第3話 まだ見ぬ先へ
北陸新幹線はほとんどがトンネルなので、探検が終わると、景色が楽しめるわけでもないので少々暇を持て余す。
本来は旅先での話に花咲かせる様な時間なのかもしれないが、まだ伏せられたままなので話のネタにはならない。
無暗に突っ込んだ話も出来ないと思い、さっきの鉄道趣味について話題を広げることにしてみた。
「なぁ、つばめは鉄道関連好きなの?」
「別にそこまでガチじゃないよ、父さんと違って色々詳しい訳じゃないんだ。何種類か好きな子がいるだけで全然詳しくないんだよ。」
「って事はこの子は好きなんだ。」
「そうだね、この子は新幹線の中で一番好きなんだ。次が西日本の500だね。」
言われた名前をググってみる。確かにこの新幹線も、もう一つの新幹線もいかにも速いです!という感じがする。
他の新幹線も速さを追求した形なのだろうけど、この2機種はそれとは違う、言葉では言い表し難いが、人を惹きつけるカッコよさというものがある気がする。
つばめが好きなのもわかる気がする。
「なるほどな、見慣れた新幹線に比べると確かにかっこいいな。色見も違うし、なんか惹きつけられる。ちなみにつばめって新幹線もあるんだろ?」
「うん、九州にいる子なんだけど名前が同じだからなんか照れくさい様な、なんといううか、あはは・・・。それに九州だとなかなか行く機会も無いから本物は見た事も乗った事もないんだよねぇ~。」
確かに関東から九州ではちょっと行ってきますの距離ではない。
親戚でも居ればワンチャンあるかもしれないが、つばめの両親は九州出身ではない様なのでその可能性も無い訳だ。
「つばめは興味あるの?」
「もちろん、興味が無い訳じゃないよ。元々は私の名前の由来だし。前に言ったけど以前は好きになれなかったから、今みたいな気持ちにはなれなかった。
あなたが褒めてくれたから今は見たいし、乗ってみたいとも思えるようになったんだよ。」
ちょっと照れ臭そうにはにかむのを見て、ドキッとする。
そう思えるようになったのは俺きっかけなんだな・・・。
・・・・。
・・・・。
・・・・。
「どうしたぁ? なんか難しい顔しちゃって?」
「つばめ、前に言っていた新幹線になる前のつばめってどうなったか知ってるか?」
「在来線の特急つばめは廃止。だけど、つばめ用に使われていた車両自体は元気に走っているよ。」
「なぁ、今度の旅行はつばめに乗りに行かないか?つばめ自身の由来になった列車に興味が出てきてな。最愛の彼女の名前のルーツを触れに、本人を連れて行くなんて人生でなかなか体験できないしな。」
思いがけない提案に目も丸くしながらつばめは マ? と、すっとんきょな声を出す。
そんなつばめに俺は マ! と返す。
「ん? つばめどうした?」
身体をわなわな震わせている。よく見ればつばめはベソをかいていた。
「あのね、あたし嬉しいの・・・。あたしの名前を褒めてくれた彼氏がさ、由来元へ一緒に出掛けようって言ってくれるなんて夢にも思わなかったから・・・。
あの時好きになって良かった! 告って良かったってマジで思った。
嬉しいよぉ~、ありがとうぉぉ~。必ず行こう、一緒に行こう!」
気が付けばベソからギャン泣きになっていた。そんなに嬉しかったか、提案してみて良かった。
子供をあやす様に落ち着くまで頭を撫でて続けた。
暫くして車内アナウンスが流れ、間もなく目的地の長野に到着する事を告げる。
いよいよだ。
気が付くと手汗が出ていた。
つばめが再会と言っていた相手がここにいる・・・。
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