第2話 彼女の秘密
つばめからの告白を受け、自分もつばめが好きである事に気づき交際を始めた。
だが彼女から一つお願いをされた。
「あのね、今度連休が控えているじゃない。その時に温泉へ行きたいんだ、二人っきりで。行きたい場所や、やりたい事があるから計画やら手配はあたしに一任して欲しいんだ。」
それはいいとして問題はその後だった。
「すっごいワガママだと承知しているけど旅行までの間、恋人らしい事は控えたいんだ、デートとかさ。もちろんデートがダメなんだからキスもだめだよ。
あ、あと・・・エチチも・・・。」
我ながらドラマチックな交際スタート切ったと思っているのだが、あの告白の1時間後にそんな御無体な言い渡しをされるなんて思ってもみなかったわ。
そりゃ、つばめが好きだった事に気づいてなかった朴念仁だったが、晴れて恋人になったのならセックスはともかく(どうでもいいが、つばめのエチチって表現がとても可愛いと思った)、キスもデートもって・・・。
次の連休までまだ1カ月はあるのにだ。
長く感じると思いつつも、連休前となれば休みを確保する為に仕事がタイトになるのは世の定め。
俺らは連休を無傷で手に入れる為、いつも以上の残業を強いられ、なんだかんだと忙しい毎日を過ごしていた。
連休を1週間前に控えた頃、つばめからメールが飛んできた。
来週の宿等の予約は全て押さえたから安心してとの事。
この忙しい最中によくやったなと感心する。
先日も心配だったので手分けしようかと?と持ち掛けたのだが、
「これはあたしのワガママとちょっとした夢が掛かったプランなのであります!
そっちは無傷で連休を迎えられる様、仕事に集中してちょうだい。
・・・心配してくれてありがとう・・・。」
こうまで言われると、任せるしかない。
こっそりと彼女の仕事を少しこっちに回して負担を減らす小細工をし、彼女があまり残業しない様に過ごさせた。
時は流れ無事に双方完遂し、無傷で連休を迎えられた。
出発当日、俺は東京駅に呼び出されていた。但し、何処に行くかは未だに教えて貰っていないしチケットもない。彼女と合流して初めて明かされるのだ。
行先がわからないと準備も困る。特に服装はどうしたものか・・・。
仕方ないので薄目を何枚か重ねて調整する様にしてみた。
〇泉洋はこんな感じでいつもロケに行っていたのかと思うと同情する。
腕時計に目を落とすと、そろそろつばめとの合流時間になる。
おまたせ!と嬉しそうにはしゃいでいる姿を見ると天使に見えてしまうから不思議だ。
いつものアクティブ路線のデニム姿と違い、ボードネックにロングスカート、アクセントになっているウェストマーク。
彼女を見て、驚きもしたが精一杯おしゃれしてくれているのが嬉しい。
「どうかな?いつもと違うからびっくりした?」
「すごく素敵だよ、見惚れた・・・。 語彙力無くてスマン。」
顔を赤らめまんざらでもないつばめは、お世辞や贔屓目なく可愛い。
それに今日はやけに胸元を強調している。いや、され過ぎている。
つばめは確かに巨乳の部類だが普段はあまり目立たない様にしている。
それを今日は惜しげもなく?目立たせるとは・・・、つばめの気合を感じる。
「さて、つばめさん。この旅行の目的地は何処でしょうか?もう教えてくれるよな?」
待ってましたと言わんばかりにいたずらっぽい顔を作る。
「色々想像していたと思うけど、何処だと思う?」
まぁ、ここまで引っ張ってきてあっさり聞くのも面白くないかと思い率直な考えを答えてみた。
「予想できないから薄着を重ねておるのだよ、つばめさん。なので気温がめっさ低い所に行ったら死にます。」
「そうだよねぇ~、服装の話だけはしておけば良かったね、ごめんね。」
と、ペロッと舌を出しながら拝み謝るつばめを見せられたら責められなくなる。
気を取り直し、俺は続きを話す。
「あとパスポートねぇから海外も困るぞ。」
ええっ!と驚くつばめ。
そりゃいくら何でも言って貰わないとさすがに無理だろ?
