(7)
「座長か仕掛け人かが協力して伝えている、って方法も考えましたけど、違うようでしたしね」
右手の串を回転させれば、それは五銭銅貨へと姿を変える。
あの時、藍次は五銭銅貨を箱に入れたと見せかけて、団子の串とすり替えていた。硬貨の音は、別の手に硬貨を持ち、金属の箱を押さえるふりをして外側から軽くぶつけて出したものだ。
「座長は銅貨だと思い込んでいたから、答えを天元に伝えていたわけではない。天元はちゃんと串だと言い当てましたからね」
藍次のすり替えに、あの場にいた者は誰も気づかなかった。ならば、天元は箱の中身を直接見たに違いない。中身を見て彼女が驚いたのは、銅貨だと思って覗いたら中身が串だったからだ。
「あれはこっちの方が見ていてヒヤヒヤしたよ」
「ちゃんと誤魔化したでしょう? 結果的に盛り上がったんだからよかったじゃないですか。別に俺は同業者を潰す気はありませんから。……ま、何にしろ、あんたが期待するような本物じゃあない」
藍次はきっぱりと言い切った。
「あんたも分かってたんでしょう?」
「まあね」
あっさりと答えた当麻に落胆の色は無い。出し物の途中からつまらなそうな表情をしていたから、その時にはすでに分かっていたのだろう。
「分かるんなら、俺は必要ないでしょうが」
「それはほら、一人で見るより二人の方が楽しいからね」
冗談なのか本気なのか分からないことを言う当麻に、藍次はやれやれと呆れた息を吐く。
「……あんたのお眼鏡にかなうような本物なんているんですかね」
それは、何の気なしに出た言葉だ。
本物の心霊現象に出会いたいと願いながらも、当麻には、大抵のものは偽物だと分かってしまう知識がある。そんな彼が満足するような『本物』なんて、この世にあるのだろうか。
藍次の軽口に、しかし当麻は黙り込んでしまう。
返事が返ってこないことを不審に思った藍次は、隣の当麻を横目で見やった。当麻は前を向きながら、以前も見たことのある、どこか遠い場所を見る目をしていた。
昔の記憶を辿る目だ。懐かしくも、伴うのは痛みか。当麻の彫像のような白い眉間に、かすかに皺が寄った。
「いるよ。少なくとも一人、僕は知っている」
「へえ」
意外な答えに、藍次は内心で驚いていた。藍次の驚きを知ってか知らずか、当麻は訥々と言葉を続ける。
「昔ね、僕が手の中に隠した物をすべて言い当てる人がいたんだ。彼女がどうやって当てていたのか、僕はどうしても分からなかった」
「じゃあ、その彼女とやらに研究に協力してもらえばいいんじゃないですか?」
藍次が軽い気持ちで提案すると、当麻は目線を落として微笑んだ。
「残念だけど、できないんだ。彼女はもう、亡くなってしまったから」
「……」
さすがに返す言葉が思いつかずに押し黙る藍次に、当麻はようやく視線を向けてきた。
「藍次君、千里眼事件を知っているかい?」
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