第23話.ever after (そのあと)
デカいベッドに大の字になって寝そべる向こうで、ミカエルがネクタイを結んでいた。
(でけーベッド)
自分が手を広げて寝ても、まだスペースも有り余る。
チャスは、ミカエルの家に引っ越してきていた。ミカエルは都心に三つのマンションを持っているが、居宅にしているのは一つ。その最上階の部屋を使っている。
同じ寝室は嫌だと言ったから、部屋は別。小さいほうのベッドルームを借りている。
でも夜は同じベッドのことも多い。最初は光の欠片避けだったけど、減った今でもなんとなく。じゃれつかれてくるけど、寝相は悪くないし、ベッドも大きいし、仕事帰りで夜遅い奴がチャスのベッドに潜り込んでくるのを邪険にするのかわいそーカナとか。
こいつが家主だし。コイツのベッドだし。
なんで、潜り込まれるなら、大きい方がいいってミカエルの方のベッドで寝ていたら、お許しが出たのかと堂々と隣に入って来たり、手を伸ばしてきたりするから、たまに手をピシャリと叩くけど、聞いちゃいねー。
(なんか。言い訳してるけど、俺も許してるしなー)
「なんで、こうなった、という顔をしてるな」
「――思ってねーよ」
朝の五時。ミカエルは朝が早いけど、チャスも惰眠をむさぼるほうじゃない。早朝バイトをしていたせいもあって、朝は自然に目が覚める。
ただ、ミカエルは出勤が早いのもあるけど、自分はもう少し遅くてもイイ。
結局仕事はアンジェラグループに復帰した。研究参加は考え中。グループの仕事だけでも能力をかわれて、十分な給料を貰えてるから別にいいし。
ただ賃貸も引き払ってメシ代も出してもらって、母親への送金もなくなって。
そうなると何を買っていいかわからなくなる。自分のための金なんて今まで考えたことがなかった。
服はミカエルが色々買ってくれそうになるけど、ブランド物を貢がせるのは嫌だし。
ミカエルも、実は質実剛健タイプらしい。戦場に行けば、ブランド品なんてどーでもよくなると。
みた目を着飾るのは、それらしくみせるため、と。そう言われてみて、それもそうかと思った。
(今度、キーファとかに訊いてみるか)
嫌みなくカジュアルブランドを着こなしていた友人を思い出す。聞いても詮索しないで普通にアドバイスしてくれそーだ。
そーいえば、と思い出す。
「チャス?」
「ん?」
「何か言いかけただろう」
「あー」
なんだっけ? 『なんでこうなった』か。確かに金持ちの男とこうなることなんて予想していなかった。
“愛人?” て聞くと全力で否定されて、しかもまたやられそうになるから言わない。なんでこんなに手が早いのか。
いつ飽きるのかもわかんないけど、今んとこそうでもなさそうだ。男女の仲だって簡単に離婚するから、ま、男同士だって同じか。
「思わねーよ」
思いそうになる時もあるけど。
「俺が選んだんだし」
『なんでこうなった』そう思ったらミカエルに失礼だ。
「なんつーの。俺、アンタのこと好きだしさ」
鏡でネクタイを結んでいたミカエルがスゴイ勢いで振り返る。
「チャス!!」
いきなりそのネクタイを取っ払って、シャツのボタンを外そうとする獣に叫ぶ。
「待て待て待て! アンタ今から仕事だろっ。盛んじゃねーよ」
全く。でも、好きって言ってやらなかったからな。のっかってくる獣の頭をとりあえず撫でながら、チャスは苦笑した。
「ところで、明日の晩、飯に行かないか」
「あー」
そうだ、ミカエルに言ってなかった。別に言う必要はないけど。
「俺、明日、同窓会つーか、学生時代の奴らに会うんだ」
さっき思い出したキーファとか気ごころ知れたヤツ。未だに連絡とってるやつらだけ。変なのは来ない。
それぞれの道を進んでて、卒業以来、簡易メッセージは送ってたけど、ミカエルのことは一切話してない。
ミカエルの顔が何を言うのか、と警戒しているような、真顔になる。
それに笑う。
「嫌な奴らじゃない。アンタも来る?」
「
あいつら驚くだろうな。何か言われるかもしんない。
嫌な奴らじゃない、差別的な発言はしないと思うけど、人はわかんねーし。
ただ、ちょっと……あいつらに会わせたかった。なんつーか、大事なやつらだったし。
「嫌ならいいよ、でも嫌な思いはさせねーよ。そんなヤツらだったら俺――アイツらと縁切っても――」
「チャス」
ミカエルが抱きしめてくる。アンタ、力入れ過ぎだって。
「それ以上は言うな。会わせてくれ」
なんか嬉しかった。それからと付け加える。これはちょっと言いづらい。
「あと、こないだのセンセも来る」
「……え」
あの時、妙にミカエルが敵対心、までではないけど微妙な顔してたのを思い出す。案の定だけど、ミカエルの身体が強張った、気がした。
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