3.俺氏、奴隷ちゃんを洗ったら美少女になった

 さて奴隷ちゃんは麻布の粗末な服に銀の首輪だ。

 ぎこちなく手を繋いで町の中を歩く。


 何から処理していこうか、うむ。


 気にして見つつ通りを歩くと、数多くの奴隷がいることが分かる。

 特に十二歳ぐらいの獣人、猫、犬、イタチ、ウサギなんかの女の子ばかりだ。

 男の奴隷はまず見かけない。


 今まで気にしていなかったけど、どういうことなのだろうか。


「なあ、獣人の子って十二歳ぐらいまでしかいないけど、まさか」

「いえ、獣人は見た目がその歳くらいで止まって、死ぬまでそうなので、みんな幼く見えるんです。あ、私は歳取ってるわけじゃなくて十一歳です」


 なるほど。


「みんな女の子だよな。男の子も女の子に見えるとかいうわけではないんだよな」

「はい。あの……男の子は繁殖用以外は小さいときに間引かれてしまうので」

「うっ……そういう世界か」

「はい。北の獣人の国には男の子もちゃんといますよ」

「そうか、そうだよな」

「男の獣人は暴力的、反抗的で飼いにくいため、需要がないんです」

「ふむ」


 従順な奴隷を求めた結果、男の奴隷自体に需要が少ないと。

 ヒューマンの場合は戦闘奴隷や鉱山などの過酷な労働奴隷として男の奴隷もいた。


 主要な獣人ちゃんはみんな背が低く小さいため、そういう用途に中途半端な男の子は必要とされていないということだ。

 逆にもっと大きい特殊な獣人種などでは重機のような扱いを受けている極一部の奴隷もいる。

 ただし、こいつらは扱いにくい上にお値段も高い。


 さて通りを進んでいくが、横を歩いているリーヤちゃんの目線が横の露店に吸い寄せられている。


「リーヤ、欲しいか」

「ん、ううん」


 首をがしがし横に振るが、その視線は真っ赤なリンゴにくぎ付けだった。


「おっちゃん、リンゴ二つ」

「え、でもご主人様」

「いいから、いいから」


 おっちゃんに銅貨を渡してリンゴを受け取る。


「一こずつだぞ」

「はい。ありがとうございます、こんな私のために」

「違う、違うんだリーヤ」

「はい?」

「『こんな私』じゃない。俺がリーヤに食べて欲しいから買ったの」

「そうですか。ありがとうございます」

「どうぞ」

「いただきます」


 見た目ボロボロの割には歯は健康なようで、リンゴにガブリと噛みついた。


 がりがりがり。


 リンゴになんども食らいついて食べていく。

 なかなかワイルドだ。


 俺もそれを眺めながらリンゴを食べる。

 なかなか甘い。

 蜜入りまではいかないが、全体的に甘味があり美味しい。


「んぐんぐ」


 もぐもぐもぐ。


「んにゃんにゃんにゃ」


 美味しそうに食べる。

 すぐに全部食べてしまった。残ったのは芯だけだ。


 その芯を名残惜しそうに眺めている。


「美味しかったか?」

「はい! ご主人様、美味しかったです!」

「そうか、そうか、よしよしよし」


 頭を撫でると、うれしそうに目を細める。

 耳が生えていて、とてもかわいい。


 そして町の中心地をだんだん離れていく。

 人気ひとけも少なくなった道を進んでいくと、リーヤちゃんは次第に不安がってか俺の服の裾を掴んできた。

 その手は明らかに震えている。


「別に変なところに行くわけじゃないよ。ただこっちなだけで」

「そう……ですか」

「不安かな? 大丈夫」

「はい。ご主人様を信じています。私を丸裸にして毛皮を剥いだりしないって」

「そんな怖いことするやつがいるのか、許すまじ」

「はい。獣人の頭髪ごと切り取ってかつらにするのが極一部で流行っているらしいです。あと全身剥製とかも」

「おっそろしいな」

「そう思います」


 道が途切れる。


 目の前には城塞都市内を流れる川がある。

 この辺は都市内でも上流部で水も汚れていない。


 下水道とスライム浄化装置とかもあるので下流でもほとんど汚れてはいないのだけど、上流部へ来たのは気分の問題だ。


 川の水を直接飲料水にしている人もいるけれど、多くは伏流水を井戸で汲んで使っている。


「はい、ついた」

「川ですけど」

「そうだね。この辺は浅いから。お水に入って体を綺麗にしよう」

「ごめんなさい、私、汚いですよね。手も繋いだりして」

「え、ああ、まあ」


 奴隷ちゃんが少し抵抗するが服を脱がす。


「恥ずかしいです」

「ごめんね。でも洗うには脱がないといけないから」

「はい、知っています。でも恥ずかしいです。責任……取ってください」

「あ、ああ」


 お互い赤くなってしまう。

 とにかく奴隷ちゃんを川の水で洗う。


「手は指の間も、後ろ側も、隅まで全部だよ」

「はい」


 俺が右手を洗ってあげて、左手を自分で洗わせる。

 前側は自分で洗ってもらう。

 俺は奴隷ちゃんの背中、お尻を洗う。


 うっ、背中に傷がある。

 詳細は分からないが、これは鞭の痕に見える。

 斜めに二本。


「なあ、背中の傷なんだが」

「奴隷商様が、鞭で……私がしゃべらないから」

「やっぱりあいつ」

「いいんです。私がしゃべらなかったから」

「まあ、そうだが」


 俺は一度、真剣な表情をして全身を軽く確認する。

 幸い他には小さな切り傷とかはあったものの、大きな傷はない。


 俺のポーションを取ってきて掛ける。

 これもそこそこの値段だが低級ポーションなのでそこまで高価ではない。

 金貨一枚の奴隷に比べれば十分安い。

 本音を言えばお財布的にはやせ我慢だ。


「ご主人様……ありがとう」

「いいんだ」


 洗うのを再開する。

 やましい気持ちはこれっぽっちもない。

 これは泥んこ遊びをしたペットの大型犬を洗うような気持ちだ。


 ずっとお風呂はおろか体を洗ってすらいなかったらしい。

 背中側だけでも垢がポロポロ落ちてくる。


「ちゃんと隅々まで洗うんだからな。洗い残しがないように念入りにね」

「はい、ご主人様」


 二人で手を動かして一生懸命に洗った。

 俺が残りの髪の毛とそれから顔を洗ってあげる。

 これで全身綺麗になったはずだ。


 俺の背負いバッグから普段使っているタオルを取り出して、奴隷ちゃんを拭き上げていく。

 無心だ。無心で拭く。何も考えちゃいけない。


 そうして水から上がった奴隷ちゃんにまたボロい服を着せる。


「おおぉおお、おま、こんな美少女だったのか」

「え、顔はかわいいって奴隷商にも言われましたよ」

「そうだけど、とびきりの美人ちゃんじゃねえか」

「そうですか。……ありがとうございます」


 そこにはめちゃくちゃ美少女がいた。

 服は奴隷服のままなので可哀想ではあるが、これはこれで。


 お肌も単に埃まみれで汚れていただけで、白くてすべすべだった。

 若いっていいよな、すべすべで。


 ご飯は貰えていたらしく、そこまで骨っぽくはない。

 痩せ型だけど、胸もほんのわずかある。


 歳相応のめちゃんこかわいい美少女ちゃんだった。


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