(26)
当麻は、藍次から得た情報で、清一と親しい者が犯人だと目星をつけた。それを踏まえて、講義で清一の幽霊の話題を出した。
犯人を炙り出すためだ。
その後、須藤と島崎の二人が訪れた時に、当麻の部屋や隣室で起こったポルタアガイストは、先ほどの子供達……汰一と乙也が作り上げた偽物だ。
ポルタアガイストや交霊会で有名なハイズウェル事件においても、結局のところ全てトリックであったと、フォックス家の姉妹達が告白している。彼女達は、膝関節を故意に脱臼させることで霊の出す音を作っていたと言う。
当麻はそれを真似して、ポルタアガイストを再現してみたのである。
奇妙な物音は、汰一が関節を鳴らしたり、乙也が義足で床を叩いたりして出したものだ。ちなみに二人は、当麻の部屋に置かれていた人形に扮していた。日本人形が汰一、西洋人形が乙也である。
曲芸団育ちの二人は幼い頃から訓練しており、関節を自由に外したり戻したりすることができる。『からくり人形』の演目をこなす二人が、人形に扮することは簡単なことだった。
そうして、二人が出した音の出所をごまかし、かつ隣の部屋に誘導するために、当麻は壁の方を見て須藤達の意識をそちらに向けさせた。隣室にいる間に、当麻の部屋を徹底的に散らかして大きな物音を立てたのは、もちろん汰一と乙也だ。
その後、当麻の合図――隣室で窓を確認するときに開け閉めした際、屋上に向かって手を振った――で、清一に扮した藍次は屋上から垂らした綱に体を吊るし、当麻の部屋の窓の前に現れた。
こうして、ポルタアガイストと幽霊が完成した。
また、交霊会に現れた幽霊も藍次だ。
交霊会前に窓を封鎖したのは当麻であったが、その際、密かに窓を開けておいた。厚いビロードの布を上から張ることでそれを隠し、下の方は釘で留めず、ガラクタの将棋盤で押さえておいた。藍次が中に入るための仕込みだ。
蝋燭が途中で消えたのも、あらかじめ中の芯を切っておき、決まった時間になれば勝手に消えるように仕込んでいたからだ。時間を見計らって霊との交信を行い、清一が『殺された』というメッセージを終えたところで消える予定だったが、若干のズレが生じた。そこで当麻は機転を利かせ、あのイニシャルの『S』まで出させた。
ちなみに、ウィジャ・ボードに残った血の跡は当麻が付けた。ハンカチの内側に赤いインクを染み込ませて置き、皆が混乱している間にハンカチを裏返してインクを擦り付けておいた。
その他にも、尤学館大学での幽霊の目撃情報を増やすため、藍次や汰一達は動いていた。
林の中で宙に浮いた幽霊は、薄暗い林の木々に黒く細い綱を張り、その上に藍次が立ったものだ。硬く丸めた布に燃料を染み込ませて火を灯し、糸に吊るして飛ばせば人魂のできあがりである。曲芸団仕込みの仕掛けや技を使って、藍次達は数々の怪奇現象を作り上げた。
怪奇現象を起こすことで、犯人を精神的に追い詰めるためだ。本当に清一の幽霊がいると思わせ、犯人が何かしらの動きをするのを待った。
一番怪しいのは古賀だと、当麻は推測した。
まず、島崎ではないことは確信できていた。清一よりも小柄で非力な彼が、一人で清一を殺し、その遺体を誰にも見つけられないように隠すのは無理だ。
そして、須藤も除外した。交霊会で分かった犯人のイニシャルが『S』で須藤自らを指しているのに、まったく気に留めた様子がなく『犯人を探さないと』と息巻いていたくらいだ。
古賀はといえば、交霊会の後に訪れて、話を逸らすように清一の身の上話をして、別に犯人がいるように思わせた。
当麻は古賀を主に、念のために須藤と島崎の動きも監視した。協力したのは新楽曲芸団の者達だ。そして目論見通り古賀が動いたことで、清一の遺体を発見するに至った。
汰一や乙也、曲芸団の者達には今回働いてくれた代金を払わなくてはならない。だが、そもそも依頼したのは藍次であり、藍次がその代金を払うべきだ。
しかし、当麻はすべての費用を払うと申し出ていた。お金よりももっと重要なことがあったからだ。
当麻は目の前にいる藍次を見つめる。
「さて、藍次君。最初の約束通り、教えてくれるかい?」
当麻はそれを聞くためにここに来た。自分で費用を負担してまで、藍次に協力したのだ。
「なぜ君は、行方不明の支倉君がすでに死んでいたことを……『ナイフで腹を刺されて殺された』ことを知っていたんだい? 支倉君が最後に会っていたのが彼の親しい人物であることを、なぜ知っていた?」
「……」
「君は、一体何者だ?」
問いかけに、藍次は一度目を伏せる。やがて、一つ息を吐いて当麻の目を見返した。
「俺は、
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