私は用意周到にも君を観察していた。

ひと月前に君をあの店で見かけてから僕は隠れながら君を見ていた。

最初は偶然だったのだ。僕は運命は信じない。

積み重ねた努力と偶然が勝手に僕の前に陽炎のように浮かび上がるだけだ。

人の影に隠れながら僕は少しづつ、本当に少しずつ君に近づいて二週間前に

君の隣人になった。

その後も僕は用意周到だった。

隣室の壁に隠れて君を観察していた。

いくつかメモを残したが、それが役に立つかどうかはわからない。

一週間前に上の部屋を借りた。

冷えた床を爪でするりと撫でると少し指先がかゆくなる。

天上に隠れて君を観察していた。

今日、深夜、少し空気の冷たい静かな夜、入念に張り巡らした糸が部屋中に。

僕は天井から糸を垂らしながら逆さに君の横に降りていく。

八本の手足を少しも動かすことなく。

音を動かすことは容易だが、静かな夜には静かに動く。

ようやく君の顔を隠れずに見ることが出来た。

僕は君の部屋と一体になった。

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