第26話.その一口は大敵です
「俺の親、妖精と人間じゃん。異種交配は一代限り。ラバと一緒」
ロバと馬からラバができる。でもラバは仔ができない。それと一緒。
「ま。男同士だから最初から無理だけど。欲しーならアンタの精子からって思うけど、俺、子供……無理」
こんな重いコト、みんなの前で言ったの……なんでだろ。ミカエルが欲しいって思うからかな。センセの様子を見て、一瞬欲しそうな顔したから。ほら、結婚前に話しとくこと大事だし。結局、自分の親が上手くいかなかったのそれだし。
婚約したのに、いきなりこんな場で持ち出した。
――言っちゃたな、て思った。
「チャス。それで、チャス自身が変わるわけじゃない」
「んでも、アンタ子供欲しいだろ。社員のサービスデーに構ってるじゃん」
社員の家族を呼んでのパーティーに、ミカエルは子供達へ色んな催しをする。それにうちのグループは子持ちへの手当てが厚い、就職希望率が高い理由だ。
一瞬押し黙ったミカエルに、チャスはやっぱ言うのはまずかったかなって思った。グレイスランドは、同性婚も認めているし、子供を持つ方法も色々ある。ミカエルは偉い立場にいるし、構いたがりだから欲しそーだなって思ってた。でも、時間をかけて話していくもんだった。いきなり自分の要望つきつけんじゃなくて。
「ごめ。いきなり重い話してさ」
「――俺は、好きな相手がどうであろうと好きだ」
いきなり、割り込んできた声があった。壁を向いて、長い耳をしょんぼりさせて垂れていたのが、いきなりピンと跳ね上がる。顔を見せない王様だ。
「――俺だったら、好きな相手となら、いられるだけでいい」
声はマジで硬い。背中をみんなに凝視されてるのに気づいて、いきなり「なんだよ!」とか叫んで、こっちを振り向く。
尖った耳は真っ赤だ。変わんねーな。そんなに感情豊かでどーすんの?
「王様だろ。子供作んないでどうすんだよ」
チャスが言えば、マーレンは睨みつけてくる。
庶民の俺と一緒にすんなよ。て、ミカエルは偉い人か。CEOは世襲制じゃないけど、子孫を残すのは大事。だから、やっぱミカエルにはどこかの人から卵子提供してもらわないとな。ハーフビーストは獣との交配じゃないから、子供ができる。
「子作りは大事だ。だが、それに明け暮れてれば相手との関係は壊れる。まずは――相手と関係を築くのが大事だ」
マーレンの続いての発言に、おお。と思った。あまりにもまともな発言にウィルもキーファもセンセも目を丸くしている。
「確かに相手と子ができる、できないは大事だ。だが、それで相手を見限るのは時代遅れだ」
また正論すぎて、チャスも目を見張る。
――中身、入れ替わった?
「見た目が変わろうが、歳を取ろうが、妊娠しようが変わらない。俺は好きを貫く」
あーやっぱ、センセ全然諦めてない。一途なんだよな。
マーレンは今回の騒ぎの背後に自国バルディアの反社会的勢力の関係がなかったかグレイスランドに王様自らお忍びで師団と会い、調べに来て、即日帰るらしい。
でもその九割の理由は、センセに会いたかったから。
いまだに正室、側室、取ってないのもセンセに未練ありまくりだから。
目には赤い入れ墨、長い耳にはピアス。昔は中途半端なヤンキー的な感じだったけど、今は、映像を見る限りそこそこ偉そう。もとい貫禄がつき始めてる。
なのにセンセを前にすると、途端に構ってくれの幼稚園児になっちゃうな。
そう思いながら、チャスはぼんやりとミカエルの方を見ていた。
よくあるセリフは『また後で考えよう』かな。こいつとは、朝まで同じベッドにいたのに、もう距離が遠くなった気がする。
その口がゆっくり動いた気がした。これでもう、終わりかなと思った。
「――あれもこれもと、ねだると一番前の大事なものを逃してしまうな」
「ミカエル?」
「せっかく好きになってもらえたのに、もうその次を考えてしまうのは
「あのさ。
「いや。子供はいいんだ。――チャス、お前が好きと言って人生を歩んでくれると言ってくれたこと、それがとてつもなく嬉しいのに、それ以上を今ここで望むのはおかしいだろ」
うーん。それ考えておかないとまずいぞ。他に女あてがわなきゃいけないし。
自分でややこしくしちゃったな、と反省する。
その時、『失礼します』の声と共に、抹茶ティラミスパフェが運ばれてきて、センセの前に置かれる。抹茶とティラミスってなんだよ。抹茶アイスにティラミスの層、白玉団子、チョコレートシロップ、見るからに甘そう。
「あ、ごめんね。妊娠してから、その、甘いものが食べたくなって。一応、皆にもきいたよ? あとうちの
いつの間に頼んでいたんだ。場を読む人なのに、場を読まなかったのは、調理場だ。でもチャスには助けになった。
ところで、怖い団長に言われてるのに食べていーの? 言うって相当だよな。それ妊娠のせいじゃなくて、結婚のストレスじゃねーの?
「俺は、お前の、その一口でいい」
王様が偉そうに指さすけど、センセはムッとしてた。なんだ、前は仕方ないなってくれる人だったのに。これが同じ魔法師になる、生徒、先生じゃない、同等ってこと?
「自分で頼めばいいのに」
そう言いながらもパフェを先に渡してるから、王様は違う、と首をふる。
「俺は、お前からの、その一口が、欲しいと言ってるんだ」
「リディア、相手にしなくていいです」
繰り返すマーレン、相変わらずだよな。先生をやめてリディア呼びにしているキーファも相変わらずだけど。
王様は「あーん」してほしいみたいだけど、センセはスプーンの追加まで頼んで、「自分でとって」とバルディア国王にすげなくパフェとスプーンを流しながら、チャスを見つめてくる。
「『大切なものは、目に見えない』っていうけど。“見ようとしていない”かな」
「なにそれ」
「
先生は告げた。
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