第2話 あなたとの出会い
慣れないローファーに足をいれると、かかとにピタリと張り付く硬い感触が緊張感をよりいっそう大きくさせた。
まだ使わないであろう教科書の束は、綺麗に向きまで揃えられ、硬いカバンの中で整列している。
こわばった心とは裏腹に、街はいつも通りのどかな日常を演出していた。それは緑がゆらめき、柔らかい光が辺り一面を照らした晴れ晴れとした風景だった。とはいっても、この街に馴染みのない私は目の前に広がる優しい風景に目を向ける余裕などなく、孤独なまま足を運んだ。心休まらない、長い一日のはじまりだ。
教室ははやくも人で溢れていた。しまった。もう少し早く来て自分の場所を作っておくべきだったとドアの前で小さな後悔がひとつ積もった。
座席表が黒板に張り出されていたので、後ろからの視線を感じながら自分の席をさがす。窓側の、前から3番目の席だった。窓側でよかった、と今度は小さな安堵。
教科書の整理をしていると、あっという間に授業の時間になってしまった。
英語の授業はどうしてもコミュニケーションにおける実践的な活動が組み込まれる。初回の授業は、自己紹介がてら英語で会話してみようというのがセオリーだ。
学校が始まって未だまともにクラスメイトと話したことのない私にとってこの時間は乗り越えるべき試練の一つである。ましてや苦手な英語を駆使しての会話。
基本のキホンの表現を忘れてうまく話せない恥ずかしさ、、、想像するだけで変な汗がでてくる。
「じゃあみんな、席から離れてもいいから、歩き回って自己紹介していこう。先生も参加するから、サボらんように!自己紹介でゲットした友達の情報をプリントに書き込んでいけー。」
始まりの合図だった。わたしは恐る恐る立ち上がり顔を上げた。目が合ってしまった。
「おはよ。あ、ハローか!わたし由依、よろしくね!I...I like cooking a cake... えーと、食べることも好きです!」
話しかけてきたのは小柄で大きな眼をした、まるで今日の太陽のように明るい女の子だった。
「どうも」と、とっさのことにぶっきらぼうに返答してしまう私。
「英語ではなさなくちゃだめなんだろうけど、いきなり話せないよね。あ、一緒に回ろうよ!」
なんとも心強い。そして眩しい。私は心から感謝し、流れるままにクラスメイトと初めて自己紹介を交わすこととなった。私にとって不慣れ極まりない他言語で。
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