第3話 地獄

「咲希ちゃんっ! 咲希ちゃんっ! 咲希ちゃんっ!」

「亮太くんっ……んっんっ」


 薄暗い部屋の中。

 ギシギシと軋むベッドの音。

 部屋中に充満した汗の臭い。


 亮太くんは必死にアタシを求め、最後は中に出してくれた。


 行為が終わったあと、アタシたちは裸で抱き合う。

 亮太くんとハグするの好き。

 心がポカポカする。

 本当に幸せだ。


「ねぇ咲希ちゃん、もう一回しない?」

「え? さっき5回もしたのに、まだできんの?」

「うん、まだまだできるよ。あと2回はしたいかな」

「……」


 さっき連続で5回もエッチしたのに、まだできんの……。

 さすが大学生、凄い体力。


 旦那はいつも一回しか求めてくれないのに……。


「ねぇ咲希ちゃんいいでしょ……? 俺、もう我慢できないよ」

「ったくしょうがないなぁ……。あと2回だけだよ? 分かった?」

「はいはい、分かってるよ」


 再びアタシたちは大人のキスをする。

 キスしながら相手の大事な部分を刺激し、

 

「咲希ちゃん、するよ?」

「うん、おいで……」


 再び旦那以外の男と生で繋がった。




 ◇◇◇





【主人公 視点】





 仕事が終わり、自宅に帰ってきた。

 俺は家の扉を開けて、中に入る。


「ん? なんだこれ?」


 玄関を見て、違和感を覚えた。

 俺、こんな靴持ってなかったよな?


 玄関に知らない靴が置いてあった。

 たぶん、男の靴だ。

 家に誰かいるのか……?


「んっんっ……」


 突如、寝室から女性の甘い声が聞こえてきた。

 この声は咲希か?


「んっんっ……んっんっ」


 再び寝室から咲希の甘い声が聞こえてくる。

 あいつ、寝室で何してんだ?


 なんだろう……。

 胸騒ぎがする。


 本能が寝室を覗くな、と訴えてくる。

 たぶん、寝室を覗いたらショックを受けるだろう。

 そんな気がする。

 

 けど気になる。

 恐怖よりも好奇心を優先し、俺は静かに寝室へ移動する。


 ドアの隙間から寝室の中を覗くと、咲希と謎の男がいた。

 二人とも裸だった。

 大事な部分が丸見えの状態。


「咲希ちゃん、気持ちいい?」

「うん、すっごく気持ちいいよ……」

「旦那さんよりも?」

「うんっ……亮太くんが一番だよ♡」


 寝室の中を見て、俺は絶句した。

 頭の中が真っ白になった。


 咲希、何してんだよっ……。

 お前は俺の物だぞ?

 なのに、どうして……。


「今日の咲希ちゃん、激しすぎるよっ……」

「だってぇぇ、亮太くんのこと大好きなんだもんっ……」

「ははっ、そっか」


 裸の咲希は男の身体に跨り、幸せそうな表情を浮かべていた。

 あんな幸せそうな顔初めてみた。


 旦那の俺にも見せない女の顔を、謎の男に向けている。

 それを見て、ギュッと胸を締め付けられる。


 やめろっ、そんな顔するなっ。

 今すぐあの男から離れろっ……。


 ギシギシとベッドの軋む音。

 咲希のトロトロに蕩けた甘い声。

 寝室中に充満したオスとメスの下品な臭い。

 

 全てが俺を絶望に染める。

 

「咲希ちゃん、中に出すよ?」

「うん、いいよっ……きて」


 なんだよこれ。

 本当に現実か?

 

 あまりのショックに、思考力が失われる。

 視界が歪み、キーンと耳鳴りがする。

 脳が破壊されたような感覚を感じた。

 

 この感覚が脳破壊ってやつか……?


 プレイが終わり、二人は恋人のように抱き合っていた。

 今の二人は夫婦のように見えた。

 けど違う。

 アイツらは夫婦じゃない。

 咲希は俺の物なのに……。

 

 クソっ、何がどうなってるんだっ……。


「咲希ちゃん、もう一回しようぜ」

「え? もう一回? けど、そろそろ旦那あの人帰ってくるし」

「大丈夫、大丈夫。まだ帰ってこないよ。だからもう一回シようぜ。なぁいいだろ?」

「はいはい、分かったよ。あと一回だけね」


 再び咲希と謎の男は恋人のように肌を重ね合う。

 AV顔負けの下品なプレイを夫婦のベッドで楽しんでいた。

 

 やめろっ。

 俺のベッドでそんなことするなっ……。


「っ!?」


 気分が悪くなった俺は家を離れて、近くのスーパーにやってきた。

 スーパーの中に入り、男性用のトイレに駆け込む。


「うえぇぇぇ……」


 今日食べた物を吐き出してしまう。

 何度も大便器の中に吐き出す。

 ついでに妻との幸せな思い出も吐き出したかった……。

 

 クソっ、なんでこうなったっ。

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