「あたし、アラスカでオーロラ見るのが夢だったのに行けないじゃん!」
「そりゃ初耳だが、また今度な。大体温泉に行くってのにアラスカはないだろう?」
おぉ!と手をポンっと叩くつばめ
「さあ、本当は何処だ!?吐け!つばめ!言わない奴はこうだ!」
と、つばめを擽り倒す。
人目を憚らずはしゃぐバカップルとはこのことを言うのだろう・・・。
降参、降参wとケタケタ笑い転げるつばめは息を整えながら答える。
「あぁ、苦しかった!それじゃ改めて伝えるね、今回の目的地は長野です!これから30分後に出発する北陸新幹線に乗りますよぉ~。」
とりあえずアラスカは回避出来たが、現地で調達が必要かもな?と内心思う。
「んで、北陸新幹線は喫煙所無いから先にそこの喫煙所で吸って貰ってから行こうっと思ってさ、待ち合わせ此処にしたんだ。」
こういう気遣いが出来る所がつばめに惚れたところの一つだろうな。
本来吸わないつばめにとってはやめて欲しいのかもしれないがあえて言わないし、禁煙を強いられる時間の前にこうやって時間を設けてくれる。
「つばめ、ありがとうな。心遣い嬉しいよ。」
「そうだろう? そう思うなら大事にしろよwww 吸うのは5分も掛からないよね?飲み物でも買ってくるよ、ブラックのホットがいいかな?」
俺の全てを把握してやがる。叶わないな、つばめには。
こんな大事にされているなら俺もつばめを大事にせんと罰があたるな。
「ありがとう、それで頼むよ。匂いが気にならないなら荷物預かるよ。」
「そうだね、宿泊施設に消臭剤あるだろうから気になったらそれ使うからお願いしようかな?」
そうしてタバコと買物を済ませて、新幹線ホームへ進む。待ちわびた旅行であり恋人らしい事の解禁。ホームへ向かう際はどちらかでもなく、手を握って進み始めていた。
指定号車の立ち位置に並んでいると新幹線到着のアナウンスが流れる。
これから乗り込むとなると旅に出るんだなぁと改めて認識する。
今回はあのつばめと二人っきりだもんな、昂らない訳がない! と一人で嬉しさを噛みしめていると、相方はカバンから何かを取り出していた。
ミラーレスカメラ?と思っていたら反対の手にはミラーレスにはオーバーサイズ気味の望遠が握られていた。手慣れた手付きで本体に装着し、入線してきた新幹線を撮り始めていた。
「はぁ~、E7かっこいいわぁ~!全新幹線の中で一番イケメンですわ~、ドュフフフ・・・。」
・・・・。
つばめさん、もしかしてお父さんの血を色濃く引き継いじゃったかな?
こっちの視線に気づいたつばめは、コホンと咳払いして、何も無かった様に振る舞う。
つばめ・・・、もう遅いと思うぞ。
乗車可能になった新幹線に乗り込む。
二人掛けの指定席が二人だけの空間になるのかと思うとドギマギする。
全く童貞を拗らせるとこうまでひどいか?と思っていたがつばめも赤面している。
さっきまで鉄子を全開で晒したと思ったら今度は乙女全開。
全く以てつばめは飽きない、もっと早く知っていれば良かったと後悔をする位だ。
新幹線が走り出す頃には恋人繋しながら頭を俺の肩に乗せてくるつばめ。自分で設けておきながらやはり寂しかった様だ。
つばめの顔は心底嬉しそうだった。
そんなつばめに話し掛ける。
「今回の旅先は長野だけどお目当てがあるわけ?」
頭をスッと動かし、俺に顔を向けて話す。
「あのね、今回は数年振りに再会する事になるんだけどさ。再会したらそこでやってみたい事がどうしてもあるんだ。それで無理言って我慢して貰ったり、行先内緒にしていたんだ。だからね、もう少しあたしのワガママに付き合って欲しいんだ。お願い!」
ここまで言われてしまったら付き合うしかなかろう。
つばめのお願いだし、何より執着とも言えるこの言動には何か深い訳があるのは薄々感じていた。ただ気になるのは再会と言う言葉。
誰だろうか・・・。 親族? それとも・・・。
俺はつばめを信じて乗っかるしかない。彼女を信じてやらねば彼氏じゃないぞ!と自分の気持ちに言い聞かせつつ、つばめに話し始めた。
「つばめに任せる、だからつばめが言いたいタイミングで話してくれればいいから。」
「うん、ありがとう。何も聞かずにワガママに付き合ってくれて。あたし・・・。」
ちょっと泣きそうな顔のつばめの気を紛らわそうと俺は言葉を遮る。
「なあ、つばめ。この新幹線には初めて乗るのか?」
突然の問い掛けにキョトンとするつばめ。
ほんの一瞬の間を空けて答えた。
「うん。この子に乗るのは初めてだよ?どうかしたの?」
「そっか、なら今から前から後ろまで一通り歩いてみないか?俺も子供の時に初めて乗る時ってそうしていたの思い出してさ。つばめがこの新幹線が好きなのはホームでわかったし、初めて乗るなら尚更じゃないかって。
二人で歩けば一緒だからつばめは新幹線を堪能しつつ、俺は新しく見るつばめの一面を堪能できるスペシャルプログラムだ、どうだ?」
「え?いいの? なんか引かれちゃうかなって思っててさ。ちょっと心配だったんだ。この先でも、もしかしたらさっきの話をする際も引かれちゃうんじゃないかと・・・。」
見せていない一面を曝け出すのは勇気がいる。
しかもそれが相手に好意的に受け入れられるものか保証はどこにもない。
つばめが不安がるのももっともだ。
逆に俺だってそうだ。いくらつばめが大丈夫、受け入れるよと言ってくれても目の当たりにするまでわからないのだから。
だから俺は率先してそれに付き合おうと思うのだ。
もしそれが良ければ一緒にできるだろうし、やはり受け入れられないなら一緒にできなくてもそれ自体を否定せず、つばめが今まで通り出来る様にしたい。
そうするにはまずは相手に飛び込んで不安要素を取り除いてやらねば心開けない。
「見てもいないし、体験もしていないんだぞ。それに今回はつばめの同じ趣味に付き合うのではなく、しているつばめを見て楽しむプログラムだ。もし俺が同調して楽しめるならそれでよし、そうでなくても楽しそうにしているつばめが見れるならそれは俺にとってもプラスなんだ。という事で行くぞ、つばめ。」
嬉しそうにするつばめの手を引いて俺らは車内探検に繰り出した。
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