双頭の狼男

私は怪しい実験棟から逃げ出した。


自分でも信じられないような力と脚力。


彼らに何かされたに違いない。


生きる気力を失っていた。働くのが面倒になっていた。


しかし、生きる力、食欲は満たしたいので、金が欲しかった。


強盗をしようとか、何か不正をしようとまでは思わない。


真面目だけが取り柄だったが、真面目に生きていても生き続けられるとは限らない。


友人にある治験のバイトに誘われたのが運の尽きだった。


信頼していたと言えるほどではないが、裏切るとは思っていなかった。


同じ薬を注射されていた人々が次々に元気になっていった。


元気になりすぎて、あの特有の目の輝き、


生命力を漲らせた私を突き刺そうとする瞳の輝きを帯び始めたのである。


彼らと私はこの一週間健康になり続けたと同時に人間の特徴から少し外れていった。


だから私は逃げたのだ。今なら、この異常な力を持っていれば何とか逃げられる。


そう思って、私は叫びながら森を、山を駆け抜けていった。


ああ、なんと心地いいんだろう。生まれてからこんなに気分のいいことは初めてだ。


恐怖は消え去り、逃げ切れたという安心と肉体の充実感が私を満たしていた。


私は見た。


山の頂に不自然にそびえる不気味な岩を。


私は震えた。


岩の先に立っている二つの首を持つ狼。


首から下は人間のようにも見えるし、類人猿のようにも見える。


その双頭の狼男が、胸に続いて腹を膨らませ、思い切り背を逸らせた。


瞬間、耳を塞いだ。


男のような、獣のような、女のような、虫の羽音のような、全てが混じり合ったような巨大な二重奏が耳を襲った。


私はその場でうずくまり、泣いていた。


マスクと白衣の、武装した男たちが私を取り囲んでいるのに気が付いた。


あぁ、彼らを探さなくては。


私は白衣の男たちを、〇、△、□、×と弄びながら切り裂いて、


あの双頭の狼男を探すために走り出した。


新しい目標と新生活に、胸が躍るのを感じていた。

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