーティファクト)を作る際に使うんだけど、この辺りじゃあのキマイラが住む周りにしかないんだよ」


火薔薇は火の元素が強くよく燃えてはいるが魔法の火で周りに滅多な事では燃え広がらないと言う不思議な花だ。

しかし、火の魔物達にとっては貴重な食料の一つでもあり豊富にあるとキマイラみたいな凶暴な火の魔物が住み着く場合がある。


「要するにあの薔薇はあいつの飯って事か」


「魔力補給に食べるんだよ。キマイラは基本肉食で人も襲う危険な魔物だから」


だろうな。


「東海林さん…やっぱり帰ろう…凄い怖い」


「馬鹿言うなよ。ここまで来たんだ」


本当は俺も逃げたい。あんなヤバそうな奴が居座ってる何て聞いてなかった上に人食いと来たらたまったもんじゃない。

いくらチキンスーツがあっても火はどうだか解らない。もしかしたら燃えるかもしれないしな。


でも…


こんな小さな子供に流石にダサい姿は見せられないわな。


「まあ、見てろって。直ぐにとってくるから」


東海林はそう言うとトモエを残してゆっくりとキマイラの側へ行く。

見栄を張った手前だ。恥ずかしい姿は見せられないよな。

東海林はゆっくりゆっくりとキマイラに近づく。出来るだけ足音を立てない様にだ。

東海林に緊張が走る。

慌てずゆっくりと進み、遂にキマイラの直ぐ側まで来た。


えーと、火薔薇はっと、あったこいつか!


東海林はチキンスーツの先を指先五つの手袋状に変えた。着たままでも細かい事が出来るんだから大したもんだ。


東海林はゆっくりと火薔薇に手を伸ばした。

そして遂に火薔薇を掴んだ。


しかし…


「熱っつ!!」


火で出来た薔薇だ。そりゃ熱い。

今の叫びで目を覚ますキマイラ。


「げ、やばい!」


「ウガァァァァァァァァァァァァァ!」


キマイラは咆哮を上げた。


縄張りに入り込んだ東海林に襲いかかって来た。


「東海林さんっ!」


「うわ!」


キマイラが飛びかかって来た所を感いっぱいで避けた。

チキンスーツを着てなかったらヤバかった。


キマイラは3つの頭から灼熱の炎を東海林に放つ。


「うわ!」


東海林は炎に包まれた。


「東海林さん!東海林さん!」


トモエは必死に呼びかける。


キマイラの炎が止んだ。

煙が腫れると全く燃えてないチキンスーツを着た東海林が立っていた。


「東海林さん!」


「防火まで完璧ってやっぱ凄いな」


恐るべきチキンスーツ。


キマイラが牙を向け襲いかかる。


「チキンブレード」


東海林は鶏の尾羽?みたいな剣を取り出すとキマイラの攻撃を交わし斬りつけた。

キマイラは斬れてはいないが唸り声を上げた。


「とどめだ!チキンキークッ!」


キマイラの顔面に必殺?のチキンキックが炸裂する。キマイラは勢いよく空の彼方へ消えていった。


「ふう…」


東海林は座り込んだ。


ひいい…怖かった…つか血を見ないでよかったな全く。


チキンブレードB

鶏の尾羽の長剣。殺意がなければ生き物は殺さず峰打ちを常に発動する。


生き物を殺生しない武器か、そりゃ助かる。


「東海林さん!ホラ!」


「トモエ。火薔薇熱くないのか?」


「火薔薇は防火手袋をして採取するんですよ。そして、このランタンに入れるんです」


専用の道具無しじゃ無理な素材もあるのね。


「よかったな!」


「あの、東海林さん!いえ師匠!」


「師匠!?」


「僕を貴方の弟子にして下さい!マスターになって下さい!」


「いやいや俺魔法は使えないんだけど」


「何を言ってるんですか!あんなに見事に戦って。謙遜しないで下さい」


「いやアレはこのチキンスーツが…」


「弟子にしてくれるまでは私離れませんよ師匠!」


「だから俺は違うってんだよ!」


また勘違いが1人増えた。


どうなるんだ俺はこれから。


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