第17話 Buenos días.
「おーい、起きろー」
翌朝八時、ジュンは布団を無理矢理持ち上げてマナカの顔を覗き込んだ。部屋いっぱいに差し込む朝日から目を守ろうと、マナカは必死で布団を引き戻す。寝不足がたたって喉の辺りがぐるぐると気持ち悪く、到底起きる気にはなれなかった。
「嫌です。寝てたいです」
「でももう朝食の時間だ」
「いらない」
「こら」
珍しく厳しい声色に、マナカは反射的に肩を震わせた。布団の中から見上げると、ジュンはマナカの目をまっすぐに見つめて、噛んで含めるような口調で話しだした。
「ホームステイはホテルとは違うんだ。相手の生活リズムに合わせて行動して、親切はきちんと受け取ってお礼を言う。コミュニケーションを取ることも俺の仕事だし、マナカの勉強だろう」
「……すみません」
マナカは反論できず、唇を引き結んで目線を落とした。あくびを噛み殺しながら起き上がろうとすると、ジュンはすっと手を伸ばしてきて、マナカの腕を掴んだ。
「寝れなかったんだろ」
ジュンに引き起こされたまま、マナカはぴたりと固まって動けなかった。まばたきを繰り返すマナカを見て、ジュンは薄い唇を優しく緩めた。
「悪いな。後でご褒美買ってやるから朝は付き合ってくれ」
「え? それは子どもみたいなんでなんか嫌です」
ジュンは軽やかに笑って、高校生は子どもだよ、と言いながらマナカの頭を撫でると、ベッドの端に腰掛けた。マナカは着替えを済ませて一階の洗面に降り、顔を洗って寝癖を軽く直してから、再び部屋に戻る。一度体を動かしてしまえば脳みそにこびりついていた眠気は霧のように姿を消した。部屋の窓から見える外の景色は力強い日差しに燦々と輝いていて、マナカの胸に健全な高揚感を運んできた。
「Buenos días.(おはよう)」
いささかシャッキリとしたマナカの表情を見て、ジュンが満足そうに言った。マナカはその朗らかな響きを精一杯記憶しながら、できるだけ近い発音で同じ言葉を返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます