穏やかな一日log(読むvlog)

 四月下旬。


 朝六時起床。ミネラルウォーターをコップに注ぎ、一杯飲む。


 洗面。ウェットシートで簡単に床掃除。ベッドメイキング。物音が聞こえたのだろう、姫が書斎の扉を開けて、こちらに飛びついてくる。しあわせのおもみ。かわいい。姫は朝型で、いつも私より早く起きて仕事をしているのだ。


 私達は1LDKに住んでいる。一室を姫の仕事部屋(書斎)として使っており、セミダブルのベッドはリビングにおいてある。姫の邪魔をしたくないので、私が書斎に入ることはあまりない。


 姫が私のそばに来て、仕事の続きをしだす。今はスマホのアプリでプロットを作っているらしい。「これだと、こっそり授業中に作業できるんです」だと。授業聞けよ。私も人のこといえないけど。


 朝ごはんにする。朝ごはんはオートミールのたまご雑炊。姫は白米が苦手なので、いつも玄米かオートミールにしている。


 私は絵の練習を開始する。まずは参考サイトを見ながら九十秒ドローイングを十体。終わったら、人体デッサン教本の模写をする。姫が趣味で書いている小説のコミカライズを担当するために、ひたすら努力する毎日。今日は姫の百四十字小説(度々SNSに投稿している)を借りて、ネーム構成の練習もする。つい説明的なネームになってしまう。難しい。


 時折、姫がすり寄ってくる。「なでろこうげき」だ。なでなでしてやると満足気に作業に戻る姫。かわいい。癒し力がすごい。


 九時になり、姫が図書館で仕事したいと言い出す。気分転換がしたいらしい。


 姫はプロットを細かく組むタイプなので、一番そこで頭を使うとか。


 二人分の水筒に水を入れ、歩いて図書館に向かう。自習室の扉を開ける。平日の朝だからか、私達が一番乗りだった。


 姫は作業の続き、私は原価計算の宿題をする。誰もいないので気兼ねなく電卓を叩く。宿題の内容は簡単だが、仕訳の枠に『材料消費価格差異』と毎回書くのがダルい。


 私達が通っている定時制高校は商業科だ。一年生は必修でビジネス基礎と情報処理と簿記の授業を受ける。二年次以降は選択科目になるのだが、私は会計の勉強がしたくて簿記の科目をとった。これで、姫の事務作業の手伝いができるのではないかと考えて。

 

 ちなみに原価計算は工業簿記の一部だ。姫が自費出版することがあったら参考になるかなぁ......


 一方で、姫はマーケティングを選択した。自己プロデュースの参考になるところがあるとのこと。それ以外は同じ授業をとっている。


 学校のプリントを埋め終わったら、次は検定の勉強をする。原価計算担当教師の意向で六月に電卓検定を強制受験することになった。どうせだし一級を狙う。


 隣の姫が難しい顔をしている。上手くいってないのかな。自習室内の自販機でいちごミルクティーを買って、姫に渡す。喜んでくれた。


「ちょうど糖分を欲してたんです。唯都大好き!」


はい。かわいい。


 お腹が空いた。ご飯を食べる前に、姫が図書館巡りをしたいという。結局一時間も付き合わされた。


 お昼は近くの月乃珈琲で。私も姫も「スフレドリア」を注文した。


 待っている間、姫は本を読んでいる。青を背景に雰囲気のある女の子がアップになっている表紙のハードカバーだ。さっき図書館で借りたらしい。


「どんな話?」

「……ミステリです」


 あ。機嫌悪そう。読書に集中したいんだな。

その後、家に帰ってダラダラする。姫は書斎に戻った。


 十六時半になって、急いで準備して学校に向かう。十七時からショートホームルームなんだが、学校の近くに住んでいるため、ついギリギリの出発になってしまう。


 今日の時間割は、原価計算(姫はマーケティング)、科学と人間生活、体育、現代文だ。おわかりいただけただろうか。現代文は寝る時間だ。


 うちの学校は一眼と二限の間に給食がある。だが、それまで待てないので、コンビニで買ったカレーパンを登校中に食べる。寄り道したせいで遅刻しかけた。パンをくわえて走る姫は、ヒロインそのものだったよ。かわいい。


 一眼が終わり姫と再会。今日の給食はミートスパゲティにコッペパン、大根のサラダに牛乳とプリンがついてくる。プリン。姫の目が輝いている。即渡す。代わりに牛乳と大根をもらった。この光景、空(姫の実姉)にバレたら怒られるだろうな。


 二限が始まる前に理科室に移動する。三限用の体操着も忘れずに持ちながら。


 節電のためか、特別教室棟にたどり着くまでの廊下に電気がついてない。かなり暗い。(特別教室棟も仄暗いけどな)


 授業が終わった後はもっと暗くなる。必要最低限しか明かりがついていない校内を歩くのは嫌だ。だって不気味じゃん。……私が怖がってんのは姫には内緒だぞ。


 外階段から体育館に向かう。


 体育ではダンスをやらされた。舞台祭で披露しないといけないらしい。舞台祭は定時制だけの学校行事だ。あ、舞台祭は六月にあるよ。検定も定期テストも六月だ。スケジュール管理能力バグってんのかこの学校。


 姫のダンスはモチャモチャしていてかわいい。運動神経は悪くないんだが、ダンスは苦手なんだな。かわいい。


 休み時間。


「唯都!この本、すっっごいです!」


 姫から、ミステリ小説を強くオススメされた。昼に借りて読んでたやつじゃん。もう読み終わったのか。


「ネタバレになるから何も言えないんですが……」


 どうやら、どんでん返し系らしい。気になるから私も読むことにする。どうせ四限は現国だ。本を読んでるだけ、他の寝ている生徒よりマシに見えるだろう。


 二十一時に学校が終わる。姫が図書室に寄りたいというから付き合う。遠くから、演劇同好会の発声練習が聞こえてくる。定時制にも部活動はあるのだ。


 図書室は二十一時半閉館、完全下校時刻は二十二時だから、さすがの姫も機敏に本を選ぶ。暇なので、図書室にいた知り合いとお喋りをする。……姫から睨まれた気がする。


「帰りましょう」


 姫が貸し出し手続きを済ませたようだ。タイトルはよく見えなかったが、桜の表紙の文庫本と「大どんでん返し」と書かれた文庫本、「叙述トリック」と書かれた単行本を借りたようだ。どんでん返しに飢えてんのかな?


 姫は夜に弱い。なので、帰宅後即、姫を風呂に入れるのが日課だ。姫は湯船が嫌いなのでシャワーだけで短く済ませる。


 眠気でぽけーっとした姫が出てくるので、強めの口調でスキンケアを促して、ドライヤーで髪を乾かしてやる。髪が長いのでひと苦労だ。乾かした頃には七割寝てるので、抱っこしてベッドまで運ぶ。おやすみのチューをして、一日が終わる……じゃなかった。私も風呂に入らなきゃ。


 私は髪が短いのですぐ乾く。化粧水乳液美容液筋トレ、さあ寝るぞ。おやすみ

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